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村人への相談準備と農耕の影響 <C2116>

家で百太郎・孝太郎と今後の分担を話し合います。

 家では百太郎と孝太郎が待っていた。


「甲三郎様より、3月25日の朝、つまり明後日、知行地の名主を集めての相談を行うとの通達があった。まず、義兵衛と助太郎は同席してもらうことになるので承知しておいてもらいたい。彦左衛門を経由して助太郎に連絡をしているところだ。

 それから、明日朝、村の大人達を集めて相談を行う。工房での活動の話もあるため、ここにも義兵衛は参加すること」


 どうやら、全部さらけ出すようにも見える。

 甲三郎様が『得られたお金は心根を測る踏み絵』と言われたことで欲得ずくの話にはならないと踏んだのだろう。

 ならば、金程村が主体で始めた事業なので、話し合いも金程村が主導するべきというのは理屈に合っている。


「この村の中での相談で、新しい農具のことを紹介する。また、お前が言い出した二毛作や大豆栽培についても、一部の田で実験的に行うことも紹介しよう。薩摩芋や赤唐辛子という新しい作物についても、狙いを説明する。

 それから、米蔵を作るという話もしたい。つまり、村の中では4年後から大飢饉が始まり、それが7年続くことを既定のこととして動くということだ。

 たとえこの神託が外れても、村では食いはぐれがない、というだけだろうから影響は小さい。ただ、こういったことを進める結果、お金自体は村には残らないし、場合によっては負債を抱える可能性もある。それよりも、いくつか確認しておきたいことがある」


 孝太郎がいるせいか、百太郎が冷静に話している。


「まず、70万個を納める前提だが、納期通りにものを作れる見込みはあるのか。

 甲三郎様に説明したように、他でも簡単に類似品が安く作れることが判ると、契約を遵守できないことを理由にご破算にされる可能性が高い。できるだけ確度の高い状況を話してくれ」


「助太郎は、日産12000個を目標になんとかしようとしていますが、現状日産10000個に少し足りない水準です。今日、解決する方策が一つ見つかりましたので、多少取り返すことができそうですが、何か問題が起きるとギリギリという感じです。工房の作業が安定するまで助太郎を工房から引き離すのは問題です。なので、少なくとも明日は助太郎を呼ぶのは止めたほうが良いと考えます。明日夕方に状況を確認して絶望的なら、明後日の甲三郎様の相談に出席させるのは止めるべきでしょう。

 あと、万福寺の所から来ている2人の女性陣、桜と弥生は手先が器用で役に立ちます。まだどこからも依頼や申し出がないのですが、米・梅と同じように彦左衛門さんの家で預かってくれれば役に立ちそうです。村の中の家ではないため、きちんとした申し入れができればいいと考えます」


「すると、ギリギリだがなんとかなりそうで、かつ、まだ打つ手は残っている、ということで良いのだな。ならば、まずは着々とそれを詰めて行けば良い」


 相談の前提となる1000両をちゃんと得ることができる確認を求めたものと理解した。


「だが、田起しのことを忘れていないか。

 水田を作る季節になると、女子供といえどもこれを手伝う。寺子屋ですら、家の手伝いを優先することを考えて10日程休んでいるのは知っているだろう。工房では、この期間も小炭団を作る必要があるのだろうが、少なくとも男手は見込めないものと考えておくべきだ。丁度これとぶつかるが、その対応は取れていると思ってよいのか」


 俺も義兵衛も、ガンと頭を殴られるほどの衝撃を受けた。

 このことをすっかり失念していた。

 助太郎の目標12000個では甘いのだ。

 10日の空白、10万個の不足を考えると、日産2万個にしなければ間に合わない。


「できていない。どうしよう」


 あわててこの席を蹴って飛び出そうとする義兵衛を、孝太郎は引き止めた。


「今、それを言いに行っても、すぐにどうこうできるものではないだろう。もう少し村全体を見渡して、せめて余裕がどの程度あるのかを確かめてから工房に行け」


 その通りだ。

 対案もなしに、嵐のように行っても困るのは助太郎だ。


「まず、田起しで使う鍬だ。登戸で買ってきた備中鍬だが、今日孝太郎に試してもらった。その結果を聞こう」


「まず、今まで使っていた平鍬と違い、1度にできる土の掘り起こしが深い。その分、作業は捗るが、力は倍ほどいる感じだ。この鍬で半日田起しすると、確かに今までの倍の量が起せるが、それでもう疲れ切ってしまう。なので、この鍬を1刻(=2時間)毎に違う小作人が使うようにすれば良いと考える。

 全体として3人で今までの4人分の作業ができる感じだ。伊藤家としては、もう1本この鍬が欲しい」


 兄・孝太郎の感触では3割の効率アップということに違いない。


「この結果から、村全体として各家に1本貸すとして、全部で5本追加すればいいということかな」


「この鍬は、2000文で売ると鍛冶屋さんが言ってました。全部で金2両半にもなりますが、大丈夫ですか。それから、いつもある訳ではなく、これから作るので一度に揃えるのは難しいかと」


「各家の4本の追加分については、明日朝の相談で決めよう。購入価格からすると1日10文相当の貸し賃になるので、借りたいと言わない家があるかも知れない」


 この金程村は、名主家が高価な農具を各家に貸し出し、それを売掛けとして帳簿に付け収穫時期に清算しているのだ。

 勿論、各家で農具を買い揃えても良いのだが、必要な時に都度道具を借りるほうが楽なのは当然だ。

 だが、名主も道具の準備があり、この調整をいつも相談で決めているのだ。

 一見民主的な感じだが、名主の力が強くなりやすい仕組みであり、それを百太郎が名主になってから毎月の相談という形で治めていることが良く判る。


「唐箕については、これは伊藤家の中の作業なので、明後日の名主会議の後試すことにする。それまでは籾摺りだけして貯めておくようにする。もし、唐箕が今までの箕より効率的なら、小作の仕事が随分軽くなる。とは言え、7日前からすでに工房に1人出しているので汲々とはしているのだろうがな」


 結局、村としては最善でも田起しが3割の効率化=期間短縮でしかない。


「義兵衛から聞いた塩水選法は確かに有効な感じです。籾の3分の1位は減りますが、その分、いい籾が残っていると実感しています。この種を撒くことで、今年はいい実りになることが期待できますので、皆に説明したいです。

 それから、籾殻の灰を混ぜることですが、これは今年は伊藤家の水田の一部で田起しする時にしたいと考えます。なにせ今まで籾殻は有効に使っていなかったので、どの程度効果があるかは長い目で見る必要があります」


 孝太郎は義兵衛がいない間、農作業に関して地道な作業をしていた様だ。


「よし、良く判った。義兵衛は江戸行きの用がまた入っている。そこで、赤唐辛子や薩摩芋など、農作業については孝太郎が話を聞いて引きついでいてもらいたい。

 もう一つ、千歯扱きの扱いについても、孝太郎がどう導入すればよいか考えておくこととする。この扱いは村の運営にかかわることなので、慎重に考えておいてもらいたい」


 百太郎のこの宣言で話は終わった。

 もう遅い時間ではあったが、義兵衛は家を飛び出して工房へ向った。


農作業で工房の人手が不足するという指摘を受けて焦る義兵衛です。

夜になりましたが、工房へ転がり込む義兵衛というのが次回となります。

この小説の「農業編」はこのように孝太郎へ丸投げしてしまいました。

申し訳ありませんが、暫くの間PCレス環境にいるため、予約投稿分を順次公開するだけとなります。

感想などお寄せ頂いても、5月末まで返信できませんのでご了解ください。

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