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甲三郎様の詮議 <C232>

 これは間違ったルートを選択しちゃったのかも知れない。

 この先の運命が、甲三郎という旗本の弟に握られてしまったのだ。

「そうであるか。

 百太郎、孝太郎、両名はそこの添え状を受け取り、この東屋より退去し、外で待っておれ。

 大儀であった。

 義兵衛は、いま少し聞きたいことがある故、そこに残り居れ。

 その守り仏は袋に納めてよいぞ」

 複数の人間を尋問する時、各個に分断し情報収集するのが徹則である。

 父・兄と分断し、まず義兵衛より事情を聞く。

 ついで、父、兄と個別に事情聴取をする。

 相互に比較をすると、嘘が見えてくる、という仕掛けなのだ。

 まあ、守り仏を仔細に見たいので渡せ、もしくは献上せよというお声掛かりがあることを心配していたので、そうならなかっただけでも儲けものかも知れない。


 甲三郎様には義兵衛がどう見えているのだろうか。

 退出でザワザワとするなか、平伏したままの義兵衛・俺は必死で考える。

 先日、最初の火鉢・練炭を献上した時、年貢米を掛売りで代えるところを増やすことも含め、発案は義兵衛と説明した。

 その時の、お殿様からの下問とその返事を反芻した。

====================

「練炭や火鉢のことも含め、このようなことは、子供が思いつくようなものではない。

 だれぞに教わったのか。直答せよ」

「もともとは、売り物にもならない木炭の切れ端を手にしたことが始まりです。

 この木炭がいくばくかの金になれば良いと思ったところ、一度粉にして泥団子のようにまとめれば、立派な木炭にも引けを取らないものができるのではないか、と考えました。

 後は、金の使い道ということで、自然に思い浮かべました。

 もっとも、この話を具体化するには父への事前の説明と承諾が必要なので、そこに一番心を砕きました。

 従い、ほんのちょっとの切掛けは作りましたが、発展させてこのような形にできたのは、父からの働きが大きいと感じております」

====================

 お殿様は、普通でないものを感じていたに違いない。

 冷たいものが脇の下をツツ~ッと流れていく。


 木炭加工を担当する6人を前に、神様からのお告げの内容として、義兵衛はこうも発言していた。

====================

「この村が、満足に食べることができないのは、折角作ったお米を年貢として納めているからだ。

 年貢をお米以外のもので済ませれば、作ったお米を自分達で食べることができる。

 お米の代わりに、木炭を加工してこれを売ってお金を納めればいい。

 木炭を加工するなら、練炭がいい」

====================

 この話も、いずれ広がってしまうに違いない。

 考える時間が欲しい。


「さて、義兵衛。

 最初に火鉢と練炭を献上しに参ったとき、練炭を作ることを思いついたと申したな」

 やはり、そこですか。

「はい。確かにそのように申し上げました。

 練炭については、思兼命様からのお言葉がどのように来るのかが判っておらず、あたかも自分で考えたかのように浮かんだのです。

 そこで、火鉢・練炭を作成し、これを登戸村で競りにかけ、お殿様にも献上させて頂きました。

 しかしその後、この練炭を沢山作るためにどうすればいいか、ということを悩んでいると、また突然『水車で石臼を廻して木炭を挽けばよい』と頭に閃くではありませんか。

 お殿様から『だれぞに教わったのか』というご下問が先にあったこともあり、『そのような良い考えを教えてくれるのは、どなた様か』と尋ねました。

 すると、先ほど父が申した通り『守り仏に降臨された思兼命様』とお教えくださったのです。

 そして、思兼命様は『金程村を豊かにする方策を授ける』ということで『村で薩摩芋を栽培せよ』ともおっしゃいました。

 練炭だけの話しであれば、自分が考えたという風にも思えたのでしょうが、自分の知らない『水車』や『薩摩芋』が、頭の中に浮かんで来るに及んでは、もはや疑いようもありません。

 それで、父にこのことを知らせました。

 父は、ご下問があればご説明する積もりであったようですが、白井与忽右衛門様の助言もあり、今回進言に至った次第です」


 とりあえず時系列で見て矛盾ない説明になっているはずだ。

 父・百太郎に正直に話したのが、村に水車を作る話しをした夜のことだ。

 兄・孝太郎も同じくだが、父ほど詳しく知っている訳ではなく、守り仏降臨設定からなので、どうつついても矛盾はない。


「義兵衛の言分は判った。

 ここでそのまま少し待っておれ」

 甲三郎様はそう声をかけて、東屋を出て行く。

 やはり、これからそれぞれ事情聴取するのだろう。

 兄は多分知っている限りの話しをしても、大丈夫だろう。

 父の先読みがあだにならなければよいが、と思いつつ、じっと待つことにした。


 かなり長い時間だったようにも思える。

 この間に義兵衛と今後起き得る状況をそれぞれ想定し、考えを交換する。

 それにより、あまり酷いことは起きそうもないことが判り、段々冷静になっていく。

 嘘をついているのは『守り仏に降臨した』ということで、この嘘で義兵衛の身を守っている。


 甲三郎様が部屋に戻ってきた。

「言っていることは辻褄があっている。

 どうやら、伊藤家に恩寵がもたらされたことは確かなようだ。

 さて、義兵衛はいつでも思兼命様からの宣託を聞くことができるのかな。

 何かを聞いたら、お答えを得る感じで宣託を下さるのかな」

「宣託をくだされる、という感じではありません。

 私が一心不乱に考えていると、スゥ~ッと考えが浮かんでくる感じで伝わってきます。

 ただ、必ず考えが浮かんでくるということはなく、気まぐれで教えてくれる、というのがピッタリした言い方です。

 質問しても、ほとんどお答えがありません。

 誰なのかについては『八意思兼命やごころおもいかねのみことという知恵と仕事を司るもので守り仏の中に居る』とお教えくださいました。

 また何をなさりたくて降臨されたのかについては『金程村を豊かにする方策を授ける』とのお言葉を頂きました。

 しかしながら、これ以外については、何もお返事がございません」


「練炭作成と薩摩芋栽培以外に、伝えてきたことはないのか」

「都度、具体的に『こうせよ』ということだけを伝えてきている感じです。

 全体として何をなされようとしているのか、神々のお考えのことは私には聞こえてきておりません。

『手足は大元のことは考えずに、与えられたことだけを一生懸命すれば良い』ということかと愚考しています」

「うむぅ。なるほど、それもそうじゃ。

 開墾を指揮する時に、なぜ、とか説明したことはないからのぉ。

 よし、相判った。

 この件の詮議はここまでとする。

 新しく宣託があった場合は、遅滞なく進言するのじゃぞ。

 義兵衛は、いつでも白井家の庭からこの東屋に通ってよい。

 ここにおる誰ぞにでも声を掛ければ、ワシに直ぐ繋がるように命じておく」


『首が繋がったまま、出ることが出来る』

 まあ、噂が先行して挙句に呼び出されて詮議されるより、裏の場で進んで言上しておいたほうが心証も良いに違いない。

 しかし、このやりとりに神経を使い果たして、心理的に、また肉体的にもボロボロの状態で義兵衛は東屋を出る。

 そして、そこで待っていた喜之助さんに連れられて、白井家の座敷に上がった。


厳しい詮議の情景がどうしても上手く書けません。ご容赦ください。

とりあえずは無罪放免ですが、こういったことで時間がつぶれていて、やるべきことが積みあがってきています。

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