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お墨付きのための案と反応 <C2149>

義兵衛さんからの案説明です。

 萬屋が扱う卓上焜炉を仕出し料理に使うにあたり、お上からお墨付きを得ることについて、八百膳主人・善四郎さんの考えを聞き、きちんと詰められていないと感じた義兵衛は、お奉行様へ対して何をどう説明した方が良いのかを説明することにした。


「失礼なものの言い様をして誠に申し訳ございません。しかし、善四郎さんの話を聞いた時の御奉行様が思う気持ちを考えると、一気に許諾して頂ける感じではないように思えたので、つい差し出がましく口を挟んでしまいました。

 僕の考えを順に説明しますので、ご理解ください。

 まず、御奉行様に危ない焜炉を見て頂き、こういったものを仕出し膳の上で使うと火事の火種となることを判って頂きます。

 そして、このような危険があることを知っていながら無為のままであると、万一火事が発生した場合は御奉行様ご自身の責任を問われる可能性があることを説きます。

 ですが、だからと言って、仕出し膳で卓上焜炉の使用を一律使用禁止とすると、このような新しい焜炉を使った料理を宴席で楽しむという機会を奪うことになることも説きます。

 なので『危ない焜炉を使わないような施策を料亭に取るよう指導する』という施策を御奉行様が採ることを勧めます。これにより、万一火事が起きた場合に第一の責任は料亭が御奉行様の指導に従っていたか否かに依存し、少なくとも御奉行様は無為であるとの責めは無くなります。

 ここまでが御奉行様にまずご理解して頂くことです。これ以降は施策の中身になりますので、それを御奉行様配下の方と詰める話になります。ただ、この段階でも、実は指導の中身が適切であったか、という責がまだ御奉行様には残っております」


 義兵衛は、焜炉が原因で火事になった時に、まずは御奉行様の責任をいかに減ずるかを中心に施策を説明しているのだ。

 千次郎さんは、事前の打ち合わせのこともあり、大体の方向性は理解できているようだ。

 しかし、善四郎さんはまだ施策の中身にとらわれていて、全体として何を言おうとしているのかは判っていないようだ。


「それで、肝心の施策について、僕が考えている中身の案をお話しします。ただ、僕はずっと田舎住まいで、世の中の仕組みなんかを知らない若造なので、子供の考えた青臭い戯言たわごととお笑い下さっても結構です。

 まず、江戸市中で仕出し料理を作る料亭を集めて座を作る許可を頂きます。

 この座は、御奉行様の指図の下、次の仕事を行います。

・仕出し膳に使っても良い卓上焜炉の審査。

・審査で可とした焜炉について、御奉行様の認可を得、これを座内へ周知。

・仕出し膳で、未認可の卓上焜炉使用の摘発と、使用料亭への指導/懲罰の代行。

 焜炉の審査/認可費用は、申請者に負担させます。

 御奉行様から卓上焜炉使用の認可を頂く場合は、都度上納金を納めさせて頂きます。

 未認可焜炉を仕出しで使用した場合には、座でこれを検め、程度・回数に応じて罰金を座と御奉行様へ納めさせます」


 話の要点は、御奉行様は『よきに計らえ』と座に言うのが仕事で、新たに設ける座が一切を取り仕切る点にある。


「疑問点がいくつかある。まずは一つ聞きたい。仕出しを行う料亭をまとめて座にすると簡単に言われるが、そのような座を作るのは容易ではあるまい。なんとなれば、料亭でなくとも仕出し膳は作れるのじゃぞ。そのような座を作るのは絵空事じゃ」


「ところが、ここに妙案があります。このために、座を作る許可が要るのです。

 今の話から少し外れるかも知れませんが、仕出し料理を作る料亭で、料理番付を作るという案があります。この案の中身は、千次郎さんから説明して頂けると助かります」


 いきなり話を振ってしまったが、瓦版の版元と協力し、相撲番付表のように料亭の出す仕出し料理を格付けした表を作り、お武家様・商家に配布したり町人相手に売り出すことを説明した。


「このように番付表を作るのは、料亭側は店の名前を売る絶好の機会になります。客側にしても新しい店を知る良い機会となります。基本は江戸市中全部の店舗を一同に掲載するのですが、例えば地区毎に番付したものを作って配布、各地区からの上位陣を集めた江戸番付を作ってみるなどすれば、地域に根差した料亭紹介にもなります。定期的に発行すれば、より上位を目指す料亭が現れること間違いなしで、料亭の質向上にも貢献します。こうやって仕出し料理を作る料亭はあぶり出されると考えます」


「確かにそういった面はあるかも知れないが、それだけでわざわざ座に加わるだろうか。座に入ることで得る店の利益が番付の最下位という不名誉だとすると敢えて加わらない料亭があっても不思議ではない」


「そこは、座の活動で解決すべき内容ですが、例えば互助会という説明はできませんか。お膳や食器が不足する場合は融通するとか、仕出し膳を造る仕事を融通するなど、1軒の料亭では対応が難しい所を支え合うということがあっても良いと思います。座で料亭に関する講を立ててもいいでしょう。座に加わることによる利点を打ち出せばいいのですよ」


「そうか、まあ座を作ることは判ったが、では焜炉の審査はどうするのか、とか、都度許認可を受けるのはどうしてなのかと思う」


『おいおい、逐一聞き出してどうする。だから、空っぽと言ったのだが、本当に空っぽなのには驚くぞ』


「許認可で御奉行様を挟むのは、座が全面的に責任を負わないためと、仕出し膳に未認可の焜炉を使わせないことの後ろ盾に奉行所の権威を持たせるためです。審査は、例えば焜炉を扱う萬屋と使う八百膳で実物を見て協議すればいいのです。場合によっては、町火消しの親方を加えるのもありでしょう。複数の立場の人間を入れて協議するのは、万一の場合の責任分散です。判断を個人に委ねず合議結果という形にすることで、責任所在をあいまいにします。もっとも、許認可された焜炉が原因で大火になったり、お城で失火した場合は全員連座させられる可能性は否定できませんがね」


 こういったやりとりが、細部にわたって行われた結果、善四郎さんは義兵衛の意見に賛同したのだった。


「義兵衛さん。まだお若いのに士分に取り立てられただけのことはあります。この善四郎、こうも驚かされたのは初めてです。いろいろ問い詰めるような真似をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。

 今回、いろいろと知恵を付けて頂いたことの見返りと言っては何ですが、この件を曲淵様に耳打ちするときに、義兵衛さんを引き合わせて頂きたいと思うのですが、どうでしょうか。千次郎さん、どう思われますか」


 あの北町奉行の曲淵景漸まがりぶちかげつぐと話をする機会が突然目の前に現れたのだ。


「義兵衛さんは、旗本椿井家の家臣です。陪臣が幕府直臣にご挨拶するのはどうかとも思いますが、そのあたり御奉行様はどのようにお考えなされる方なのでしょうか。もし、そういった身分や格式を気にされる方であれば、そういった小細工は逆効果ではありますまいか」


「いえいえ、ワシの知る曲淵さんは身分にかかわりなくさとい人がお好きじゃ。本人も実直・直言する癖が判っているのか、無能な上役には煙たがられるとこぼしておった。義兵衛さんは見かけによらずしっかりされているのは、先のやりとりでワシ自身実感した。たとえまずい雰囲気でも、自力でなんとかなさるじゃろう。日時、場所がはっきりしたら、萬屋へ連絡しましょうぞ。

 もっとも、凹まされたワシとしては困った義兵衛さんをどこぞで見たい、という気もするのだがな」


 どうやら、お婆様に曲淵景漸について存分に話を聞いておく必要がありそうだ。


やはり善四郎さんに知恵を引き出されてしまった感があります。

次回は、曲淵景漸についての詳細となります。この調べのため、結構時間がかかってしまいました。歴史カテゴリは勝手にできない部分があると思っており、これを守るための調査にどうしても苦労します。どこかで割り切るしかないのですが、この見切りも難点で、過去多くの読み応えのある小説がエタるのも、このあたりが原因かと思っています。

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