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萬屋・お婆様の執念 <C2107>

ミイラ取りがミイラ?ではありませんが、また同じ流れになっていきます。

GWも終わり、さあ、気合を入れていきましょう。

実は前々回からこの辺りの執筆をGW中にしていたため、今までの「きただ」執筆と違った感じになってしまっていますが、それはそれで楽しんで頂ければと思っています。

「金程村の助太郎です。義兵衛さんは来ていますか」

 微妙に止まっていた座敷の空気が動き始めた。

「おおい、助太郎。奥の座敷にいる。こっちへ来てくれ」

 ここはまず、いつものルーチンに戻ろう。

「まずはいつものようにしましょう。

 前回3月14日以降の委託販売の状況を教えてください」


 番頭の中田さんは説明を始めた。

「七輪3個は全部売れてしまいました。

 普通練炭は55個出ましたが、内七輪に各16個付けたので、単独で売れたのは7個、残りは8個です。

 薄厚練炭336個は全部売り切れています。内、七輪に各47個付けていますが、まだ需要があります。

 炭団1979個は、1325個売れていて、654個残っています。売り上げは多少鈍っています。

 焼印入りの七輪、卓上焜炉4個、小炭団196個は本店に持っていっていますが、こちらの代金は清算済みです。

 売り上げは、77900文(=約195万円)なので、金程村の取り分は62320文(=約156万円)です。

 小判13枚と銀を計100匁分、4文銭80枚でお渡ししたいと思いますが、それで良いですか」

「はい、それで準備願います。

 七輪は練炭と組み合わせして売ったのですね。

 売り先は、どういったところなのか判りますか」


 中田さんは小僧にお金を準備するよう言いつけでから、質問に答えた。

「三個とも、川崎宿の料亭でした。

 店の名前は控えていますが、どなたも加登屋さんの知り合いのようです。

 多分、加登屋さんが自慢したのを聞きつけたのではないですか。

 どこで聞きつけたのかは判りませんが、前回持ってこられた翌日には買い付けにきたそうです。

 値段は金2両半としたのですが、それでも問題ないと言って、どの店も判で押したように薄厚練炭を20個つけて3両置いていくのです」

「ありがとうございます。

 しかし、もう練炭自体は売れなくなったと見てよいのではないでしょうか」

「難しいところですが、表看板を外して、強いて求めてくるお客さんだけを相手にしますよ。

 持ってきて頂いたものとあわせると、

 七輪:2個、普通練炭:8個、薄厚練炭:324個、炭団:1754個、卓上焜炉:4個、小炭団:4800個

 ですね。

 卸しの最低保証価格は、先に提示頂いたものでよいと本店から言われています。

 これを今卸しということで掛売金とすると、70736文(=約177万円)が金程村分です。

 ただ、普通練炭と薄厚練炭は、今までの小売価格を維持すると、例の7割特約で8548文(=約20万円)を上乗せできます」

「判りました。それで良いです。

 委託販売については、これで終了ということになりますね。

 今回の金額については、明細をつけた書付をください」


 ここまでが、今までのルーチンとしての遣り取りなのだ。

 いつもだと、ここで銭を受け取り村に帰るのだが、今回は萬屋店主の千次郎さんがいる。

 お婆様からの叱咤しったがあったことは判るが、愚痴をこぼしにここへ来た訳でもあるまい。

 すると『何をいつまでにどれだけ』を、直接交渉しようとするために違いない。

 ならば、生産管理の長である助太郎がいる今が丁度良いので、そのように対応するまでだ。


「申し遅れましたが、こちらに来たのが、金程村で練炭・炭団を作る工房の責任者で、助太郎と申します。

 助太郎の配下に各製品・工程のおさがおり、長の配下が製品作りをするという体制になっています」

「助太郎と申します。

 行きがかり上、物を作り出す責任者・管理者ですが、色々な案はいつも義兵衛さんから出てきます。

 俺はただ義兵衛さんの言うことを、愚直に仕上げて物を出すことに専念しているだけの田舎者です。

 ただ、自分で言うのも何ですが、腕は確かと思っています。

 よろしくお願い申し上げます」

「義兵衛さんといい、金程村にはよほどの人物が揃って居ると見えます。

 こちらこそ、よろしくお願いしますよ」

 千次郎さんからの返礼が終わった。


「ところで、率直にお聞きします。

 萬屋さんへは、七輪・練炭や炭団をいつまでに、どの程度納めれば宜しいのでしょうか」

 駆け引きなしの直球勝負に出た。

 横に居る助太郎が身構えるのがわかった。


「義兵衛さん、まずは木炭問屋がお金を稼げない時期にも売ることが出来るものがあるという発想に驚かされました。

 そして、お婆様と大番頭も含めて話し合いをし、卓上焜炉に萬屋の命運を賭けることにしました。

 4月から萬屋と縁が深い2軒の料亭で、卓上焜炉を用いた宴席料理を出します。

 この両料亭の1晩の膳数は合わせて120席と聞いています。昼間は2回転するので、さらに200席分、合わせて一日320個の小炭団が消費されます。

 4月全体で、9600個なので、小炭団1万個と膳用卓上焜炉150個の準備ができたところで売り込みを始めます。

 読めないのが、この料亭で出すものを見て、他の料亭がどの程度必要と言ってくるかなのです。

 大番頭は1日6000席分と言いましたが、これが夜の最終的な数字として、実際は昼席もあるので1日1万個と見込みました。

 先に中田が3月末までに6万個といっていますが、これをまず10万個に変更してもらいたい、というのが最初のお願いです。

 そして、以降5月末までに10日毎に10万個、4月に3回、5月に3回の総計70万個を卸してください。

 この70万個という数字は、萬屋が確実に買い上げを保証した数量です。

 もし、商売が不発に終わっても、確実に引き取ります」


 助太郎は目標に掲げた3月末10万個とドンピシャの数字が出てきたので驚いたようだ。

 それだけでなく、70万個の契約と言えば金1050両の掛売り金になる。

 流石に、年155両が目標と言っていたのと桁が違う話で義兵衛も俺も驚いた。

 しかし、ここは交渉の場なので長い目で見る必要がある。

 小声で助太郎に確認する。

「1日1万個作ることはできるのか」

「原料さえちゃんと出してもらえれば、1日12000個までなら大丈夫です。

 こうなった以上、普通練炭や薄厚練炭は別口で考えませんか。

 もし、それができるのなら15000個まで頑張れると思います」

「よし、判った」


「それを了解しました。

 6月以降はどうなりますでしょうか。

 沢山買って頂けると思って色々段取りした挙句、6月以降は引き取れませんとなると、村は全滅です」

「そこは、お互い様です。

 なので、萬屋は命運を賭ける、と申しました。

 今日から4月末までのほぼ40日で勝負が決まると考えています。

 順調に伸びるのであれば、前倒しや上乗せ、6月以降の見込みをお伝えできるでしょう。

 私の勘ですと、最終的に1日1万個では不足すると思っているのですがね。

 もしこの企てが不調に終わるなら、萬屋は株仲間の権利を売ってでも金を作り、金程村の借金や膳用卓上焜炉の製作費用を清算します。

『我々が頑張れるよう、義兵衛さんには江戸に出てきてもらい、最低でも4月末まで萬屋で陣頭指揮を取ってもらいたい』

 お婆様はそう強く申しておりました。

『店と村は運命共同体、一連托生と言えば、義兵衛さんのことだから否とは言えないはずじゃ。

 お前が必ず首根っこを捕まえてでも連れてこい』

 が、こちらへ来る時の見送りの言葉でした」

 最後にそう白状して、千次郎さんは肩を落とした。


 結局、義兵衛は人質になるしかないのか。

 一体誰が、赤唐辛子の世話をしてくれるんだ。

 薩摩芋だって、そろそろ植える準備をしなきゃいけないし、間に合わないよぉ。

 それはそうと、今のこの微妙な空気をどうにかしてくれ。


「ちわ~。加登屋です。

 こちらに義兵衛さんと助太郎さんはおられますか」

どえらい注文を頂きました。そして何故かお婆様が絡め獲ろうとする姿が見えてきます。

微妙な空気を崩して、加登屋さんは救世主になれるのか、というのが次回です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 社運を賭けた巨大プロジェクト。 しかも先代社長夫人の肝煎りで。 どちらも資金を根こそぎ投入だ。
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