水車作りの説明と、木炭加工工房での演説 <C224>
新しい人物が登場します。村の娘っ子が木炭加工の手伝いとして3つの家から出てきますが、彼女らの活躍はまだまだ先の話です。
書斎に軟禁された翌日は、昼前まで兄・孝太郎と水車の設置についての説明と相談を行った。
まずは貯水池の説明だ。
「村西側の谷戸の中ほどの高さにあって、一番南側で雑木林に近い所を選んであります。
この田を掘り返し池にします。
掘り返した土は、焼き物に使う用途があるので、そのまま木炭加工の助太郎へ渡してください。
池の底に複数の竹筒を入れて水の取水口を設けます。
池から突き出た竹筒の先は栓をしておきます。
周りを固めて貯水池は完成です」
池から水がしみ出さないようにすることは、説明しなくともまあ判るだろう。
池に入る水は、田に水を引いていた水路をそのまま使う方針だ。
一番端の田んぼということで、流量が不足する可能性もあるが、その場合は新たに水路を作って引っ張ってくれば良い。
次に水路の説明だ。
「池底に付けた竹筒から出る水は、山の等高線に沿って水路を引き、水車を設置する予定の場所の近くまで引きます。
ここに小さな水の枡を置きます。
枡から水車までは、空中を樋でつなぎ、樋の先が水車の羽にあたるようにします。
水車の下から水を麻生川に流しこんで水路は終了です。
水の落差をつかい水車の羽を回すので、池から枡までの水路で高度を失わないようにすることが大切です」
最後に水車の説明だ。
「この水車は田植えの時に使う灌漑用の水車と違い、川に流れている水を持ち上げる機能は必要ありません。
そのため、構造は簡単で良く、仮の水車で良いなら短期間で作れます。
仮水車で運用する傍ら、丈夫な水車を作り、これに交換する方法を考えてもよいと思います。
小屋の両側に水車を設け、軸で結ぶと安定して運用できる可能性があります。
軸から歯車で回転する力を引き出し、場合によっては減速歯車を入れて石臼を回す力を得る方法もあります」
これだけの説明を、地図で示し、半紙に絵を描いて伝えたので、どんなものを作るのかは充分理解してもらえたはずだ。
「これだけの作業をしなければなりませんが、仮水車を使って使えるようになるまで、どれ位でできそうですか」
「作業させることができる男手が、とても足りない。
今の状況だと、4月に始める田起こしまでに間に合いそうもない。
それまでに仕上げないと、全く手が足りなくなる。
この件は、人をどう割り振るかに依るので、名主・大人と相談するので待ってもらいたい」
この村の総人口は50人ほどと聞いている。
男女半数とすれば、25人が男であるが、これには小さな子供も含んでいる。
平均年齢が25歳で年齢分布が均一と仮定すると、2年間隔で一人いることが考えられる。
15歳~50歳で18人の男手があることになる。
義兵衛と助太郎が抜けると、百太郎・孝太郎を入れて16人しかいない。
確かに、大きな土木工事をするには手が足りないことがよく判った。
状況は理解したが、これ以上何も助言できないので、後を頼んで助太郎の工房へ向った。
助太郎は木炭加工の中心人物に指名されてからは、机だけでなく小屋の一角を仕切って一人前に工房然とした場所を作ってもらっていた。
今のところこの工房は、俺+義兵衛が本当の意味で癒される唯一の場所になってきているのも確かだ。
また、この工房を見ると、大工の彦左衛門はこれを機に助太郎を一人前に扱うことで、大きく育てようという感じだ。
俺の目から見ても助太郎はよくやっている。
これに比べると、申し訳ないが、水車を手駒が少ない孝太郎に任せたのでは最初の段取りからもたつく可能性が高い。
七輪用の粘土取りという面もあるので、助太郎と図って木炭加工作業でゆとりの出た工程の人と七輪担当を回すしかないか。
助太郎の工房につくと、助太郎も含め男女6人がモゴモゴと動いていた。
いや、様子を見ると、当初予定で聞いていた分業体制で働いている訳ではなく、皆同じことをしていた。
今は型から抜いた練炭に、レンコン穴の定規を当て、練炭に穴を掘る作業をさせている。
定規も穴を開ける道具も2個しかないため、交代で作業し、手が空いている人はその様子を注意深く見ているのがわかった。
義兵衛が工房に来たのが判ると、助太郎は皆に作業を止めさせ、義兵衛の前に並ばせた。
並んだ6名を歳の順で見ると、助太郎16歳、米14歳、梅13歳、近蔵10歳、春8歳、津梅福太郎8歳となっている。
男手は2人だが、近蔵は伊藤家の小作のところの子供で無理を言ってひっぺがした。
津梅喜之介の孫の福太郎まで動員されているとは驚かされる。
近蔵・春・福太郎は、まだ寺子屋通いなので、昼下がりしか手伝いに来ることができない、ということだ。
俺は、村を挙げて応援する新規事業で、各家から手伝いを出すとなるとこうなってしまうのかと、多少がっかりした。
ただ、義兵衛は内心こうなることを知っていたようで、それでも皆揃っていることを喜んでいる。
「皆知っていると思うが、この木炭加工を発案してここまで持ってきたのが、ここにおられる名主のところの義兵衛さんだ。
村の暮らしを良くする為に、いろいろな新しい考えを村に吹き込んでくれている。
義兵衛さん、皆に話しをしてくれ」
俺は、義兵衛さんに、ことの次第を含めて自由に話すよう伝えた。
「僕は少し前までまだ知恵が足りない子供だった。
しかし、少し前にこの守り仏の摩利支天に八意思兼命という、知恵と仕事の神様が降りてきた。
それ以来、時々色々なことを僕に教えてくれるようになった。
神様が言ったことを判りやすく言うと、こんなことだった」
『この村が、満足に食べることができないのは、折角作ったお米を年貢として納めているからだ。
年貢をお米以外のもので済ませれば、作ったお米を自分達で食べることができる。
お米の代わりに、木炭を加工してこれを売ってお金を納めればいい。
木炭を加工するなら、練炭がいい』
「そこで、こういったことに一番詳しくて頼りになる助太郎に相談してみた。
そして、試してみようということになって、実際に練炭を作って登戸村で売ったら、すごい大金が手に入ったんだ。
なので、村の大人達に話して本格的に練炭を作って売ることになった。
皆は、最終的に村の人全員がお米を腹一杯食べることができるようにするため、村の代表としてここに来てもらっている。
助太郎がどうすればいいかを皆に指導するので、それに従って一生懸命取り組んでもらいたい。
そして、今年の秋祭り以降、もう村の人に、自分の弟や妹にひもじい思いをさせないように、腹一杯食べれるように頑張ろう」
皆には、後半で言った、自分達が一所懸命やれば、秋祭り以降はお米が腹一杯食べられるということだけ理解してくれればいい。
「では、戻って作業を続けてくれ。
一通り試したら交代してやってみて、一番上手くできたのは誰かを教えてくれ」
助太郎はこう指示すると、工房の奥に義兵衛を誘った。
金程村の致命的欠陥、人手不足が明らかになります。老婆・老人から赤子まで入れてたった50人の村です。新しいことを始めると、何かを諦めるというトレードオフをどうこなしていけばいいのか。勢いでどうにかという訳にもいかず、苦悩が始まります。
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