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巫女の話で思わずオウンゴール(自爆) <C2170>

神主様と入れ替わりで巫女様に色々と話を聞くことになります。

 神主が部屋から退出すると、義兵衛は首から下げていた袋から守り仏を取り出し、甲三郎様の横に置いてある書見台に乗せた。

 そして、しばらくすると巫女が部屋へ入ってきた。


「本日は御日柄も良く、誠に気持ち良く神楽舞を舞させて頂きました。また施主様におかれましては、ご多分な寄進をされたと聞いており、その意によく沿うよう舞いましたので、新たに作る蔵の地も安泰になったことと存じます」


 巫女は丁寧に挨拶をした。


「さて、巫女様。今回はそなたに色々と尋ねたいことがあってここへ来てもらっておる。仔細は先ほど神主へ説明しており、何の隠し事もせんで良いと許可を頂いておる。

 具体的には『あべみき』のことなのじゃ。しかし、まずはそなたのことから聞かせてくれ」


『あべみき』というキーワードを聞いた瞬間、巫女の顔には驚きが走った。


「それは、もう何もかも洗いざらい話して良いという意味でございます。

 私は、高石村の自作農の三女で、富美ふみと申し、今年25歳となっております。家の口減らしのため、奉公ではなく、6歳の頃高石神社に預けられ、以降そこで巫女となるべく修行を積んで参りました。

 それから5年経ち11歳になって、初めて神楽舞を例祭で舞う大役を仰せつかることとなりました。

 おおよそ14年も前になるでしょうか、例祭の数日前の夜のことで御座います。大役を任され興奮でなかなか眠れぬ私の所へ、突然頭の中に話しかけてくる声が聞こえました。その方の名前が『あべみき』でございます。

『あべみき』は、いろいろなことを勝手な時に私に話しかけてくるのです。今もそうです。

 そして、私が大変疲れている時や緊張がほぐれている時、寝入りはななど、意志が弱くなる時には、体や口を乗っ取って勝手に何かをしでかすことができるようなのでございます。

 今も、何か口を挟んできていますが、大変失礼な内容なので、私の力で中に押さえ込んでいます。

 そして、あの例祭で神楽を舞いました。神託を得るという例祭の中での舞は、特に激しく舞うため体力がかなり消耗しますが、気持ちが高揚し自分がどこかへ飛んでいる感じになります。その時に『あべみき』は私の体を乗っ取り、神託を述べたのです」


 丁寧な口調で半分平伏しながら話す巫女様の内容に、義兵衛と竹森との関係を見た。

 ただ、どうやら富美と『あべみき』は、俺と義兵衛のように協調しあう関係にないようだ。

 最初の所での関係構築に失敗し、富美から敵視されたに違いない。


「金程村ではここの守り仏の仏像に『思兼命おもいかねのみこと』様という神様が憑依し、ここにいる義兵衛に時折話し掛ける形で神託を得ると聞いている。このことは秘しておるが、なにやら似ておるの。『あべみき』の憑代よりしろはどこにあるとか申しておらんか」


「私の周りにいつもいるのは確かですが、どこかに入り込んでいるという感じではないようです。ただ機会があれば私の体を乗っ取ろうとしているようです。

 五月蠅い!しつこいっ!

 失礼しました。『あべみき』が、こいつらは誰だと私の頭の中で今怒鳴っています」


「これは大変失礼した。ワシは細山村や金程村の全部、下菅村と万福寺村の一部を合わせた500石を幕府から拝領している旗本の椿井家に居る次男坊で椿井甲三郎と申す。兄である殿は江戸に居って、ワシは次男坊ゆえ部屋住みの身分である。そこに居るのが代々椿井家に仕えてくれておる爺じゃ。そして、金程村で思兼命様の声を聞くことが出来る義兵衛じゃ。それで『あべみき』様は、飢饉のことを今なんと言っておるのかちょっと聞いてみてくれんか」


 甲三郎様の声に応じるかのように、手をこめかみに当て富美は口を開いた。


「江戸3大飢饉とは、享保・天明・天保の時代に起きた全国的な飢饉。享保は関西を中心に冷夏・蝗害によるもの。天明は世界的な異常気象で浅間山噴火も影響している。東北地方に影響が大。天保は東北中心の冷夏による影響。一番被害が大きいのが天明で、江戸市中でも商家の打ちこわしが頻発」


 巫女様のそれまでの口調とは打って変わって、なにやら呪文のように、日本史の試験対策暗記のような言葉が飛び出してきた。

 この返答に驚いて、義兵衛の口を通して竹森が直接声を上げる。


「あべみきさん。あなたは一体いつの時代の人ですか。何年生まれでどこに居たのですか。まさか!」


『あべみき』と名前を言った時に、何かチカチカと頭の中で警告音が響いた。


「私は平成5年、1993年6月25日生まれ。神奈川県横浜市都筑区川和在住。A高校出身、S大学在籍中の18歳でこの世界にやってきて、それからもう14年もこうやっている、今は一体いつなのか正確なところを知りたい、と言っています」


 最後の「と言っています」だけは取ってつけたような巫女様の声に変わっていた。

 この答えにガンと頭を殴りつけられる思いで、色々な過去が頭の中をグルグル廻り始めた。

 義兵衛が『冷静になれ』と強く合図している。

 久々に義兵衛と分離した感じのする俺・竹森だった。


「甲三郎様、思兼命様が大変困惑しています。いつもの宣託のような感じではなく、私にはよく判らない言葉が沢山話しているのが聞こえていますが、何と言っているのか伝えることができません。ちょっと落ち着くまで待って頂けますか」


「巫女様よ。先に思兼命様より聞いた話では、今年は安永7年だが西暦では1778年と聞いておる。

 そして、この安永は京の都におわす天子様が崩御なされてあと2年で天明という元号になると聞いておる。上州の浅間山が噴火するのは、天明3年7月とのお言葉を賜っており、大飢饉は天明2年から天明8年の7年間とのことじゃ。そちに取り付いておる『あべみき』の話と差はあるのか。もし、こちらが思兼命様から賜った神託と違うところがあれば申し述べよ」


 甲三郎様は1カ月以上前の3月23日に義兵衛が話した内容を、まとめて巫女にぶつけたのだ。

 ただ、西暦のことは直接話したことはない。


「甲三郎様、西暦のことは説明したことはございませんが、どういうことでしょうか」


「歴のことについて、仮設を立ててみたのよ。元号は干支を使えば助けにはなるが、ややこしい仕組みのため南蛮でのことも含め予め調べておった。先に巫女様が平成という元号の後で西暦で生まれた年を申しておったであろう。すると、西暦を使えば元号を換算せずとも、どの程度の時代かの見当は付くのではないかな。もしかして、思兼命様も西暦とは違うかもしれんが、何かの出来事を起点とした統一した長い年の数え方をしておるのではあるまいか、と思っておったのよ」


 したり顔でさらっと説明する甲三郎さんであったが、この発想と調査結果の発露に義兵衛のみならず憑依している竹森もビックリしたのであった。

 確かに、いろいろな知識と情報を組み合わせて、今年が1778年という結論にどうにかたどり着いたという覚えはある。

 年に名前をつけて時代を表す元号という仕組みの便利さと不便さを、考えるだけで気づいた甲三郎さんの頭は、普通の切れではないようだ。

 そう思っているところへ、巫女様が先ほどの普通ではない口調で突然話しを始めた。


「申し上げます。お殿様が述べたことに相違はございません。

 ただ、あと付け加えさせて頂くと、この天明の期間の間に老中の田沼意次様が失脚し、松平定信様が老中となられます。また、田沼意次様の後ろ盾となっておられた将軍・家治様も亡くなり、次期将軍に家斉様が成られます」


 俺は、巫女様の発言に慌ててしまい、大声でかき消そうとした。


「あべみ(阿部美紀)!それはまだ言ってはならん。それを言っては駄目だ!」


 しかし、その声と義兵衛の行動は、瞬時に横に座っていた爺に組み伏せられてしまった。


「義兵衛、これは一体どういうことじゃ。なぜ故、言ってはならんことなのじゃ。お前は何を知っておる。

 この巫女が何を言おうと、お前には関係が無かろう。それをあえて止めるということは、何かカラクリがあるに違いない。

 この後に及んで、隠し立てをすると容赦せぬぞ」


 甲三郎様が怒鳴った。

 よくよく考えれば盛大に自爆して、最悪の事態を迎えてしまったようだ。


ここまで慎重にことを運んでいた義兵衛・竹森が、巫女・阿部美紀の発言で、つい自爆してしまいました。

このフォロー(?)が次話となります。

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