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登戸村への出荷 <C2103>

99話の続きになります。なかなか農業編に切り替わることができません。

■安永7年(1778年)3月21日 登戸村


 今日は7日振りに登戸村へ向う日となった。

 結構間が空いてしまったので、七輪や練炭の商売がどんな具合になっているのかが心配だ。

 昨夜言った農具の買い付けのこともあり、百太郎は全部で銀40匁と若干の小銭を用意しておいてくれた。

 それを有り難く受け取り、まだ早朝ではあったが工房へ向うと、助太郎は米と梅に留守中の心得を訓示していた。

 登戸へ持っていく製品の数量は、以下の通りだ。

 ちなみに括弧内は、加登屋さんのところに置いておく分になる。

・七輪:    4個(  2個)  5.3貫

・七輪外殻:  3個(  3個)  3.0貫

・卓上焜炉: 19個( 15個)  1.9貫

・薄厚練炭:336個( 12個) 29.6貫

・炭団: 1200個(100個) 26.4貫

・小炭団:5000個(200個) 45.0貫

・強火力練炭:16個( 16個)  1.4貫

 全重量は113貫(=422kg相当)にもなるので、細山からの5人を入れて7人での運搬となる。

 炭屋分・加登屋分に荷物は振り分けられ、全部で7脚の荷に組み上げていた。

 一人当たり15~16貫といつもより多少重く結構な量があるが、細山組5人の運搬能力は高くなんとかなると見込んだのだ。


 助太郎の訓示が終わると、米が話しかけてくる。

「いよいよ、皆で作った小炭団が世の中に出ていくのですよね。

 初荷の出荷式でもやりませんか」

 士気を高めるには効果的かも知れないが、士気を上げてもらう対象となる寺子屋組18人が今は不在なのだ。

「それは、皆の気持ちを一つにまとめるのにはとても効果があると思うけど、肝心の寺子屋組がいない間に行ってしまう。

 なので、大休憩のときに米から皆に感謝の気持ちを話しておいてもらいたい。

 ただ、今回持って行く小炭団は、卸しで金7両以上という大変なお金になるのだが、そういった金銭のことを伏せておいて欲しいし、親兄弟にも吹聴しないよう注意しておいて欲しい。

 お金が絡むと、どんな変なことを考えてくる大人が出るやも知れない。

 それが皆の結束に影響することが心配なのだ」

 米は判ってくれたようだ。

 そんな話をする間に、伊藤家小作の1人、万福村の2人が工房にやってきた。

 いつも現れる順は、近いところからなので、次は細山村の5人、最後に下菅村の2人となる。

 間もなく、細山村から9俵の木炭を運んできた5人が現れた。

 どうやら、細山村のザク炭はこれで終わりのようだ。

 あとは『まだ俵に詰めていないものがある』とのことだが、根こそぎ集めるのはまだ先のことだろう。

 ちなみに、金程村は逆さまに振っても出てこないほど綺麗さっぱりザク炭は消えている。


 工房で一息入れると、義兵衛・助太郎の加わった7人が登戸に向けて出立する。

 工房の出口から、米・梅だけでなく万福寺村から来ている桜・弥生も含め、計4名の女性陣が手を振って見送ってくれている。

 居残り組の男共3人も工房の外で大きく手を振っている。

 新体制となってからの初出荷と判っていて、気持ちが高揚しているのだろう。

『俺達が作ったものが、売り物になってここから出て行く』という想いが伝わってくる。

 米はこのあたりの気を察していて、派手に見送りたかったようだが、申し訳ないことをした。

 梅が桜に『あの荷が登戸で凄い大金に化けるのだよ』とこっそり耳打ちしていたが、後で注意しておく必要があるだろう。

 卸しの値段が決まっていれば掛売りになるため、実質の銭は入らないが、実は荷全部で金14両にもなる。

 麻痺しかけているが、今まで米で納めていた年貢分・35俵(=2100kg)に相当する量なのだ。

 担いでいる荷がこの金額になることは伏せて、ただ皆に注意して運ぶように声掛けをしながら村を出た。


 登戸まで行く途中、今日の目的を皆に説明する。

 今運んでいる荷を、加登屋と炭屋へ送り込む。

 鍛冶屋から備中鍬を受け取り、村へ持ち帰る。

 良い唐箕があれば、購入して持ち帰る。

 ここまでが、細山組もかかわる目的である。

 多分、また加登屋で昼飯を一緒に食べることになり、その後細山組だけで工房へ戻ってもらおう。


 それ以外では、ざっと次のようなものが考えられる。

 卓上焜炉用の鉄皿を鍛冶屋から受け取る。

 炭屋から、おそらく最後になると想定される委託販売代金を受け取り、これを村に持ち帰る。

 加登屋で、外殻・七輪の組み合わせでできる料理用七輪の説明をする。

 料理用七輪と卓上焜炉の販売について協力を求める。

 炭屋番頭と卸し価格の合意と、納品希望製品・数量・時期を確認する。


 今回の登戸村でせねばならないことは結構多いので、要領よく進めなければ片付かない感じなのだ。

 拠点を加登屋に置き、そこから回っていくのが良いようだ。

 そう考えるうちに登戸へ着き、加登屋の店頭に7人が並んだ。

「金程村の義兵衛です。

 いつもお世話になっております」

 大きな声で挨拶すると、主人が出てきた。

「これは、これは、7日振りでございますな。

 ようお出でなさった。

 さあ、皆さんも奥へ行きましょう」

 主人に促されて店奥へ進み、荷を土間に置いて座敷へ上がった。


「今日はこの村でしなければならないことが沢山あるのです。

 加登屋さんを拠点にして動き回っても良いですか」

 義兵衛は真っ先にそう伝えた。

「どうぞ、こちらを自在にお使いください。

 実は、頂いていた七輪について、炭屋番頭さんが買い付けた1個以外に5個残っていたのですが、これがなんと全部掃けてしまいました。

 練炭と組み合わせて金1両という値段にしていたので、まさか買う人がおるまいと思っておりました。

 しかし、炭屋さんから紹介されたというお客様が突然何人もいらっしゃって、買っていかれました。

 売り切れになった後でも、お客様が『七輪は無いのか』と言ってこられて、ここで使っている七輪を指さして『それを売れ』と迫ってくるのですよ。

 以前に頂いていた普通練炭も薄厚練炭も、もうすっかり掃けてしまいました。

 店としては大儲けですが、義兵衛さんから頂いた格好のものが、大金に化けてしまい本当に申し訳ない感じです」

 どうやら、無印の七輪はこれで全部売り切ってしまった格好だ。

 どのようなお客が買っていったのか詳細を確認すると、全部末端の利用者で、土器を作る側の人ではないようだ。

 これならば、秋からの一般売り出しで類似商品が出回る可能性は少ないだろう。

 今年の秋・冬は、ブルーオーシャンで売り続けることができそうだ。

 あとは、焼印効果でどこまでバッタもんを押さえ込めるかに注意すればよい。


「そんな訳で、今日の昼飯は加登屋のおごりにさせてください。

 とは言っても、いつも筏流の船頭なんかに出しているものと同じなのですがね」

 加登屋さんがこう言うと、細山組の5人は『わぁ~』と歓声を上げた。

「では、準備してきますので、そのまましばらくお待ちください」

 女将がお茶を配り、7人は座敷の卓を囲んでくつろいでいる。


「ここのメシは美味いんだぞ。

 お前等も吃驚びっくりするから」

 前回運搬を手伝ってもらった2人が、ニコニコしながら今回新規に加わった1人に先輩風を吹かす。

 それを見て、種蔵が複雑な顔をしている。

 どうやら、前回同じことをこの2人にしたようで、自分のことを思い出しているのだろう。

「助太郎、ここでの用事が結構多いので、僕は鍛冶屋と道具屋を回ってくる。

 皆はゆっくり昼メシを食べていてくれ」

 そう言い残すと義兵衛は鍛冶屋へ向った。


やはり、米さんが言ったように、初荷相当として賑やかにしたほうがよかったのでしょう。

朝出立ではなく、寺子屋組が参加できる昼に出発式をすべきでした。

こういった節目を義兵衛さんは形式として多少軽視していますが、米さんのほうが上手なのでしょうね。

次回は、鍛冶屋さんでの話しとなります。

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― 新着の感想 ―
[一言] バブル期の勤務先では新機種の出荷毎に出荷式をしていました。 工場長や各科から課長とかが出席していました。 我々下っ端は後日社内報で「へ〜」みたいな感じでしたねぇ。
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