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工房の労務管理 <C2115>

1回休みという格好になります。

工房の中がどうなっているか探る話です。

 白井家から戻った義兵衛は、心を癒してくれる工房へ向う。

 ただ、工房の皆はこの義兵衛を歓迎しているかと言えば、実は皆が皆そうでもなかったりするのだが、それは別の話なのだ。


「助太郎、話がある」


 そう言って、工房の一番奥にある座敷で相談に入った。

 まずは、登戸から戻った後の工房の状況を聞き取る。


「皆には12000個の小炭団生産が必達であることを説明しました。根性だけでは達成できないので、生産方法を再検討しているところです。今2列で型に詰めていますが、列を増やして調整できないか、工程で滞留するところがないかの見極めを予定しています。

 また、下側の凹みが抜き取りの効率化の妨げになってるので、これをなんとかしたい。こういったことを考えています。

 ところで、午前中は甲三郎様への報告だったのでしょう。どうだったのか教えてください」


 義兵衛は、甲三郎様に報告した内容とその反応について説明した。


「近々、甲三郎様が名主を集めた相談を開催される。僕と助太郎は、特別に参加せよ、とのことだ。そこで、70万個を売ったお金をどうするかという相談をする。最終的には、お殿様へ報告し決済される運びになっているが、工房分としての金250両は確保しているので、そこは安心してよい。

 それよりも気になったのは、甲三郎様が飢饉と噴火の話をどこかで聞いた覚えがあると漏らした件なのだ。僕の知る範囲では、同じような神託が他であったとは聞いていないが、助太郎は何か覚えはないか」


「実は、飢饉があるという神託が降りたということを聞いたときに、やはりそうか、と思いました。義兵衛さんが説明した4年後とか7年間という具体的なことは無かったのでが、いずれ飢饉があるという思いはありました。それが具体的になったのだな、という感じでした。ただ『いずれ飢饉になる』という話をどこでどう聞いたのかは思い出せません。まあ、こんな噂話はしょっちゅう流れていますから、あまり気にしてもしょうがないのでしょうけれどもね」


「それもそうかな。

 あと、卓上焜炉と外殻に焼印を押していることを大丸村の円照寺に承諾してもらう必要がある。前に一緒に大丸村に同行をお願いしたが、どうかな」


「毎日12000個ですよ。今、手を離せられる訳ないじゃないですか。できれば、これからすぐに手伝ってもらいたいくらいですよ。義兵衛さんが来ると、その後から目が回るほど忙しくなるって、工房の皆は言っています。当然、大きな目で見ればそれ相応のことはあるのでしょうが、実際に作業している人等がそれを実感できているかは別なんですよ」


 助太郎から難しい問題を突きつけられた。

 最初からいた金程村の5人ならば事情も判ってくれているだろうが、つい7日ほど前から参加した23人にはどう見えているのだろうか。

 まだ作業や工房の様子に慣れてもいないだろうから、もう少ししてから感触を聞いてみたほうが良いのだろうか。

 こういったことに敏感なのは女性陣なので、米さんから探りを入れてもらうのが良いかも知れない。

 いや、米さんは立場があるので、本音を聞きだせるかどうか難しいに違いない。

 ならば、春さんの出番か。

 だが、春さんはどうも考えなしにストレートに聞いてしまい、かえって仲間から敬遠されてしまうかも知れない。

 聞きだすのには梅さんが適任かも知れないが、以前のやりとりから、基本的に敵視されている感じがする。

 ならば、だからこそ梅さんから意見を聞くべきなのだろう。


「助太郎、工房で実際に作業する人が、作業の結果どのように役立っているのかを理解していないのは問題だと思う。皆がどのような意識で作業しているのかを知りたいが、僕が直接聞くと意見を曲げる可能性がある。そこで、梅さんがこういった皆の意見を聞いて回って僕に教えて欲しいと思うのだがどうだろうか」


「梅にできるかどうか、ちょっと不安ですね。梅と仲がいい万福寺村の桜に頼むのがいいように思えます。義兵衛さんが直接桜に頼むと実態が上手く聞き取れないと思いますので、俺から梅さん経由でそれとなく頼んでみますよ。

 ただ、思わぬ不満が出ると対応に困ります。場合によっては工房で働いてもらうのが難しいということもあるかも知れません。例えば、この作業で個人的に法外の報酬を期待している場合なんかです。

 気になっているのが、細山組は荷物運びで登戸へ行っていますが、そこで実際にご馳走を食べています。すると、俺たちはなんで美味しい思いができないのか、なんで細山組だけなんだ、という風に思う人が出てきます。今後、頻繁に登戸へ小炭団を運びますが、機会均等ということを説明できるよう考えておく必要があるでしょうね」


 助太郎はおき得る事態の一つを説明してくれた。


「その通りだと思う。最初感じた違和感がその内消えてしまうこともあるが、放置することによって段々悪いほうへ転がったり、別な不満の発生に繋がることがある。皆が気持ちよく力一杯努力してくれる環境がないと、たとえ最初は目標を達成できていても、その内見えない要因で生産目標が達成できなくなり、お互いに自分のせいでないと言い訳ばかりするようになる。いろんな不満の兆候をうまく捕まえて、きちんと対応することがとても大事だと思う」


 そう思ってはいるが、2・6・2の比率ということがあり、全部で30人規模の今では、6人ぐらいがあまり役に立たない可能性があることを経験則は示唆しているのだ。


 何か怪しげな感じになりかけたとき、助太郎が別な話をし始めた。


「実はさっき、面白いものを見せてもらいました。

 万福寺村から来ている弥生さんの弟で平太という名のやつですが、10匁の練炭を竹筒に取るのに新しい方法を考えたというのです。1寸丁度の厚さに練った炭を引いておいて、これを竹ヘラで同じ大きさに切り出すのです。そうすると、大体が重さ測定を一発で通るし、まとめて25個分分けることができるのですよ。これは、ご褒美に相当します」


「手の指ですくい出すことにしか目がいってなかった。福太郎があまりにも手際よくやるので、皆同じ程度になれば解決すると思っていたが、そんな手があったのか。一番手がかかりそうに思えていたところが解決すれば、型を使う作業を2列ではなくもっと増やせる。その新しい作業を是非見たい」


 豆腐を包丁で賽の目に切る感じで、1個が10匁になっているという姿を思い浮かべた。

 気持ちが突然明るくなった。


 二人で工房の練り炭を竹筒へ入れる工程の場所へ向う。


「これが新しい方法です。さあ平太、やって見せてくれ」


 平太は1寸厚の木枠を置き、そこへ練り炭を盛ると平たい板で横薙ぎし、木枠を外す。

 すると切断前のカステラといった趣の、1寸厚の四角い塊が出来上がっている。

 そこへ、定規を当てながら竹ヘラで切り出しをし、小さい四角い塊を弾き出していくのを見せてくれた。


「この大きさだと丁度25個分が取れます」


「指先で掴み取る方法しかないと思っていたので、これは凄く上手いやり方だ。助太郎、これはまさしくご褒美だよな」


「はい、平太、期待しておけ」


「ちょっと思いついたので、やらせてもらっていいかな」


 義兵衛は、カステラ状の塊を前に、定規2個にもってきた糸をあて、縦に4回・横に4回強くこすり付けて引き抜いた。


「こうすると、竹ヘラを逐一定規につけて弾き出すより早いかな」


 作業を見ていた皆は、ほう、と声に出している。


「しかし、このやり方は平太が思いついたものをちょっと工夫したに過ぎない。なので、この作業の実質的な考案者は平太だ。平太式分割法とでも名づけていいのじゃないかな」


 皆が拍手していて、平太は満足した笑みを浮かべている。

 この分だと、思ったより不平・不満は小さいに違いない。

 後を助太郎に頼むと、義兵衛は家へ戻っていった。


ちょっとくどい回でした。そして製造工程の一番手がかかる部分が解決できました。

次回は、百太郎・孝太郎を交えての今後の分担の仕切り直しをします。

PCを扱えない環境に居り、感想などの返信が5月末になることをご了解ください。

よろしくお願いします。

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