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金程村での祝宴 <C2176>

午後に開催された祝宴風景です。

 実家・伊藤家の庭は、ここで村全部の稲を村民総出で脱穀などする農作業場を兼ねているため、結構な広さがある。

 納屋を背に一段高い場所が設けられ、義兵衛と家族はそこに着席するようになっていた。

 その左右は、賓客として椿井家知行地の名主席だ。

 中央に低い卓が沢山並べられ、そこに料理が運ばれてきている。

 脇には、臼と杵が用意されており、こんな時期にもかかわらずどうやら餅つきの趣向もあるようだ。

 中央の卓から離れてぐるりとむしろが幾重にも広げられており、村民が座る場所となっている。

 もちろん、その半分は工房の奉公人の場所になっている。

 思えば名主一家を入れて総勢で50人程度の寒村であり、しかも10人は工房に奉公している。

 そこへ30人もの工房奉公人が来るとなると、祝宴出席者の過半数は工房の奉公人であり、もう工房の祭りとしか言いようがない。


 助太郎を先頭に工房の面々が伊藤家に到着しめいめいが筵に座り終わると、この場を仕切る兄・孝太郎の挨拶で祝宴が始まった。

 続いて、それぞれの村の名主から工房への賛辞を述べる挨拶が行われた。

 それぞれの村から来ている奉公人は、自分の村の名主が立ち上がると熱狂的に喝采している。


 それが終わると、義兵衛の出番である。

 義兵衛は出来るだけ短く簡単に挨拶しようとしたが、結局長い説明となってしまった。

 まずは、江戸での木炭加工製品の販売が順調であり椿井家と知行地の村々に大きな恩恵をもたらすであろうことを述べた。

 そして、これらの恩恵が工房へ奉公している者達の努力の成果であり、それを支える村人の協力の賜物であることを示唆した。

 最後に、お役目を果たして無事帰郷できたことに感謝の意を表すと、参加した人たちは熱狂した。


 堅苦しい挨拶関係は終わり、孝太郎が中央の卓にある料理が食べ放題・取り放題であることを説明すると、皆小皿を手に群がった。

 一息つくと、17歳以上の村の若者が祭り太鼓の披露と獅子舞を演じ始め、皆は手拍子を打ち舞いに参加したりと、普段なにもない村は大変賑やかな祭り一色となったのだ。

 やがて、用意されていた餅つきも始まり、義兵衛も参加し助太郎と交互に杵を振う。

 出来上がったきたての餅は直ぐに小さく千切って丸められ、皆に振舞われていく。

 高齢のご婦人達は何を思ったのかかねを持ち出し御詠歌を詠い始めようとしていた。


「良いか、御詠歌は1番だけは詠うてはならんぞ。1番を詠うたら最後の50番まで一気に詠わねばならんのじゃ。なので、まずは2番じゃ。よいな」


 そう言いながら、コン・チキチと鉦を鳴らしつつ、2番を詠い始めたがそれで止まるはずもなく、3番・4番と続き、結局最後の50番まで詠って終わり、婦人連は満足げに大笑いしていたのだった。

 これを聞いていた衆の一人は、1番の歌詞が何かを知りたがったが、『それを言うとまた50番まで聞かされることになるぞ』と周りの衆から抑え込まれていた。

 こういった賑やかな祭りが夕方まで続き、最後に百太郎が終わりの挨拶をして締めくくられたのであった。

 娯楽の少ない山間の田舎では、時に行われるこういった宴会で、目出度い出来事を皆の記憶に刻み込むのだった。



 宴会がお開きとなり、片付けも終わり、いつもの静寂が戻ってきた。

 義兵衛は宴会の間に、伊藤家小作の近蔵に聞いた工房の実態について考えていた。


「ご褒美として、米俵が一律配られたことで反発を覚える人がいるようです。一生懸命頑張った組の人があまり熱心に作業してない組の人の家のことを余り良く思ってないようです。例えば、結果を沢山生産した米組の人が、生産高の低い桜組の人達になんで同じご褒美なのか、と愚痴をこぼしているのを聞いています。

 あと、登戸への荷運びも、いつも重い荷を背負う人と比較的軽い荷で済んでいる人がいて、これもまた不公平と感じている人がいます。皆、それぞれ精一杯頑張っているからこそなんとかなっている、と助太郎様や米さん・梅さんは思っているのかも知れませんが、目に見える米俵でそれぞれの家に配られると、本人よりも親の世間体という雑音が気になってきますね。

 住み込みでご奉公している米さんと梅さんが最初から奉公しており、また管理指導ということで助太郎様の手足となって必死に働いているのは皆の知る所なので別格なのは皆判っていますが、万福寺村の桜さんと弥生さんだけが住み込みできていることに下菅村の人が反発しています。この辺りも気になっています。

 それから今朝の義兵衛様の見回りは、甲三郎様の時と違って何の誤魔化しもしていませんよ。パッパッと通り抜けた感じでしたよね。もっとしっかり見て、何か改善したほうが良いことを指摘なさるものだとばかり思っていましたが、何の助言もなかったので拍子抜けした位です。もっとも、その場で何か問題点や改善することを指摘されると、不名誉ということで士気は落ちることを配慮されたのでは、という意見に落ち着いたのですがね」


 作戦室で安泰と聞かされていただけに、近蔵が語ってくれた内容は重要なのだ。

 そして、多少なりとも問題が出始めていることが判ったのは収穫だった。

 これを助太郎にどういった形で伝えていけばよいのか考えているうちに眠りに落ちていったのであった。


後半は小作家の近蔵から聞きだした工房の問題点との話でした。

目標達成の意味で大判振る舞いをしたことが結構問題になりそうです。義兵衛はこの事実を助太郎に伝えることを考えていますが、次話はこれとは別に翌日起きたことの内容になります。

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