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金程村工房から来た一行 <C2346>

いよいよ総合評価のポイントが10000ptという大台(一応成功作とみなせる閾値?)にリーチという状態となりました。(長くやっていれば当然との意見もあろうとは思いますが)皆様の温かい御支援・御助言に深く感謝します。「はらへった」という愛称で呼んで頂いている方々にもとても感謝します。ありがとうございます。

まだまだ新米で小説を書く勉強中です。これからもよろしくご指導ください。


 向島・武蔵屋から椿井家の旗本屋敷までは、おおよそ半刻(1時間)ほどかかる。


「義兵衛さん。武蔵屋で作った新しい調味料は、大分残念でしたね。皆に大うけするかと思っていたのですが。

 以前萬屋さんのところで坂本さんに提供した辣油ラーユの感動話を聞いていて、私もやっとその現場を目にすることができる、と大変期待して一生懸命茶筅で混ぜていたのですよ。

 残念な結果ではありましたが、酢や油といった液体のものをかき混ぜていくうちに、半固形のふわふわしたものが出来上がってくるというのは、面白い体験でした」


 道々安兵衛さんが義兵衛に話しかけ、それに答えている。


「いえ、こんな失敗はしょっちゅうでしょう。急に『何かを』と言われても、ろくに準備できていないのですから、限界はあります。充分深読みして準備した結果が外れたら、大変がっかりしますが、今回は思いついたものをそのままやって見せただけなので、それ相応の結果といったところでしょう。本音として残念なのは確かですけどね。

 ただ、この商品の価値を善四郎さんは見抜かれていたようで、それが救いです。いろいろなものを添加する素材として、この繭寧酢マヨネーズは革命ともいえる調味料なのですよ。善四郎さんのことですから、繭寧酢マヨネーズをきっと流行る調味料に仕上げてくれると思います。遠からず繭寧酢マヨネーズを使った料理にお目にかかれるものと思っています。

 しかしそれよりも、今の時期に買い上げて頂いた40両は本当にありがたいです。一時的に貰うお金はあてにできないので、これを使って事業を進めるというのは本意ではありませんが、辰二郎さんへ渡さねばならないお金に窮していたことは確かなのです。

 この後に土の代金相談もあり、萬屋さんに借金の申し込みを近々しなければならないと思っていたので、今は気がとても重いのです。御殿様にはお金のことで苦労することがない様にと献策しておりますが、いざそうせねばならない立場で動き始めると、なかなか思った通りにいかないものです」


「曲淵様に報告する内容は、椿井様にも事前にお知らせするつもりですが、このお金の工面の話はどうしましょう。今までの経緯からすると、萬屋さんの2階の金庫に入れていたお金は、事業を回すために義兵衛さんが使っていたのですよね。とりあえず、この金庫のお金で回していたことは伏せておきましょうか」


「そう願えれば助かります。金庫のお金を決して内緒にしていたわけでもないのですが、一旦御殿様の方へ入れてしまったお金は、扱いが紳一郎様経由になるので、説明がしにくいのです。ある程度任されているとは言え、家からお金を引き出すお願いは、御殿様のお手元金に手を付ける感じなので、かなりしんどいのです。

 その点、あの金庫のお金については事後報告で済ませることが出来るので、私にとって使い勝手が良いのです」


「義兵衛さん。萬屋さんに借金を申し込む前に、一度紳一郎様にきちんと話されてはいかがですか。椿井家は小炭団で多少は潤っているのでしょう。どうにかなると思いますよ」


「しかし、必要な金額は概算で400両(4000万円)にもなるのです。5月の末ですか、六軒堀町の米問屋・井筒屋さんからの借金130両(1300万円)をやっとの思いで完済したところなのです。その報告でとても安堵していた表情の御殿様を見てしまうと、とても御殿様にそれを上回る借金をお願いする訳には行きません。

 そのあたりも含めて、萬屋さんには事前に相談したいと思っているのです。もう椿井家は萬屋さんと一蓮托生ですからね」


 思い悩んでいたことも、こうやって安兵衛さんと話をすると整理されてくるのだった。

 そうして屋敷の門を潜ると、そこには丁度江戸に着いたばかりの一行が、里からの荷を降ろしているところだった。

 一番最初に目についた実父・百太郎に義兵衛は挨拶をした。


「父上、このたびはご厄介をかけますが、よろしくお願いします」


 そして、一緒に居る面々を見ると、助太郎と近蔵、そして細山村のきこり家から左平治の父親・左助がいた。

 そして、なんと米さんと弥生さんも居た。

 義兵衛は助太郎に近寄りことの次第を確認するが、その間に一行の中にいた米さんが安兵衛さんの所へ話しをしに行っている。


「まだ下見の段階だが、なぜ米さんまで連れて来ることになったのだ。練炭の生産は大丈夫なのか」


「残った面々でなんとか回している。今、工房で仕切っているのは梅さんだ。それで何とか凌いでいる。

 名内村で大丈夫となったら、生産の立ち上げが急務だろう。それで、住み込んで生産指導にあたる弥生さんと近蔵は連れて来る面子としてどうしても外せないと考えた。そうすると、女人が弥生さん一人だけでは難しいということで、今回だけ米さんに生産面だけでなく生活環境なんかきちんと見てきてもらうつもりで連れてきた。

 まあ、本人が江戸に行くことを強く希望したし、運び込む道具を持ってもらうために人手は多いほうがいい。そんなことも考えた末のこの面々だ。

 それに、この屋敷から、七輪を数個持ち出そうと思っている。義兵衛さんと安兵衛さんは、荷運びとして、もうあてにしているのでよろしく頼む。丁度馬に乗せてきた分があって、それを持って貰うつもりだよ。

 あと、名内村の受入準備、木炭生産量がどうなっているかが、一番影響があると思っている。そのため、炭を作ることに長けた細山村の佐助さんにも出張でばって来てもらっている。黒川村並に、原料となる木炭を作る環境が整っているかが心配なのだ」


 助太郎は、それなりにいろいろと考えて人選してきたことが良く判った。

 そして、材料となる木炭がありさえすれば、その日の内に数個の練炭を作って見せるつもりなのが、持ち込んだ道具から見て取れる。

 必要な型や道具・燃焼試験のための標準炭団など、それなりの量を持ち込んでいたのだ。

 それぞれが話をしながら明日の出立に向けて荷物の仕分けを行い、それが終わる頃に紳一郎様が現れた。

 皆は話すのを止め、安兵衛さんと義兵衛・助太郎以外はその場で正座して直り、頭を垂れる。


「皆の者、ご苦労。急な出立で煩わせてしたかも知れぬが、無事皆揃っておるようで何よりである。

 明日は早朝に三番町の杉原新右衛門様の御屋敷へ伺い、杉原家代官の山崎力蔵様の案内で名内村へ向う。

 ここから杉原様の所を経て名内村までの距離はおおよそ12里(48km)と聞いておる。朝に弁当・水筒を持たせる準備をしておる。長い道のりじゃが、夕方前には目的の名内村に着くと思う。

 殿も思っておられるが、お主等のこの働きが、この秋以降の椿井家の在りようを決めると言っても過言ではない。抜かりなく働けるよう、休めるものから夕餉を取り明日に備えよ。寝所は、七輪置き場の所の横3を休めるように用意しておる」


 武家の3人はお辞儀を、その他の一同その場で平伏し、紳一郎様に感謝の意を示した。

 御殿様ではなく、その一の家来である紳一郎様からのお声掛けなのだが、少し前までであれば、庭の砂利に頭をこすり付けていたのが自分の立場だったことに、義兵衛はあらためて気づかされ、ここ4ヶ月の立場の変化に驚いたのだった。

 紳一郎様が立ち去ると、またガヤガヤと話をし始めたのだが、そこを百太郎が一喝した。


「聞いたであろう、無駄話はやめてさっさと片付けてしまえ。飯は長屋に運んであると先ほど門番から聞いた。片付けた者から、井戸で体を拭いて飯を食え。明日は日の出前から出立の準備をし、日の出と同時に門を出る。日のある内に、名内村に付かねば面倒ゆえ、重い荷もあるが、多少早足となるぞ。そのために早く休め、と仰せられたのだ。御殿様の期待を裏切ってはならぬ。心しておけ」


 やはりこの中では一番の年嵩があり名主でもある百太郎だ。

 いかに助太郎が士分に取り立てられたとは言え、この一行の実質的な代表は実父・百太郎で間違いようだ。

 安兵衛さんも、米さんとの話を終わらせたようで、一同に向かい深く礼をして奉行所へ帰っていった。


「出立の刻限には門に来ておりますので、その折に私が負う荷物は受け取りましょう。では、また明日、よろしくお願い致す」


 後は皆、長屋に入っていったが、義兵衛は紳一郎様へ今日の報告を済ませるため屋敷の玄関を潜っていったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 村を離れている助太郎は士分?その他?どっちだろう。
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