年越し
明けましておめでとうございます!!
年明け記念で、ちょっとした小話を書いてみました。
ちなみにこの話は、詩音が学園を卒業した後の時期です。
なのでこの話の詩音は20才で、高円寺は21才の設定になっています。
私は今、夜景の見える小高い山の展望台に立っている。
そして隣には私の恋人である高円寺が、私の手を握りながら並んで立ち眼下の夜景を見ていた。
ここは私達しかいない穴場のスポットで、時々二人で夜景を見にここに来ている。
しかし今日は、いつもと違って特別な日であった。
私はチラリと腕に嵌めている時計を見て、今の時間を確認する。
「雅也さん、もうすぐ0時ですよ」
「なら、もうすぐ年が変わるね」
そう言って、高円寺は私に微笑んできた。
実は今日は今年最後の日で、0時になると新しい年に変わる日だったのだ。
私達が付き合ってから何度か年は越えていたのだが、お互いなかなか都合がつかず、漸く今年一緒に年越しを過ごす事が出来たのだった。
私はこの瞬間を、大好きな人と一緒に過ごせる事に喜びを感じながら、高円寺と繋いでいない手に息を吹き掛け手を暖める。
すると突然高円寺が、私と繋いでいた手を離してしまったのだ。
「え?」
突然無くなってしまった手の温もりに、寂しさを感じ慌てて隣にいる高円寺を見たのだが、何故かそこには高円寺の姿が無かった。
一体どこに行ったのかと、不安に思いながら後ろを振り向こうとしたその時、私は大きなものにすっぽりと包み込まれたのだ。
一瞬何が起こったのか分からず動揺するが、よくよく見るとその大きなものは高円寺がさっきまで着ていたコートだと分かり、漸く私は高円寺に後ろからコートの中に抱き込まれていたのだと気が付く。
そしてそれに気が付くと、背中にとても暖かいものが当たっているので、それが高円寺の胸だと分かった。
「ま、雅也さん?」
「詩音が寒そうだと思ったからさ。でもこうすれば、二人共暖かいだろ?」
「そ、そうですけど・・・恥ずかしいです」
「私達以外誰もいないんだから、そう恥ずかしがらなくても良いのでは?」
「それはそうなんですが・・・」
やはりこの体勢は恥ずかしいので、私は高円寺のコートの中で身動ぐが、高円寺は私が抜け出さないようにさらにしっかりと、コートの上から抱きしめてきたのだ。
「ふふ・・・ほら、もうそろそろ時間だよ?」
「え?」
高円寺の楽しそうな声と共に、顔だけコートから出ている私の目の前に自分の腕時計を差し出してきた。
確かにその文字盤を見ると、秒針があと少しで12時を指そうとしていたのだ。
私はそれを見て、もう高円寺のコートから抜け出す事を諦め、その温もりを感じながら日付が変わるのをドキドキしつつ見つめる。
「じゃあカウントするよ。10、9、8、7、6・・・」
頭上から聞こえてくる、高円寺のカウントダウンを聞きながら腕時計の秒針から目を離さないでいた。
「「5、4、3、2・・・」」
秒針が5秒を切った所で、私も高円寺に合わせて一緒にカウントダウンをする。
「「1」」
そして秒針が12時を指すと同時に、私と高円寺は揃って同じ数字を言うと、そのタイミングで眼下の至る所から大きな花火が打ち上がった。
「うわぁ~!!綺麗~!!!」
「・・・確かに凄く綺麗だ。どうやら、ここの場所を選んで正解だったようだね」
「そうですね!」
私は眼下で次々と打ち上げられる花火を見て、上機嫌になりニコニコしながら後ろを向いて高円寺の顔を見上げる。
すると高円寺はそんな私を見て、笑みを深めさらにギュッと私を強く抱きしめてきたのだ。
「詩音、明けましておめでとう。今年も宜しくね」
「はい!明けましておめでとうございます!私の方こそ宜しくお願いします!」
そうお互い言い合い、クスクスと笑い合った。
「来年も・・・いや、ずっとその先も一緒に新年を祝おう」
「・・・はい!」
高円寺のその言葉に嬉しさが込み上げてきて、私は心からの笑顔で高円寺に返事を返したのだ。
すると高円寺はそんな私をうっとりと見つめた後、ゆっくりと顔を傾けてきた。
私はそれを見てドキドキとしながら、ゆっくり目を閉じ高円寺を受け入れたのだ。
そして目を閉じたすぐに唇に柔らかいものが触れ、私はそのキスを受けながらそっと高円寺の背中に手を回したのだった。
暫く高円寺のキスを繰り返し受け続け、すっかり体から力が抜けてしまい、高円寺に支えて貰っていないと立っていられない状態になったぐらいに、漸くそのキスから解放される。
気付いたら花火もいつの間にか終わっていて、辺りはすっかり元の静けさに戻っていた。
私はぐったりと高円寺に体を預けながらも、その高円寺の温もりに幸せを感じていたのだ。
「詩音・・・そろそろ動けるかい?」
「・・・多分」
「ならこの後、君を連れて行きたい所があるんだけど良いかな?」
「・・・連れて行きたい所?」
「行ってみれば分かるよ」
そう高円寺は楽しそうに言うと、コートの上から私の腰を支え近くに止めてあった車に私を誘導した。
そして助手席のドアを開けてくれ、私は高円寺に促されるまま助手席に座る。
高円寺は私がしっかりと助手席に座ったのを確認すると、優しくドアを閉めてくれ、すぐに運転席側に回って自分も運転席に座った。
そして私と高円寺はちゃんとシートベルトをすると、車のエンジンを掛け高円寺が車を発進させたのだ。
高円寺の運転で暫く走っていると、とある超高層の建物の地下駐車場に入って行く。
しかし私はその建物を見た瞬間から、動悸が激しくなっていた。
そして車が駐車場に停められると、先に高円寺が車から降り助手席側に回り込んでドアを開け、さらに私に手を差し出してくる。
私はシートベルトを外しその高円寺の手を取って、ゆっくり車から降りたのだ。
「さあ、こっちだよ」
「・・・はい」
車に鍵を掛けた高円寺にエスコートされながら、駐車場に設置されているエレベーターに乗り込むと、高円寺はエレベーターのボタン付近にカードをかざした後、最上階のボタンを押した。
エレベーターがどんどん上に上がっていくのを感じながら、私のドキドキもどんどん上がっていく。
そうして最上階に付くとゆっくりドアが開き、目の前の廊下の先に大きな扉が目に飛び込んできた。
この最上階にはこの部屋の他に部屋は無く、高円寺は迷う事無くその扉に向かって歩く。
私も高円寺にエスコートされてる状態なので、そのまま一緒に扉の前まで進み、そして高円寺は持っていたカードキーを扉の鍵部分にかざしてその扉を開けたのだ。
「さあ、どうぞ」
「・・・・」
高円寺に入るよう促されたが、私はその部屋に入るのを一瞬躊躇してしまう。
しかしここまで来たのだからと、なんとか自分に言い聞かせ私は緊張しながらその部屋の中に入って行ったのだ。
扉の先は玄関となっているので私はそこで靴を脱ぎ、用意されたスリッパに履き替えて奥に進む。
そしていくつかある部屋の中で、一番広い部屋に案内されたのだ。
そこは最上階だけあって、大きな窓から見える夜景がとても綺麗だった。
高円寺は自分のコートを脱いでコート掛けに掛けると、次に私のコートを脱がせてくれて、それもそのコート掛けに掛けてくれたのだ。
「詩音、好きな所に座って」
そう高円寺に促され、私は近くにあった座り心地の良い三人掛けのソファの端っこに座った。
そして高円寺は一旦別の場所に移動してから再び戻ってきたが、その手には赤ワインのボトルとワイングラスを二個持っていたのだ。
「良いワインが入ったから、詩音と一緒に飲もうと思っていたんだ」
「ありがとうございます。でも私、お酒はあまり強く無いので・・・」
「それは知ってるから大丈夫だよ。これはそんなに強く無いワインで、きっと詩音でも飲めると思ったからさ。ただ、無理に沢山は飲まなくて良いからね」
「はい・・・」
そうして高円寺は私の隣に座り、ワインのコルクを外して持ってきたワイングラスに其々、綺麗な赤い色のワインを入れてくれた。
そして二個の内一個を私に手渡してきたので、私は恐る恐るそのグラスを受け取る。
私が受け取ったのを確認した高円寺は、もう一個の方のグラスを手に取り私の持っていたグラスに軽く当てた。
「乾杯」
「・・・乾杯」
そうお互い言うと、高円寺は持っていたグラスから中に入っていた赤ワインを飲む。
私はそれをじっと見つめてから、意を決して渡されたグラスに入っている赤ワインを一口飲んでみた。
「・・・美味しい!!」
「そうだろ?きっと気に入ってくれると思っていたよ」
「凄いですねこれ!今まで飲んできたお酒の中で、一番飲みやすいです!!」
「それは良かった。だけどいくら飲みやすくても、それはお酒だから飲み過ぎないようにね」
「はい!」
そうして暫く私と高円寺は、楽しくおしゃべりをしながらお酒を飲んでいたのだ。
「そう言えば詩音は、この時間にこの私の家に来たのは初めてだったよね?」
「あ、はい。雅也さんが、一人暮らしを始めてからは初めてですね。それにいつもは昼間か、遅くても夕飯時ぐらいまででした」
「そうだったな。そしていつも、その日中に私が家まで送って行ってたんだよね」
「はい。いつもありがとうございます」
「いや、お礼は良いよ。ただ今日は、私もお酒を飲んだからもう家まで送れないからね」
「そ、そうですよね。ならタクシーで・・・」
「私がこんな遅い時間に、君を一人で帰すと思うかい?」
「・・・っ!」
そう真剣な表情で高円寺が見つめてくるので、私の心拍数がどんどん上り顔が凄く熱くなってきた。
「・・・顔がすっかり赤くなってしまってるね。もうそろそろお酒は控えた方が良さそうだ」
「あ・・・」
高円寺は私の顔を見てフッと笑い、私の持っていたまだワインが少し入っているグラスを取り上げてしまったのだ。
私は突然取られてしまったグラスを、思わず名残惜しそうに見つめてしまう。
すると高円寺はそんな私の表情を見てクスッと笑い、「これだけだよ」と言って、何故か私から取り上げたグラスを自分の口元に持っていき、残っていたワインを一気に口の中に流し込んだのだ。
それを残念な気持ちで見ていると、急に高円寺が私の後頭部に手を回してきたので、それに驚いていると目の前に高円寺の顔が迫ってきた。
「っん・・・んんん!!!」
高円寺は私にキスをすると、そのまま無理矢理口を割ってきたのだ。
そして口を開けた私の口の中に、高円寺が先程口に含んだ赤ワインが流し込まれてきた。
その突然の出来事に私は目を白黒させながら、なんとかその口移しから逃れようと顔を動かそうとしたが、後頭部をガッシリと掴まれていた為、動かす事が出来なかったのだ。
結局私は、高円寺から口移しされたワインを喉を鳴らして飲み干す。
そうして高円寺は、私の口の中にもうワインが残っていないか舌で確認すると、漸く私の唇を解放してくれた。
しかし高円寺は顔を少し離しただけで、それ以上離れてはくれず、何故かじっと私の口許を見つめる。
私はそんな高円寺を惚けた表情でボーと見ていると、高円寺は口角を上げて笑ってきたのだ。
そして再び私に顔を近付けてくると、今度は私の唇をペロリと舐めてきた。
「なっ!」
高円寺の予想外の行動に目を見開いて驚いていると、次に唇の端を舐め取られそしてそのまま下に下り顎を舌で這われる。
そしてさらに下り、私の喉に舌を這わせてきたのだ。
「ん・・・」
その動きに体がビクリと震え、思わず甘い声が洩れる。
そうして鎖骨まで舌を這わせた高円寺は、その鎖骨辺りを強く吸ってきたのだ。
「っ・・・ん!!」
少し痛みを感じ眉を寄せていると、高円寺はゆっくり私の鎖骨辺りから顔を上げ、その吸い付いた部分を見て満足そうに頬笑む。
「・・・よし、綺麗に付いた」
「ま、雅也さん・・・」
「少し痛かった?ごめんね。本当は、君の口から溢れ落ちたワインを舐め取っていただけだったんだが、無性に君の綺麗な肌に私の印を付けたくなってしまったんだ」
「っ!そ、それじゃ今、私の胸元には・・・」
「私の印が、くっきりと付いているよ」
そう言って高円寺は、とても嬉しそうな笑顔を私に向けてきたのだ。
「こ、こんな人から見える所、恥ずかしいです!!」
「・・・なら、見えない所なら良いんだね?」
「え?」
高円寺が私の言葉を聞いてニヤリと笑い、ソファから立ち上がる。
私はそんな高円寺を不思議そうに見上げると、突然高円寺が身を屈め私の膝裏と背中に手を差し込み、一気に私を抱え上げたのだ。
「な、な!?」
「さあでは詩音の希望通り、見えない所に沢山私の印を付けてあげよう」
「そ、そんな事希望してませんーーー!!!」
「今日の朝は、遅くまで寝てて良いからね」
「いやいや!私の話を聞いて下さいーーーー!!!」
そう叫んで高円寺の腕の中で暴れるが全くびくともせず、結局そのまま高円寺の寝室に連れ込まれ、そうして高円寺の家での初めてのお泊まりを体験する事となったのだった。