魔力
緑の一族サイズの家は、扉が小さければ、高さも低い。果たしてこのサイズの家の中に入れるのかと思考を巡らせていると、キオが「じゃあ、お前ラ、魔術使うからナ」と、俺達へ手をかざした。
「トルスマ」
「は?おい、ちょっ、キオ何して」
「ダーカーラ、魔術使うって言ったダロ。お前ラの身長じゃ家に入れないからナ」
「なるほど。それなら安心だわ」
キオの手の平から淡い緑色の光がほとばしる。無数の光の玉はふよふよと俺とメリアの周りを飛び回る。仄かな暖かさに身を任せていると視線の高さがだんだん下がっていった。
光が弱まり、光の玉が空中に溶けるようにして消える頃には、俺とメリアはちょうどキオと同じくらいの背丈になっていた。
ーーーおー、背が低くなった!
体が軽い。昔はこんなに小さかったんだなぁとぼんやり考える。
俺は小さい頃、村の子どもと一緒に遊んだり、イータにかまってもらったり、父さんの仕事姿を眺め、母さんからガラス細工を教わったりしていた。どちらかと言えば、外で遊ぶより中でちまちま物作りをする方が好きだった。
「オレは三百年前に学習してんだヨ。お前ラと同じ年頃だったジルスが無理に家に入ろうとシテ、危うく家が壊れるところだっタ。……まぁ、ジルスよりエランの方が賢そうだカラ、そんなことにはならなかったかもナ」
キオが家の扉をあける。何の木だろうか、俺が知らない木で造られた扉は、見た目はとてもがっしりしていて重そうなのに、キオの動作からはそれが感じられなかった。
「キオさん、この扉には何の木が使われているんですか?」
メリアが扉に指を触れさせる。柔らかい色合いの木で、メリアは記憶をたどっていたようだが分からなかったらしい。少なくとも、ヘルーニでは使われていないと思う。
「これは魔木の一種でマッカニーっていうんだガ、お前らは知らないよナ。魔力が少ない平民が楽に切り倒せる木じゃないカラ」
ーーー魔木?マッカニー?平民は魔力が少ない?いや、まず無いし……。
頭の中に疑問符が飛び交っているところで「あー、分かったカラ、とりあえず二人とも中に入レ。その様子だと一切魔力に関して知らないようだからナ」と、キオが俺とメリアの背中を押した。
「魔力のことも含めて説明スル。……まず何が聞きタイ?」
「はい!平民は魔力が少ないことについて。平民はまず魔力を持ってないはずだけど」
俺達はキオに居間に通され、今は机を挟んで向かい合って座っていた。キオが出してくれた飲み物はおそらくキーカンの果汁で、爽やかな味にほっと一息ついたところで早速質問。聞きたいことが溜まりに溜まっている状態なのだ、せっかくなら全部聞いて疑問解消を目指す。
一番聞きたいのは俺が一番に質問した、平民の魔力の有無について。平民に魔力があることが発覚したら、一騒動起こるに決まっている。今までの常識が覆るのだから。
「端的に言えば、平民にも魔力はアル」
キオは、そう言い切った。
「魔力は……貴族しか持ってないんじゃ……」
「メリア、それは違うナ。魔力っていうのは誰でも持ってるものデ、むしろ持ってない人なんかいないんだヨ。ただ平民は生まれ持つ魔力が低いってだけダ。平民ほどの魔力があったところで何かできるわけでもないカラ、つまり魔力が無いのと同じだろウ」
「そうなんですか。結局は無いってことですね」
「そうダ」
……魔力は誰もが当たり前に持っているものだったのか。ただ平民は魔力が低いってだけで。
「はい、二つ目。どうして平民と貴族に魔力の差があるんだ?」
「まぁそれは個人差ダロ。というか、代々魔力が高い一族だから貴族なんじゃないのカ?魔力は貴重だカラ」
キオは魔力についてわりと詳しく教えてくれた。その内容は、魔力のことを全く知らなかった俺達には少し難しいものだった。
人は誰しも、魔力を持って生まれてくる。そして、魔力の高さには個人差がある。
成長すると、体内の魔力を蓄える器が大きくなり、蓄えることができる魔力量が増える。
また、頻繁に魔力を使用すると器が大きくなる。
俺が驚いたのは、常に魔力は体内にあるべきもので、極端に減ったり、万が一枯渇すると体に害を成すということだ。
平民にはまともな魔力がないのでまず使う機会さえ無いのだが、貴族は日常的に使うらしい。逆に、使わざるを得ないのだそうだ。まぁ当然のことかもしれない。魔力関係のことは全て貴族にお任せするしかないのだから。
だから、貴族は魔力が減りすぎないように気を付けている。体内の魔力が一切なくなると、場合によっては命に関わってくるというのだ、恐ろしくてゾッとした。
……平民に生まれて良かった。
俺の中の貴族に対するイメージが、ただの偉い人達から大変な人達へと変わった。
もし、生まれ変わって貴族になったら……俺は間違いなく仕事を投げ出す。兄弟がいたら、仕事を押し付けるかもしれない。兄として最低だとは思うが、とてつもなく面倒臭そうだし、危険だし。だが、もしかして貴族からしてみれば、魔力を使うことは別に怖くないのかもしれない。その時になんとかしよう。
ちなみに、魔力が無くなった場合は夜しっかり寝ると次の日には回復しているのだそうだ。魔力を自然回復させるには、睡眠をとるのが一番効果的なのだ。もしくは、魔力を回復させる魔力薬という割りとお高いものを飲めばいいらしい。お高いというのがどれぐらいかは知らないが、どうせとんでもない金額なのだろう。
それらを知って、再び俺は思った。
ーーー貴族ってめんどくさい。
魔力が、実は誰にでもあるものだと判明。
残念ながら平民の魔力は低いです。
魔力活躍の場面は来るのでしょうか?
次回は、まだ魔力関係のお話になります。
キオとジルスの話まで、あと少し……。




