プロローグ
これは、今を生きる人々の記憶から抜け落ちた物語。
これは、語り継がれることも書き記されることもなかった失われた物語。
神は人を創造する前に、御使いとして天使を創られた。
やがて神が人を創られると、天使の一部が人と交わりを持つようになった。それは神の意思に背くものであった。何故なら、彼らは神よりも人を愛したからだ。人を愛し、人の住む世を神以上に愛してしまったのだ。
そんな天使たちは、二種類の勢力に分かれていた。
一つの勢力は神に逆らう天使たち。彼らは神の絶対的な権威を否定し、神の被造物である人や人の住む世、そして己自身に、神の持つ絶対的な権威を分け与えようとした。そしていつからか、人の住む世の理を自らの力に変える術を身につけていった。後にその力を人は「魔力」と呼ぶようになる。
もう一つの勢力は神に背き人と交わりながらも、それでも神を崇めようとする天使たち。彼らは、自分達の愛する人や人の住む世、そして自分たち自身、それらを創造した神の業を神聖なものとし神を心から崇拝していた。やがて彼らは神から罪の一部を許され神の恩恵を受けることになる。それは人を導き守る力だった。後にその力を人は「神の加護」と呼ぶようになる。
この様に人と交わった天使は、神に逆らう「堕天使」と神を崇める「守護天使」に分かれ、何千年もかけて争う様になる。しかし互いに人を愛する点は共通していたので、その争いの場はやがて人の住む地上から天上に移された。そして地上では、天使と交わった人の子だけが暮らす国が造られたのだ。
この物語は、天使と交わった人の子が、天使からその力を授り、子から孫へ代々とその力を受け継いでいた頃の話である。
それは、今を生きる人々の記憶から抜け落ちた物語。
それは、語り継がれることも書き記されることもなかった失われた物語。
それは、遠い遠い昔、幻想の中で奏でられる儚い詩の様な旋律。
だからこの物語は、幻想交響詩と云う。
プロローグ・了