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辰二郎さんの甥・栄吉さん登場 <C2354>

 深川の辰二郎さんに秋葉神社への寄進料を立て替えてもらっている格好になっているため、それを支払う必要がある。

 そこで、萬屋さんに預けられたであろうマヨネーズ(繭寧酢)のレシピ代40両から25両を引き出すため、まずは萬屋さんへ向かった。

 萬屋さんでは、大番頭の忠吉さんが対応してくれる。

 様子を聞くと、もう必要は無くなっているはずなのだが、毎朝の松平越中守様のお屋敷への御用聞きは続けてくれているようだ。

 明日、幸龍寺で開催される仕出し膳料亭の座の寄り合い準備で、千次郎さんは八百膳に出かけており不在とのことだった。

 忠吉さんに、深川・辰二郎さんの工房へ代金を届けるため、金庫のお金を出したい旨伝えると、二階へ案内された。


「まだ名内村とばかり思っておりましたが、もう戻られておりましたか。主・千次郎は、明日の座の寄り合い準備のため、八百膳に出かけており、不在で御座います。もし工房の御用が早めに済みましたら、是非、八百膳へ顔を出して頂ければと思います」


 24日から名内村へ視察に行くことは話しているのだから、28日の座の寄り合いは間に合わないと思っているに違いなかろう。

 少なくとも義兵衛が不在のまま乗り切る覚悟を固めて準備をしているに違いないので、ここへ顔を出したのは迂闊だったかも知れない。

 今日の明日だから、今更ということかも知れないが、方向がブレないかだけは知っておいた方が良いかもしれない。

 いろいろな考えが交錯するが、結局のところ忠吉さんの依頼を了解し、金庫から金25両と念のため銀で60匁を取り出すと懐に入れて萬屋さんを出、深川へ向かった。


「おう、義兵衛さんか。ちょっと見なかったけど元気そうで何よりだ。お前さんがいないと、この商売がずっこけると思っているので、顔を見ないと余計な心配をしちまうぜ。何かあったら、こちとらも店仕舞いするしかねぇ所にまでなっちまった」


 相変わらずの様子で安心した。


「先日は秋葉神社御印の祈祷・寄進をされたと喜六郎さんから聞きました。入用なものを先に渡しておらず、大変失礼しました」


「暑い盛りだし、ややこしい話は職人達の前では何だから、奥の座敷へ上がってくんな」


 安兵衛さんと一緒に座敷で待っていると、辰二郎さんとそれにくっついて小ざっぱりとしたなりの若者が上がってきた。


「工房の商いも賑やかで手に負えない状況になってきたので、兄貴に頼み込んで算盤ができる甥を回してもらったのでさぁ。油問屋で丁稚を始めていたので、商いのやり方には多少心得もあろうと思って目を付けていたのさ。

 兄貴っていうのは、ほれ、萬屋謹製焜炉を作ってもらっていて、ここを紹介してくれた辰郎兄貴のことだよ。あそこは子沢山で、三男坊を『ここの跡取りにしたい』と言ったら出してくれたのさ。

 それで、上手くいけば、ここで金回りの雑用は全部見てもらおうと考えて仕込んでいる最中なのよ。思った通りに行けば、あっしはまた職人と一緒に、大好きな土イジリが存分にできるというもんでさぁ」


「栄吉と申します。叔父からしごかれている最中です。義兵衛様のことは父や叔父から良く聞かされており、長い付き合いになるとも聞いております。よろしくご指導ください」


 きちんと挨拶をする栄吉さんを見て、これは面白いことになりそうだ、と内心思った義兵衛だった。


「それで、今日こちらに伺ったのは、費用のことです。

 昨日用があって秋葉神社に行った時に『辰二郎さんが7月生産の七輪に押す御印にお払いを受けにきた』と聞きました。その折に1万個分の25両を納められましたね。

 この費用は、本来私が出す必要があったものですが、いろいろと所要が多く、こちらに顔も出せず大変申し訳ないことをしました。おそらく立替されたものと思い、本日持参しました。お検めください」


 義兵衛は懐から25両を包んだ懐紙を出し、辰二郎さんのほうに差し出した。


「栄吉、言った通りだろ。義兵衛さんは真っ当なお方だ。こちらからあれこれ言わんでも、事情を察すればきちんと対応してくれる。

 ほれ、25両、きちんと検めて棚の埋め込み金庫にしまっておけ。

 こうやって金払いは間違いないし、なによりもこの工房の職人達の手当てのことまで見通してくれているんだぜ。あとは、こちらがよこしまな思いを持たずに、精神誠意良い物をきちんと作って行けば良いのさ。

 それで、義兵衛さん、6月中に1万個納めると言っておりましたが、この中旬に山王祭がありましてね、職人を遊ばせる関係で2回分の生産を飛ばしたのでさぁ。なので、6月末までに8000個になります。もっとも9月末には5万個、年末までのは累計で10万個は必ずや納めますので、御安心くだされ」


「それは心丈夫なことです。それで、秋葉神社と話しをしまして、寄進については椿井家が直接行いますので、辰二郎さんから向後の寄進は不要となりました。ただただ御印にお払いだけ受けて頂ければよい様に、事前に計らっております。なので、今回のように寄進料の受け渡しは不要となります。その分、工房で資金繰りの苦労はしなくても済みます」


 栄吉さんが辰二郎さんの顔をみて、なぜだかほっとしている。


「栄吉、よかったな。これで苦労は半減したも同じだろ。こういったことまで義兵衛さんは考えてくれるので、義兵衛さんから来る仕事は大丈夫なのさ。困ったことがあれば、ちゃんと話せば判って貰える。他の所のように、卸値を吹っかける必要はないので、正直にやればいい。他の依頼元も同じようになれば、お互い余計なことをせずとも済むのになぁ」


「義兵衛様、ありがとうございます。本音を言えば、寄進料の25両の工面に随分苦労したのです。でも親方が『この苦労はいい経験になるから、だまって頭を下げて借りて来い』と言うのです。これで、借りたお金を返せます」


「栄吉さん。まだ若いのに25両も借りることができるなんて凄いですね。普通の商家ではよほどの信用がないと貸しませんよ。借りるときに、どんな契約をされたのですか」


 栄吉さんは契約書を出して見せてくれた。


「なるほど、25両(250万円)を借りるのに、手数料で銀20匁(約5万円)と年末までの利息2両(20万円)ですか。それで、栄吉さんの名前でなく辰二郎さんの工房が借主ですか。半年で約1割の上乗せ、という訳ですか。

 手数料も借りた格好になっているので、今すぐ返しに行っても26両の準備が必要ですね。一応、細かいのも必要かと思い、銀で60匁も用意しています。手数料の銀20匁だけで済ますことが出来ればいいのですが、金貸しは利息を日割りして取るのでしょう。

 5日借りていたので、3分(75000円)の利息、銀40匁でしょう。丁度の金額ですよ」


 そう言って、懐から銀60匁を取り出し、栄吉さんに手渡した。


「しかし、義兵衛さん。それではこちらが余計なことをしたばっかりに、そっちに負担をかけちまったことになるじゃねえか。

 そんな簡単に応じちゃあ、名折れでしょう。せめて折半とか」


「しかし、ここでぐずぐずしていて1日延びれば、必ずや利息が嵩みます。どこから出そうが、必要なものはしょうがありません。せめて早い返却と交渉で、脅してでも利息金を1文でも下げさせて負担を減らしてきてください。ここで油を売るのではなく、栄吉さんと一緒に行って、金貸しから証文を取り返してきてください。

 その後の話はそれからです」


 こう言い放って、辰二郎さんを焚きつけて金貸しの下へ走らせると、義兵衛と安兵衛さんは八百膳へ向った。


無事ネット環境に戻ってきました。国内はセキュリティもしっかりしていて、流石にスムーズにつながります。

誤字連絡、ありがとうございます。速攻で書いたところは、やはり間違いが多いので結構ミスがあります。あきれずにご指導頂ければ幸いです。よろしくお願いします。



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