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八百膳さん合流と、戸塚様の講評 <C2159>

七輪・練炭の目論見を説明するだけでなく、炭団や強火力練炭についても説明してしまうのでした。

 善四郎さんが奥座敷に戻ってきた。


「内緒話は終わりましたかな。いずれ、内緒でなくなる話なのでしょうから、その時まで待ちましょう。どの商家にも余所には聞かせたくない話は2つ3つはあるものです。気にはしておりませんよ。しかし、千次郎さんの殺気は凄まじかったですな。ここ一番となると、あれくらいの迫力が出せねば店主は務まらないものですな」


 陽気な声を出しながら場の雰囲気を変えてくる善四郎さんも、大した商売人と思ってしまう。


「では、練炭と七輪についてお話しします。

 忠吉、この店にある七輪と普通練炭、薄厚練炭を何個かここへもってきてもらえるか。

 先に経緯を説明致します」


 千次郎さんは、登戸の中田さんとのやり取りをかいつまんで話した。

 そして、夏場でも需要のある焜炉・小炭団を優先して取り組む方針でおり、秋口の勝負は夏頃から準備するつもりということも。

 そのうちに、七輪・練炭が用意できた。


「冬場に暖を採るに最適な道具でございまして、普通練炭ならば4刻(=8時間)かけてゆっくり燃えるため、夕刻に点火すると朝まで火が保ちます。また、薄厚練炭は1個で1刻(=2時間)で、最大4個まで重ねることができます。夏場は暖を採る機会がないため、これでの商売はできませんが、そろそろ暖かいものが欲しいという時期に売り出すつもりです。これも、他の木炭問屋はまだこういったものがあると知らないため、焜炉と同じように評判となった暁には、店は大盛況間違い無しです」


 同心・戸塚様は七輪と薄厚練炭を手にとって見ている。


「なるほど、こちらにも焜炉と同じ秋葉大権現の印が押されておる。いかほどで売る予定じゃ」


「七輪は1000文、普通練炭は200文、薄厚練炭は65文が一応の目安ですが、逼迫状況では多少値を上げて需要を抑えるようにするかも知れません」


「これは、練炭という形を揃え、燃える時間も揃えたところに価値があるのじゃな。この工夫は義兵衛のものか」


「はい、村で木炭を扱っているおり思いつきました」


「これは面白いものを見せてもらった。卓上焜炉の代わりに七輪を料理に使ってみてはどうかな」


「その発想で、七輪ではなく、まず卓上焜炉が生まれております。七輪・練炭を料理に使うということでは、火力が足りません。湯を沸かすのがやっとということで、工夫した結果こうなっています。

 小炭団では短い時間しか火が保ちませんが、小炭団の代わりに炭団を使うと火力は多少落ちますが1刻弱の間、火を保たせることができます」


「なんとそのようなものがあるのか。義兵衛さん、どうして教えてくれないのだ。工夫できる料理の幅が全然違ってくるぞ。昨日も言ったが、仕出し膳を使う宴会はだいたい1刻(=2時間)はかかる。今の小炭団では、冒頭の6分の1刻(=20分)で消えてしまう。2段重ねで時間を伸ばすという策は聞いたが、1刻も燃える炭団……。そうか、それで『小』と付けていたのか。その炭団があるなら今ここで見せてくれ」


 善四郎さんが興奮した声で割り込んでくる。


「善四郎さん、この場は戸塚様へお話しさせて頂くのが趣旨ですよ。まあ、行きがかり上しょうがありませんが。

 忠吉、炭団も数個持ってきてくれ。

 戸塚様、この炭団は20文と少々高くなっております」


 なぜか値段を聞きたがる戸塚様の習性が判ってきたのか、先回りした千次郎さんだった。

 忠吉は何個か炭団を持ってきて奥座敷に広げた。

 戸塚様、善四郎さんがこれを手に取り見ている間に、千次郎さんは炭団を焜炉に入れた。


「なるほど、焜炉にピタリと嵌りよる。もともと、これを使うことを含んでおったのじゃな。

 ところで、聞かれなかったから話をせんかった、ということはあるまいのぉ。もし、まだ狙っているものがあるなら、この場で全部さらけ出すがよい」


 千次郎さんとお婆様の視線が一斉に義兵衛へ向く。

 こうなったら、善四郎さんがいる前だが披露するしかない。


「実は、もう一つ予定があります。それは、強火力練炭です。普通練炭の半分の高さですが6分の1刻で燃え切ります。その分高い熱が出るので、料理を作るのに適しています。ただ、練炭を早く燃やすための工夫が難しく、強火力練炭の量産はできておりません。村では朋友の助太郎が、小炭団や卓上焜炉増産を指揮する傍ら、この強火力練炭を生産できるように研鑽を積んでいることと思います。そして、強火力練炭を使うと七輪が熱くなり過ぎますので、料理のための七輪の外枠、外殻と言いますが、これを用意しています」


 果たして善四郎さんは喰いついた。


「七輪・練炭は、火鉢のようなものと思えばまだ見当がつく。しかし、火鉢で料理が、普通のように料理が出来る道具というのはあるとは思えん」


 加登屋さんが口を挟む。


「実際に、登戸の店で試してみましたよ。まだ試作段階ということでしたが、外殻の中に七輪を入れて、強火力練炭を2個積んで試しましたが、便利なものでした。これはきっと小さな料亭では必需品になりますよ。あれからもう1ヶ月過ぎてますので、助太郎さんのことです、きっと量産できるようになっていますよ」


「善四郎さん、今実物は持っておりませんが、義兵衛さんが3月末にこちらに来た時に見本を持って来ました。普通、練炭はゆっくり燃えると思っていましたが、強火力練炭は小炭団と同じぐらいの時間で燃えて、萬屋の賄い料理を作るものが実際料理を仕上げていましたよ。

 それはそうと、この場は戸塚様へお話しさせて頂くということで、自分のところへ話を引っ張らないでください」


 善四郎さんは、料亭の主人であり料理については人一倍執念深い。

 料理に関する色々な企てが萬屋の中で繰り広げられていたことに今更ながら驚かされたようだ。


「それは判りましたが、どうやら萬屋さんでは『木炭をどう使うか』に関して先行した試みがおありのようで、木炭問屋に異色の加登屋さんが協力している意味が見えてきました。これからは、この八百膳もその仲間に加えて下さらんか」


「それは助かります。歓迎いたしますよ。瓦版の版元を巻き込んだ企画がありますが、それに協力していただければ萬屋としても嬉しいです」


 この分だと、料理番付は結構うまく進みそうだ。


「どうやら、一応予定している商品は全部教えて頂けたようですな。今までの話で、おおよその人となりも判った。

 こういった中で練られた案であれば、概ね問題はなかろう。資力についても、特段問題はなさそうだ。

 実は、昨夜のうちに御奉行様と話をしており『言上された内容は良く練られており、そのままで、概ね問題はなかろう』との言葉を頂いておる。ただ、案は良くても、これを立ち上げて運営するのは至難の業じゃ。なので、人と金を聞かせてもらった。お奉行様に良い報告ができるので、ワシとしては嬉しいことじゃ。

 また、萬屋さんの思惑とは別に、義兵衛さんの狙い・思惑を聞かせてもらった。こちらは、お奉行様と相談することになるが、別途話を聞かせてもらうことになるので、そのつもりで居られるよう願いたい」


「戸塚様、2点ほど確認があります。

 僕は萬屋でご厄介になっておりますが、椿井家の家臣でございます。まずは、お殿様にご迷惑がかかることは避けて頂きたいのです。

 それから、昨日のお奉行様から頂いた『公平に審議する』という件の解決が出来ておりません」


 義兵衛がこう意見を述べると、戸塚様は切り返した。


「椿井家については、別途その筋からの話になるやも知れんが、まずは奉行所内、ワシとお奉行様との間だけに留めておこう。萬屋としても、この噂についてはきちんと管理されて居るのがよくわかったので、その点も踏まえて大事にはならんと見ておる。

 それから『公平に審議』は意外に簡単じゃ。受付から審議完了までの期間を定めて、審議の経過・合議のときにする諾否の評価と、その評価をした者を明記し、審議した実物と一緒に見えるよう公開すればよい。この結果を並べてみれば、あやしい動きをする者は自ら明らかになるであろう。それを捉えて奉行所が詮議をする、となっておればよいのじゃ。実物を事前に見せることで、審議したものと別なものを許諾品と偽ることも防げるじゃろう」


 凄い簡単で効果的な策を出してもらい、義兵衛・竹森は感心してしまった。

 そして、この返答をもって、戸塚様の訪問は終わったが、義兵衛はお殿様には早々、事態を報告する必要があると見たのだ。


公平・公正な審議のためには、結果を広く公開すべし、との助言を頂きました。

次回は、椿井家屋敷が舞台です。

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