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料亭の宣伝 <C2125>

新しい料理を出す料亭を宣伝する策を提案します。

 義兵衛の宣伝献策で暴走したお婆様を抑えるため、大飢饉が来る神託の下一生懸命働いていることを説明したが、その責任感に悲壮な雰囲気になってしまった。それを跳ね除けるように、明日の実演販売の売り込みへ前向きな希望を述べ締めくくろうとした。


「それで、義兵衛さん。瓦版の件は承知しましたので早速段取りをしますが、それ以外に何か打つ手はありますでしょうか。もし何か準備がいるなら指図してください。この千次郎が手足となって動きましょうぞ」


 倍の歳ほどある千次郎さんが頭を下げて来る。

『こういった場面で何かの提案ができないから、お婆様からの評価が下がるのですよ』と内心思うが、それをいっちゃぁ、おしまいなのだ。

 勿論、案は持っている。

 ただ、どこからどう取り組めばよいのかが判らないので、瓦版のような具体的な指示が出せないのだ。

 しかし、黙っている訳にもいかない。


「こうなれば良いのにという策はあります。ただ、誰に声を掛けて根回しすれば良いかが判らないので、そこは江戸にお住まいの大人達で考えて頂きとうございますが、よろしいでしょうか」

『これは気の毒だが、多分、忠吉さんの役回りになるのだろうな』と思いながら4人の顔を見る。

 お婆様が早う言わんかとばかりの姿勢と、その目が怖い。


「会席料理番付けを作り、江戸中の大名屋敷と商家に配ります。勿論、武蔵屋さんと坂本さんには参加してもらい、できれば大関か小結位の結果になってもらうように支援します。番付の行司にはかの有名な八百膳やおぜんさんになって頂くのが良いと思います。この番付が恣意的という風評が立つのであれば、会席料理比べという場を設けても面白いかと思います」


「番付というのはどういったものかは判るのですが、会席料理比べというのはどういったことになりますかな」


 忠吉さんが割り込んでくる。

 その道の著名人が目前に幾つもの膳を並べ、それを食べ比べしながら色々と意見し、最後に料理自体の優劣を示したり、あるいは順位つけや点数をつけたりするという料理を題材にしたバラエティ番組を思い浮かべて伝える。


「それぞれの料亭から会席膳を、そうですね、10膳位を仕出ししてもらい、これを並べて複数の著名人に食べて頂き優劣を判断してもらうのです。どの膳がどこの料亭のものかを伏せることで審判の公平性を担保します。料理の内容と審判の結果を公開することで、卓上焜炉を使った料理を宣伝してもらうのです。こうして卓上焜炉を使った会席料理があることを公に知らせて噂となるよう仕向けます」


 会席料理比べで重要なのは、料理の内容と評価が広く知れ渡り、卓上焜炉料理を使っているほうが圧倒的に有利になる、ということを知らしめることなのだ。両方とも焜炉料理という状態が普通になれば、番付や料理比べの支援の必要はない。


「順位の低い料亭や会席料理比べで負けた料亭は、よほどの拘りが無い限り卓上焜炉を手に入れようとするでしょうし、焜炉を入手した料亭は小炭団を萬屋から買うしかありません。中には焜炉や小炭団を独自に作ろうとする料亭があるかも知れませんが、愛宕神社の御印がない焜炉や金程印のない道具を使った料理を目にしたお客がちゃんとした道具を使っていないとがっかりする、という所にまで持っていければ萬屋さんの一人勝ちです」


 お婆様の目が光を帯び始める。

 これは暴走の兆しと判ってきた義兵衛は縋るように千次郎さんを見つめると、果たして千次郎さんは発言してくれた。


「料理番付や料理比べのことは忠吉が準備することになる。4月に入って両方の料亭で卓上焜炉を使った料理が出るようになったら直ぐ会食番付のことを八百膳さんに相談できるようにしておけ。料理比べの件は、料理番付とからむ新しい見世物になる可能性も高い。こちらの方はワシが直接どうするかを考えてみよう」


 とりあえずテキパキと指示を出すことで、お婆様の発言を押さえ込むことに成功した。


「それにしても、飢饉が迫っているという噂は確かに聞いたことがある。ただ、その噂話の出どころは金程村ではなく、高石神社の巫女のお告げと聞いている。もっとも4年後から7年間も続くという具体的な時期の話はなく、関東の北西の端の山が噴火するという話を含んでいたのだがな。義兵衛さんは、金程村で得ているご神託の中身を知っているのであれば、教えて貰えはしないか」


 加登屋さんが話を戻してしまった。

 しかし、金程村に近在する高石村にある神社に仕える巫女様がお告げを出しているというのは重要な情報で、聞いた瞬間、ドキンとしてしまったのが自分でも判った。

 俺と同じように転移してきた者がいる可能性が高い。

 そして、俺より先行する噂で、出どころが曖昧になっていることからすると、かなり早くに転移してきて、飢饉対策を託されたのだが失敗したに違いない。

 その所為せいで次の人柱として俺に白羽の矢が立ったという所だろう。

 今直ぐにでも高石村に向かい、その巫女に合って真相を確かめたいが、この情勢では身動きが取れない。

 また、こうもあっさりと噂の出どころが判明するのであれば、甲三郎様はこの巫女を早々に押さえているに違いあるまい。

 ならば、急いでもしかたあるまい。

 今は、江戸での小炭団の販売体制を整え、秋口の練炭やそれに続く料理用の練炭の販路を確実にすることと、できれば椿井家につながる米問屋と顔つなぎをして、秋までに確たる信用を得るための立ち回りを考えねばならないのだ。


「はい、多少詳しいこととして、安永12年7月に、浅間山が噴火し関八州全体に灰が降り、農作物に甚大な被害が出ると聞いています。飢饉は7年続きますが、最後の2年は天災というよりは前の5年間の被害が大きかったための人災という面が強いのです。水田があっても耕作する人や種籾すら手当できないということが起きるのです。

 ただ、無闇にこの飢饉になる話が流れると、世の中を騒がせる飛語を語る者ということで、お上から目を付けられることもあるので、あえて人前では話される様なことはなさらぬよう、お願いします。しかるべき筋への訴えは、旗本の椿井様が考えておられることと思いますので、金程村ではお殿様からの指図に従うつもりでおります。なので、この話は固く胸の内に秘めて頂きたくお願いします」


 どこまで人の口に蓋をできるのかは判らないが、首がかかっているということを意識してくれれば少しは抑止力が働くに違いない。


「それよりも明日の段取りを今一度確認されたほうが良いのではないでしょうか。また、実演する道具以外にも無償ただで差し上げるものも数個用意する、という準備も出来ているのでしょうか。板長はともかく女将は実演を見た後、自分でもお客の立場で試してみたいはずです。実演直後にお買い上げ頂けなくても、2~3回自分で試して納得がいけば、47個組でなくとも1回の宴席分位は購入頂けるかもしれません」


「もし、両方の料亭に全く売れる気配がない場合は、萬屋の持ち出しとなりますが、卓上焜炉・小炭団と食材を持ち出しで宴席の場だけ借りて料理を一品提供するということを提案するのも手としてはあります。それ位の覚悟をしていれば、多少の難癖は乗り切れると思いますよ」


 話を強引に明日の心づもりに切り替えたためか、もう飢饉についての追及はなかった。


どうしても飢饉の話しから遠ざかることができないまま居る面々ですが、無理やり色々な準備が先ということで押していきます。


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