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お奉行様から里を守る方便 <C2178>

実態を知る5人でお奉行様対策を相談し始めます。

 今回の大飢饉の神託にかかわる関係者5人で、真実と方便をどう再構築するかの相談が始まった。


「ここからは話の中身が重要じゃ。身分や立場の差で余計な気を使わんで良い。思ったことをそれぞれ述べよ。特に、富美は怯えることは無用じゃ。ただ、何でも言えば良いという訳ではなく、必要なことだけを申すのじゃぞ。よいな。

 まず、今までに出た話の整理じゃ。爺は大方の状況を把握しておろう。ここで話された中身を整理して述べてみよ」


 流石に一昨日の阿部美紀あべみの独演会には閉口したようで、まずは釘を一本さしている。


「始まりは、宝暦14年、つまり14年前の高石神社の例祭で、巫女様がそれから3年間に渡り毎年大飢饉と浅間山の噴火という同じ神託を村人の前でのたまわったことです。これが、この辺りの里全般に流布されている飢饉の噂の元となっております。ただ、この神託には、いつ、という重要な要素が抜けておりました。

 そして、それから11年後の安永7年、つまり今年の春に義兵衛より天明2年、つまり4年後から7年間に渡っての大飢饉が迫っていること、その期間中の天明3年7月に巫女様の神託と同じく浅間山が噴火することを伝えられております。

 他には知られていない、つまりここだけで出た付帯する天災としては、天明2年7月に江戸でお城の櫓が破損するような地震があること、天明6年に長雨で江戸市中が洪水に見舞われることです。このため、天明6年には、一揆や打ち壊しが頻発します。

 人に関することとしては、安永8年・つまり来年の12月に京におわします天子様が崩御なされ、安永10年に改元されることがあります。そして、天明6年に老中・田沼意次様が罷免され、白川藩藩主の松平定信様が老中となること、時を同じくしてお上の家治様が亡くなり一橋家の家斉様が将軍となられます。

 爺が聞いておるのは、これで全部ではなかったかと存じます」


 流石に爺で、顔色一つ変えずに甲三郎様の無茶振りによどみなく答えている。

 一体どんな訓練を積めばこんなことができるのかと不思議に思ってしまう。


「それで、江戸の北町奉行と萬屋で知られている内容は、どういった話となっておるのじゃ」


 この問いには義兵衛が答えた。


「はい、北町奉行所同心の平塚様には、萬屋主人の千次郎様から『金程村には近々未曾有の大飢饉がこの国に迫ってきているとの噂があり、そのために知恵を絞り色々な取り組みをしている。救荒作物を栽培し、木炭加工品を売りその金で米を買い貯めするつもりだ。この件は、お殿様は承知しており、知行地全体で取り組んでいる』と説明しております。

 また、江戸の萬屋では主人の千次郎・お婆様・大番頭の忠吉さん、それに登戸村の加登屋さんには、私が飢饉の神託に従って働いていること、飢饉は4年後から始まり7年間も続くことを説明しています」


「それで、守り仏を依代として義兵衛が神託を受けているという方便が伝わっておる範囲はどこまでじゃ」


 これには百太郎が答えた。


「家の者と、工房の面々、あとは甲三郎様が知行地の名主を集めて説明しておりますので、おおむね知行地全体の人はおおよそ知っていると見たほうが良いでしょう。また、村が殖産事業で賑わっていることをいぶかしく思っている周囲の村は、この方便を聞いている可能性はあります。ただ、義兵衛から聞くところでは江戸市中でこれを知るものはおりません」


 名主を集めた席で安易に言ってしまったことと、特段口止めしていなかったことの影響である。また、その後に白井家でそれぞれの村の名主に囲まれて厳しい追及を受け、何度も同じ説明をしたことを思い出した。


「これからの方便を作るワシの基本方針を説明しよう。

 村の飢饉対策は、高石神社の例祭で富美が告げた神託を基本に動いておる。

 この飢饉については不確定な点が多く具体的な対策が採られていなかった。しかし、時期が迫っていることで追加の神託があることに金程村の義兵衛が気づきワシに説明してきた。そこで、必要となる米を蓄えて備えるべく、木炭加工して売ることを義兵衛が思いついた。

 これまでの話と矛盾するところはないかな。皆のもの、どうかな」


「巫女様と義兵衛に普通接点はないので、追加の神託に気づくのが不自然と考えます。また、江戸での義兵衛の振舞いがあまりにも常軌を逸している点があり、そこをどうしましょうか」


 百太郎が厳しく指摘をすると、甲三郎様は唸ってだまりこんだ。


「申し上げます。私に憑いている阿部美紀様が依代を探して色々なところを彷徨っており、体質が近い義兵衛様にも声を掛けたという風を装うのは如何でしょうか。

 どうも竹森様と阿部様は過去の因縁もあり縁のあるお方と聞こえております。未来のかたが憑き易い・声をかけやすい体質ということで収まると思います。万一竹森様の発言のことが露見しても、しばらくは阿部様からのことと義兵衛様は言い張ることができます。

 如何で御座いましょうか」


 富美が声を振り絞り震えながら意見を述べると、甲三郎様は満更でもない表情で考え始めた。

 やがて、その方便を受け入れる条件作りを指示した。


「おおむね、その方向でよさそうじゃ。

 それから、富美については義兵衛の方便と同じ仕組みを作ったほうが良いな。確か、高石神社のご祭神は天照大神であったかな。それにふさわしい依代を用意しよう。

 ここに阿部様が憑依し、富美の口を通して飢饉に備えるべき神託を述べたが、一向にことが進まなかった。そこで、義兵衛に目をつけて一時的に神託を下した。義兵衛はそれに従い、飢饉対策をするためいろいろと動き始めた。その過程で、本来の依代とその神意を口寄せできる巫女様をワシが見つけて保護した、と。これでどうじゃ」


「なるほど、実際に表だって動かねばならない義兵衛の竹森様のことは秘し、この館の中で安全に保護されている富美の阿部様を必要に応じて表に見せるという訳ですな。そして、富美は元巫女で修練を積んでおりますので神意を仲介するに不足はなく、更にその身は依代という方便で守るという仕組みでございますか。

 守らねばならぬものを幾重にも包んでいるように見せて、対策の要となる義兵衛はその枝葉という格好にして守られるというのは都合が良いと考えます」


 百太郎は、甲三郎様の意見を強く支持すると、爺も大きく頷いて賛同の意を示した。

 甲三郎様は満足気な表情を見せ、爺に『相応しい依代を早速に準備し、これを祭る拝殿を館の中に設けよ』と指示した。


「さて、これで方便は整理できた。

 あと、いろいろと聞いておきたいことがあるが、まず理解しておきたいのは、なぜ未来の者の意識がこの時代に飛んできたのかじゃ。同じようにして来ている者があるやも知れん。もし、そのような者が居れば一刻も早く保護せねばならん。

 これについて阿部様が一昨日に説明してくれたものの、ワシには全然理解できんかった。この場には義兵衛ならぬ竹森様も居るので、補足もしてくれよう。もう一度順に説明してはくれんか」


 富美は深く一礼してから説明を始めた。


どうやら幕府に対する方便が決まりました。その影響は後ほど出てくることでしょう。

次は、なぜ金程の地が焦点になったのかの仮説が述べられます。

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