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登戸の道具屋で見た唐箕 <C2105>

唐箕です。大きいです。昔の民具では異彩を放っています。

今でも電動式モータで風を起す製品が売られています。

でも江戸時代なので、店主は千石とおしを勧めてきます。

 道具屋の店主に変わり者扱いされたが、義兵衛はそれでも客なのだ。

 店主から鍬を取り返すと、鉄皿と一緒に売り物とは違うところへ一旦置いた。

「それで、ここへは唐箕とおみを見せてもらいに来たのです」

 唐箕なんて大きな道具がそんなに沢山置いてあるはずもない。

 一番奥にドンと置かれていた。

 横についている車廻しの柄(=ハンドル)を回して箱の中の羽根車を動かし風を作りだすようだ。

 上に四角い漏斗じょうご型の口がついており、ここから籾摺り後の籾殻と玄米が混ざったものを入れるようだ。

 車廻しを触っていると、道具屋の店主が典型的な商人の笑みを浮かべ寄ってきた。


「この唐箕に興味がおありですか。

 上から入れたものを風で3つに吹き分ける仕組みなのです。

 一番下の穴から玄米が、その横の穴は実が入ってなかった籾が、真横側の穴からは籾殻が風に押されて出てきます。

 おそらく、坊の村では箕を振るって分けていることと思いますが、この唐箕を使えば大した技量がなくてもゴミや籾殻を吹き飛ばして、簡単に玄米だけ選り分けることができます。

 こういった大掛かりな仕掛けを使わない向きには『千石とおし』をお勧めするのですがね」

 そう説明しながら、唐箕の横に展示してある千石とおしの方を見せる。


 千石とおしは、いわば網目ですスタイルの道具なのだ。

 上から玄米と籾殻の混合物を入れると、小さな穴が開いた斜面をすべり落ちながら、重い玄米は網の下に落ち、軽い籾殻がそのまま最後まで滑っていくという原理の道具だ。

 実はこの千石とおしは、米の種類や出来によって角度を微妙に調節する必要があり、一発で上手く分離できない場合もあるという変な知識を持ち合わせていた。

 なので、斜面に平行して複数の網を持つ『万石とおし』というものができた。

 あえて店主に意見する訳ではなく、あくまでも唐箕に興味があるということをアピールする。

 展示されている唐箕なら、充分よさそうだ。


 しかし、いかにも大きい。

 買った後に、そのまま持ち帰るのが難しければ、分解して持って帰るのもありだろう。

「この唐箕、分解・組み立てはできますか」

 村への運搬を考え、聞いてみる。

 唐箕の中は風洞になっており、このまま運ぶというのは空気を運ぶようなものなのだ。

 ならば、持ち運びできるように分解し、村で組み立てればよい、というのが考え出した案なのだ。

「できなくはないですが、それなりの技能がないと分解・組み立ては素人には難しいでしょう。

 そんなことをしたら、今きちんと動いているものの調子を、使う前におかしくしてしまいますよ」

 普通の村人ならそうかも知れないが、金程村には助太郎が居るのだ。


 義兵衛はこう切り出した。

「この唐箕はお幾らでしょうか」

 まだ若造で冷やかし程度に思っていた義兵衛がこう言うと、店主は驚いた。

 購入する意図があるように見えなかったからだ。

「結構いたしますよ。

 6000文頂きますが、坊主に用意できますかな」

 道具屋とは言え、これも商人なのだ。

 間違いなく、倍ほどの値段で吹っかけているに違いないし、ここで言い値で買ってやる義理はない。

 だが相手は大人だし、若造の値切り交渉は時間の無駄に終わる可能性が高い。

 ならば、交渉に長けた大人に頼ればよい。

「はぁ、その値では、しかたないです」

「しかし、この千石とおしなら、かなりお安くできますよ。

 使った効果が同じなら、こちらをお求めになったほうがお得ですよ」

 この店主はやたら千石とおしを勧めてくるが、こういう手合いは売る側の都合がからんでいることが多い。

 うかつに話に乗ってしまうと、抜け出せなくなるに違いない。

「出直してきます」

 とだけ告げて、店を出て加登屋へ戻った。


「助太郎、実は格好の唐箕があったのだが、2点問題があって引き返してきた。

 まず、値段だが6000文と吹っかけてきている。

 僕が思うに高くても半分の3000文(=7.5万円)と見ているが、やり手の店主で、なかなか切り込めていない。

 次に、大きさなのだ。

 幅は2尺、高さが半間、長さが1間の箱を想像して欲しい。

 箱なので重くはないが、横に車廻しの柄がついていて運搬に気をつける必要がありそうなのだ。

 場合によっては、分解して運び、村で組み立てることも考えている。

 一緒に来て見て欲しいのだ。

 ところで皆、昼食は食べ終わったのかな」

 皆を代表して左平治が、美味しく頂いたことの返事をした。


「まず、値段の交渉については加登屋さんを頼ろうと思っている。

 交渉が上手くいって、持ち帰るという話になったら、細山組に店に来てもらって託すことにしたい。

 その時、無理ということであれば、その場で分解する。

 そして、村で組み立てるが、組み立てるのは分解した助太郎になる」

 助太郎と左平治は、この方向で了解した。

「あと、鍛冶屋で手に入れたこの鍬も、細山組の手で持って帰ってもらいたい。

 助太郎は、道具屋での遣り取りが終わった後で、外殻と七輪の組み合わせで料理用の焜炉となることの説明をしてもらいたい」

 人の行き来を整理したつもりが、返ってややこしくなってしまった。


 まず、加登屋さんに事情を説明し、助太郎と一緒に道具屋へ向うことにする。

 その間、細山組は炭屋に今回の荷を届け、後から義兵衛が説明に来る旨を伝え、加登屋に戻って来て指示待ちをする。

 これを最初にするのだ。


 加登屋さんが道具屋に入ると、店主と話を始めた。

 その間、助太郎と先ほどの唐箕のところへ行く。

「これが唐箕で、この車廻しを動かして箱の中に風を起し、軽いものと重いものを選別し、それぞれの口から外へ出す仕組みだ」

「なるほど、大きいですね。

 しかし、良く見ると大した仕掛けではないです。

 細山組の5人掛りなら、分解せずとも持って帰れますよ。

 万一どこか不具合が出ても、これなら直せそうです」

 助太郎は車廻しから出ている柄を少し動かして、風がどう流れているのか、羽がどう付いているのかの様子を見ている。


 加登屋さんが呼んだ。

「義兵衛さん、話が付きました。

 おっしゃる通り、3000文で譲るそうです」

「ありがとうございます。

 それでは、銀で30匁支払います。

 お確かめください。

 後から、ここに細山村の子供を5人こさせます。

 そいつらが運んでいきますので、よろしくお願いします」

 そう声をかけ、義兵衛・助太郎は加登屋へ戻っていく。


「今回は値段の交渉をして頂き、ありがとうございました。

 田舎から来た若造なもんで、どうしてもこういった値切り交渉は足元を見られて進まないのです。

 おかげ様で随分助かりました」

「いや、道具屋も吹っかけていることを認めましたよ。

 そこから先は早かった。

 なかなか売れない千石とおしを先に売りたかったそうで、義兵衛さんをどう誘えばいいか、なんて考えていたそうですよ。

 これでひと仕事終わったのであれば、そろそろ私の番ですかな」


 加登屋さんの店に着くと、細山組が表に出て雁首そろえて待っていた。

「義兵衛さん、大変です。

 炭屋さんのところに日本橋のご主人がこられていて、あの番頭さんが直ぐに義兵衛さんを呼んで来てくれと言ってます。

 直ぐ行ってください」

 ありゃりゃ、これは段取りが変わってきてしまった。

「助太郎、唐箕の運搬のことは任せた。

 細山組を連れて道具屋へ行ってくれ。

 細山組はそのまま村へ返していい。

 ただ、助太郎は加登屋に戻って、外殻の説明をしていてもらいたい。

 僕は、これから炭屋へ行くが、いつ戻れるかは読めない」


そのままで運搬できるかが、はっきり判りませんでした。

ところで、江戸から炭屋の主人が登戸に来ている、と書いてしまいました。

どうやら、農業編には突入できそうにありません。というのが次回です。

いつもながら、感想・コメント・アドバイスなどお寄せください。よろしくお願いします。

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