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小炭団の類似品が <C2195>

借金の話をしに、萬屋を訪ねた義兵衛でしたが、そこで聞いた話は......

サブタイトルそのものでした。

■安永7年(1778年)5月11日(太陽暦6月5日) 萬屋


 久々に、とはいっても10日程度しか経っていないのだが、義兵衛は萬屋の暖簾をくぐった。

 丁稚の小僧さん達が口々に「お帰りなさいまし」と顔を見るなり挨拶をしてくる様子に、馴染みの風景を感じる。

 そのまま以前のように作戦本部となっている茶の間に顔を出した。

 千次郎さんと忠吉さんがドンと座っており、かつて義兵衛がいた雰囲気がそのままそこにあった。


「義兵衛様、ようこそおいで頂き、ありがとうございます。萬屋はいつでも大歓迎致しますよ。

 座に加わる料亭が48を超えた時点で最初の仕出し料理番付けを瓦版にして出したところ、これが大評判になりましてな。瓦版屋が赤字を承知の上、大きな大名屋敷や商家に無償で投げ込みをしましたところ、瓦版に書かれている料亭への仕出し料理依頼が一気に増えたと聞いております。

 この効果を見た仕出し料亭が争って座に加わる動きをし、今日時点で100の料亭を超えた所です。主だったとりまとめは八百膳さんにして頂けるので、こちらは報告を受けるだけで、楽なものですよ。これ以上増えたら、地域毎の番付を作り、地域の幕の内料亭だけを集めた代表番付を作るという方法で動いています。

 ただ、最初の48料亭番付を出した直後から『納得がいかない』と申し立てをする料亭が3軒も出ており、その順位の前後を含めた9軒の料亭の仕出し料理による競いをしようと準備中なのですよ。この状況やら競いの企画自体も瓦版にして売り出した所、これまた評判になっており、ぜひ行司の一人として加えさせてもらいたい、という要望が引っ切り無しに寄せられています。

 お武家様は、お奉行様の枠が一つと定款でさせて頂きました。商家では1枠として萬屋が発起人の一人なのでこれに当てていますが、この枠を譲って貰いたいと結構迫られています。あとは元締めの八百膳さんのところと、仕出し料亭番付で東西の大関・関脇・小結の6人。それに、瓦版屋1名を入れて全部で10人。まずは試す方向で準備を進めています。

 ただ、2回目以降は、番付3役分を削って大関だけに絞り、お武家様と商家の枠を増やさざるを得ないと考えているのですよ」


 忠吉さんの話によると、どうやら焜炉の許認可制度のために立ち上げたイベントが上手くいく方向にどんどん回っているようだ。

 武家・商家で枠を増やすなら、面白い方法がある。


「お武家様の枠は、北町奉行様が推薦したお武家様で、行司役を務める権利を調整して頂くというのはどうでしょうか。また、商家の追加枠については、回毎に入札にし一番高い値で競り落とした家がその時の行司を務めるというのはどうでしょうか。競り落とした金額は座の収入にすればよいと思います」


 義兵衛の提案に千次郎さんは良い案を得たとばかりに頷いた。


「ところで、義兵衛さん。実は小炭団について、他の木炭問屋から類似のものが少し安く売り出されています。萬屋から1個8文の値を付けていますが、他の所から4~6文で売り出されているのです。萬屋は仕入れ値が6文なので対抗しようがありません。

 類似品は、極普通の木炭を1.4寸角の四角い棒にして、1寸程度の大きさに切り分けたものです。重量は10匁程度ですが、加工する手間や端材が出ることから、重量見合いの金額からすると普通の木炭に比べ割高になっています。もっとも見よう見まねで、萬屋でも同じようなことをして、割高になる理由に納得がいったのですがね。

 ここ数日のことで、まだ大量に出回ってはいないようですが、これが多量に出回るようになると、萬屋の小炭団が不良在庫になるのではないか、と恐れています。

 何か良い知恵を貸していただけないでしょうか」


 忠吉さんが、恐れていた安価な類似品について言及した。


「やはり、そうなりましたか。四角い棒からどれだけの大きさで切り出すかを調整することで、燃焼時間の長短を調整できるはずで、これは小炭団にない特徴です。ただし、材質のちょっとした違いから燃焼時間に差が出たり、物によっては爆ぜる危険性があります。その点、小炭団は一律同じになるよう工夫しています。

 卓上焜炉の販売に小炭団を組み合わせて在庫を掃かせることを考えてください。そうですね、焜炉50個と小炭団2000個を組み合わせればどうでしょう。最初に小炭団に慣れてしまうと、安価な類似品を使った時に差を実感して貰いやすくなり、次に小炭団を買って貰える可能性が出てきます。それに、炭団も100個組み合わせてもいいかも知れません。

 それと、100万個はすでに受け取ってもらっているので、こちらは卸値6文で清算して頂きますが、後から追加した50万個については3文で卸しましょう。そうすると、小売りを4文で売っても1文の利益が出ます。これでどうでしょうか」


 助太郎との話で、価格については一任されていることを確認しており、この値下げについては問題ない。

 要は、まず今回の卸し分として、椿井家と里の取り分1600両が確保できれば良いのだ。

 900万文から750万文と掛売金は150万文=375両も減るが、それでも小炭団だけで1875両あるのだ。工房の取り分を275両に減らすしかないが、小炭団以外の売掛金もある。それで我慢して貰おう。

 更に、炭団となると、こちらは直径2寸の円柱を木炭から切り出すので、木炭から丸棒を作り出すのに更に無駄が出るだろう。また、仮に丸棒から炭団類似品を作っても、燃焼時間は炭団より短い。これは、炭団を作るときに混ぜ物を入れて火が長く保つようにしているからなのだ。そうなると粉炭から加工する方式をとるしかないが、需要見込みが立つまで踏み込むにはそれなりの日数がかかると考えて良いだろう。


「ほほう、卓上焜炉については安価な類似品が売り出されることについて、随分考え抜いた対策をお持ちでしたが、それに比べると小炭団は軽い扱いですな。このように難しい話であるにもかかわらず、こうもあっさりと話すということは、小炭団の類似品が出ることや、それが安価で売られることは、義兵衛さんにとっては織り込み済だった、という事なのでしょうな。

 小炭団の類似品について、まだ想定されていることがあれば教えてください」


 千次郎さんはあっさり事情を見抜いたようだ。

 どうやら、新手の小売りについて説明しておく必要がありそうだ。


「今のところ、料亭向けということで、町民に売って回ることは無いと考えておられますが、小炭団や炭団が懐炉という暖房器具の熱源になったあかつきには、炭団の量り売りという商売が考えられます。

 大きさが決まった四角柱や円柱の棒をかついで市中を回り、求めに応じてこの棒から切り出すという商売です。例えば『炭売のお前さん。8文分炭団をおくれ』とか『丸いやつを四半時分頼む』という具合です。なので、棒手振ぼてふりが木炭問屋で棒を買い求めることは想定しておいて良いと思います。

 それより、先ほど説明した小炭団50万個の卸値の変更は、いかがでしょうか」


「その変更だと金程村が損をするということですが、そんなに簡単に契約を変えて問題はないのでしょうな。実入りが400両近く減るのですよ。それとも、まさかこの時期に起きることが判っていて、すでに里の方では話がついているとか、流石にそれはないのでしょうがね」


 千次郎さんの突っ込みに、どう答えるべきか、ここは思案のしどころなのだ。


安価な代替品があることを知っていたのではないか、と迫る千次郎さんにどう対応するのか......

次話をお待ちください。

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よろしくお願いします。


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