混乱と混沌と混濁と
お読み下さりありがとうございます。
何かが執拗に私の顔をぺしぺし叩いてる。あ、ゴンがご飯欲しがってる。朝だ。そう思った瞬間全てを思い出した私は、跳ね起きた。どうやら、床の上で気絶してしまったらしい。
「ゴン、あなた、話さないわよね。私が見たのは夢よね!疲れてここで寝ちゃって変な夢を見たのよね。」
「うーん、違うな。君は、僕の話を聞いている最中に倒れ・・・」
「や、やっぱり現実だったの?何が起こってるの?ちょっとまって、あなたがタクヤだって証拠はないわよね。何か、もののけが私をたぶらかそうとしているとか?」
「うーん、どうやったら信じてくれるのかな。君は、新田真梨、そして、僕は森田拓也。でもこんなこと、誰も知っているな。うーん。そうだ。子供達の声が果樹園に木霊する。開花と収穫の間に。」
あ、タクヤだ。タクヤが帰ってきた。そう思った瞬間涙腺が崩壊した。私はゴンを抱き上げて、抱え込んで頬ずりをしながら、いつまでもいつまでも泣いたのだった。その頭をそっとタクヤは撫でてくれていた。
「でさ、悪いんだけど、満月の時にしか会えない上、僕に残された時間はあまりにも短いんだ。」
唐突にタクヤが言った。
「嫌だよ、行っちゃいや。いつまでもここにいて。」
「そうしたいのは、やまやまなんだけど、これでも随分、お願いして、無理をさせてもらってるんだ。でも君の心が少しでも癒されればと・・・・」
「癒されるわけないじゃない、ばかぁ。諦められなくて、それでも諦めようとして、言い聞かせていたら、また会えて。でももうすぐお別れ。もう、全然、わかんないよぉ。」
私は、混乱の極地にあった。多分、混乱という言葉は、このような状況に置かれた私を説明するために作られたのではないかと私は疑った。
「この世界は舞台のようなものだ。僕たち、一人一人には大きな役目がある。誰も役目を放棄することはできないし、舞台から降りることもできない。そして、最後の瞬間まであがき、そして、演じなくてはならないんだ。でもその大きな流れの最後を見ることは誰にもできない。今、この瞬間を演じることが大切なんだ。」
「タクヤの言ってること、全然、わかんないよ。」
「マリ、愛している、愛している、何よりも愛している。でも、もう僕に残された時間は終わったんだ。あとは、君が残された時間を懸命に生きなければならない。演じなければならない。でも、今のままでは、きちんと演じられない。そのために、僕が演じるのを助けるためにここにきたのさ。わからないよね。」
「全然!」
「でも嫌でもわかることになるさ。」
タクヤはいつだって正しい。そして、これも多分正しい。そしてその通りだった。
ゆっくりとしか進められません。すみません。