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緊急寄り合い <C2299>

お待たせしました。今日から復帰しますが、執筆が進んでおらず、相変わらずのストックなし投稿です。

誤字はできるだけ直すようにしておりますが、ご指摘頂ければ幸いです。

(いつも誤字報告して下さっている皆様、ありがとうございます)

■安永7年(1778年)6月9日(太陽暦7月3日) 憑依121日目


 昨夜の内に千次郎さんと考え得る問答の詳細な詰めを行い、あらかたの準備を済ませ不安はない。

 特に重要なのが、冒頭で新規に参加した番付外料亭の口封じなのだが、途中で口を挟まれた場合のなし方を含めて一通りの準備はできている。

 早朝に安兵衛さんが萬屋に現れ、皆揃ってから、緊急寄り合いの場所である幸龍寺に向かった。

 料亭の座の面々も順次会場の客殿に集まってきており、各々が決められた席に着く。

 出席予定者の全員が揃うころに丁度定刻となり、この場を仕切る千次郎さんが開会を宣言した。

 まずは、今回の緊急寄り合いの趣旨説明を行い『番付料亭のみの協議と新規参入料亭は聴講のみ』の原則を提案した。


「それでは、折角の機会ということでこの寄り合いに出させてもらったが、無駄足を踏ませるということですか。今月20日の料理比べに参加できるかも、と思いいさんでやって来た者も居るでしょうに、乱暴な話ではないですか。ここで話を聞いて終わりというだけでは、来た甲斐がないし、なんぞ良い土産でもないと納得できませんぞ」


 客殿の中、中段・下段に寿司詰めに並んで座っている約130人の料亭主人は憤っている。


「これから、この興業の収支見込を報告するつもりじゃが、この赤字分を皆で負担しあうということであれば、話に入ってもらってもよろしかろう。皆が平等に負担するのであれば、各店から1~2両の徴収、それができなければ興業の中止ということになりましょう。責任を負えますかな」


 前もって打ち合わせした通り、善四郎さんが抑え込むが、この脅しにも似た言い様では収まらなかった。

 そして、ざわざわ感が増す中、瓦版屋がスクッと立ち上がり話を始めた。


「日本橋で當世堂という瓦版屋を開いて居る者です。新しい焜炉料理や料理比べ興業の瓦版の売り出し元ということで、仕出し料亭の座に協力しております。また、興業には宣伝も兼ねて行司役で一枚噛んでおります。

 一言申し上げますと、番付に名がない料亭は、そもそも順位に異議申し立てという恰好になりませんので、興業に参加できる名目がありませんぞ。肝心の料理番付が出来るまでは、興業への直接の参加は控えたほうが良いと考えます。

 ただ、手ぶらで帰る訳にもいかん、という皆様の御意見も判ります。そこで、私からのお知らせがありますので聞いてください」


 これは、善四郎さんと事前に打ち合わせが出来ていたようだ。

 版元さんは、今回の取り組み表、行司・目付予定者と、宣伝できる料亭の枠が示された印刷物を各自に1枚渡るように配った。


「今お配りした紙は、この緊急寄り合いが終わったらその取り決め内容を黒ベタの所へ彫り込み瓦版に仕立てます。

 それで、枠で囲んだところが10箇所ほどありますが、ここに申し込みのあった料亭の名前や宣伝文句を有償で彫ります。この瓦版は江戸市中でおおよそ1万枚を売る予定としており、瓦版を目にした者が料亭の新たな客となる見込みは大きいですぞ。

 ただ、座に属しておる186軒の料亭を全て載せる訳にはいかぬので、今回はこの寄り合いに出席されて発言を遠慮願った130軒の料亭にこの枠で囲んだ10個の所を安価に提供しようと考えております。これを土産に、ということで了解頂けますかな」


 そして、版元さんは130軒から10軒を入札形式で選ぶこと、落札で得た金額の半分は座への寄進とすること、料理関係の瓦版を出す毎に入札で宣伝枠を募集すること、その際一回宣伝した料亭は遠慮してもらうこと、この遠慮してもらう件は次回の興業の企画の時に消え新たに最初から入札となること、などを説明した。

 その説明に一応納得したように『諾』『応』『了』などの声が飛び交い、ざわざわとした空気が収まってきた。


「それでは、今回の興業の取り組みを説明します」


 千次郎さんは、今回設けた対戦型審査、委託金・報奨金制度、寄進について説明し、それに応えた料亭が先に版元さんが配った見本に記載された料亭であったことを話した。


「番付に異議を唱えた料亭は、全部で36軒あり、前回同様の興業を行うと全48軒の料亭の料理を並べて審査することになろう。行司が48膳もの料理を前に、味の優劣を問うという興業は論外であると考えた。そこで、事前にこの制度を説明し、それでもと応じた料亭のみが5軒ありこうなっておる」


 この時点では特段異論は出なかったが、行司・目付役についての割り当てを説明した時異論が出た。


「少し御公儀寄りの席数ではないか。武家側の行司3名、目付5名はともかく、商家側の目付席の内3席を丸ごと町年寄りにしておるが、そもそも町年寄りは御公儀とのつなぎであり、準武家という位置づけであろう。さらに入札制とする行司・目付席も商家側の席で、もし万一、どこぞの大名が落札したら皆御武家様のものとなってしまうが、興業としてそれで良いのか」


 確かに不公平という感じではあり、皆ざわついており、千次郎さんは答えに窮している。

 遅滞なく答えることができれば良いのだが、想定された質問でなく返事ができないため、善四郎さんが不安気にこちらを見ている。

 ここは義兵衛が出ていって説明するしかなさそうだ。


「この興業にかかわっている旗本・椿井家の家臣で、義兵衛と申します。

 もし、この興業が街道の一膳飯屋のものであれば、おっしゃる通りです。しかし、これは仕出し膳の興業であり、仕出し膳の主なお客様は武家にかかわるものが多いのでは御座いませんか。そうであれば、この興業によって武家側に料亭・料理で名前が知られるのは何の不思議でもございません。

 更に今回、武家の目付席で御老中様預かりの1席がございます。どなたが御出席なさるのかは存じませんが、御老中様との伝を求めて御大名が入札に参加することは充分考えられる事態です。こういった事態を踏まえ、行司・目安の各1席は非公開入札として八百膳さんが預かるようにしております」


 義兵衛が名乗った時に一瞬ザワッとなったが、説明をする内にこの状態はおさまった。

 ここにいる料亭のお客は大半が御武家様かそこにかかわる者達であり、その道理を説かれて納得してしまったのだ。

 そして、非公開入札としたのが確実に御武家様以外に席を確保するため、という推測までさせたのだ。


「それで、行司・目付の各1席については公開入札とし、残りの席は八百膳さんが管理して非公開入札で決めることとしています」


 千次郎さんは、入札によって得たお金を興業の資金とすることで単独黒字を目指すこと、幸龍寺より客殿の使用料に相当する金額の寄進があるため結果として行司席45両・目付席15両で落札されれば黒字に持っていけることを話した。

 これには特段異議はなかったため、公開入札の方法についての説明をし、48料亭の賛同を得たのだった。

 ここで決まったことは、瓦版にして明後日に売り出すことを説明して終えようとした時、発言を封じられていた料亭主人からの発言があった。


「今回の興業についてはともかく、我々新規に座に加わった者が興業に加われるのは、一体いつになるのか明確にして頂きたい」


 後ろに座った130もの料亭主人達がザワザワとし始めた。

 これは想定内質問であり、善四郎さんが番付表を7月末に出すため、閏7月興業のための寄り合いでの話となること、7月の興業は実施せず、これからの月例の寄り合いで相談していくこと、次回の定例寄り合いまでに地区割りを決め、その中でとりまとめ・世話役を設定してもらいたいことなどを説明した。

 その後は、特に揉めることもなく無事に緊急寄り合いを終えたのだった。


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