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地獄の新兵訓練

翌日、俺はクーパーに起こされた。時計を見ると午前4時。ああ、そうか。どうも下が濡れてると思ったらここはフィリピンだ。思えばここにくるまで本当に長かった。俺は運良く永住権が当たったから良かったものの当たっていなかったら今頃俺は日本でどうしていたんだろう。自衛隊にでも入っていたのだろうか。そうしたらあの地獄を味わうことはなかっただろうな、あの12週間の地獄を…



2028年 カルフォルニア州サンディエゴ訓練所前

「All, you look at me right now!!(いいか!お前ら!)」

深夜11時過ぎ、サンディエゴ訓練所の前にリクルート(志願兵)を満載したバスの中に黒人のドリルインストラクター(教官)が入って来るやいなや鬼の形相で叫び始めた。空気が一気に変わる。次の瞬間全員が揃って叫んでいた。

「Aye aye sir!(米海軍、海兵隊式のイエッサー)」

「お前らは今第662訓練中隊を訓練所するカルフォルニア州サンディエゴ訓練所にいる!今後お前らが誰かに質問された時発する言葉はイエッサーかノーサーだけだ!いいか!わかったか!」

と一気に俺たちを早口の英語でまくしたてて来た。瞬時に叫ぶ。

「イエッサー!」

「よし!バスから降りろ!立て!」

俺たちは急いで出ようとしたがそれでも教官は「早くしろ!」などと叫んでくる。

だがこの独特のピリッとした空気が俺にはたまらなかった。遂にここに来た!遂にアメリカ海兵隊の門を叩いてやった!後はこれを乗り切るだけだ!

バスから降りると俺たちは地面に書かれた足型に沿って整列した。整列するとさっきのドリルインストラクターが俺たちの前に立った。最後尾出会った俺からはあまり顔がよく見えなかったが鬼のような顔であったに違いない。

「お前らは世界最強の軍であるアメリカ海兵隊になるための一歩を踏み出した!海兵隊の力はチームワークがあってこそ成り立つ!チームワークはここ訓練所での訓練の中で最も重要なこととなる!これからお前らはチームとして一緒に生き、寝、食い、そして訓練するのだ!いいか!わかったか!」

これは海兵隊の訓練に入る時にドリルインストラクターが必ず怒鳴るセリフであり、すべての海兵隊員が必ず一回は耳にする言葉だ。

「イエッサー!」

そこからは目が回るような忙しさだった。私物を預け、書類に必要事項を記入する。髪をばっさり切る。それが終わると家族に電話することができる。しかし電話といっても1分くらいなもので、「元気です、これから訓練に入りますのでしばらく会えなくなります。手紙は2、3週間後に送ります」と言うのがやっとだった。そしてその間中ずっとドリルインストラクターに怒鳴られっぱなしなのである。特に声の小さいものは2、3人がかりで徹底的にいじめられていた。あれはさすがに見ていて気の毒に思ったがこれも訓練の一環である。その後も2、3日は眠れない日が続く。

訓練が始まって最初のうちは基礎体力訓練、まず筋力をつける。これがもう半端ではない。有名なのは障害物走。障害物が設置されているコースを水分補給なしで延々と「アァァーー!」と叫びながら走らなければならない。訓練は休みなしに続き、夜になってドリルインストラクターの「Goodnight ladies!!(お休みお嬢ちゃんたち!)」の号令で終了となるがその頃には床は鮮血に染まり、その上に何人かがヘドを吐く。最悪だった。

海兵隊の教官は少しでもリクルートの発する声が小さいともの凄い形相で「Scream!! Scream it!!(叫べ!叫ぶんだ!)」を連発する。そのためドリルインストラクターは初日から声を枯らしており、段々声がおかしくなって行くのがわかった。

それが終わると銃剣をつけての訓練が始まる。これもいやなもので、マウスピースをつけるのだがこのサイズがフリーのため外れやすい。それでもインストラクターに捕まる。叫べ!と言われてもその状態では満足に叫べない。そんなことをしている間にも突くごとに全員が「Kill!! Kill! (殺せ!殺せ!)」と叫ぶ。それでも捕まるやつは捕まる。自分も一回捕まった。銃剣の訓練ではその後銃剣突撃訓練、防具をつけてリクルート同士で戦う訓練も頻繁に行われた。その後はへリボーン訓練、水中訓練と続く。俺は大丈夫だったが内陸から来た黒人のやつなんかには泳げない者もいて、あっぷあっぷと今にも溺れそうだったがドリルインストラクターはそいつらに丁寧に教えることもしない。ただ強制的に泳がせて無理やり体に染み込ませる。それから射撃訓練、サバイバル訓練…と猛烈な訓練に耐えて9週間。いよいよ我々リクルート(志願兵)はいよいよ新兵訓練の最大の難関に立ち向かおうとしていた。「クリスボー」である。今までの訓練の全てが試される海兵隊の新兵訓練で最も肉体的に辛い訓練である。ヘッドギア、ボディーアーマー、6.8mm×51空砲弾28発入りのマガジン6本、プラスSCAR小銃にささった一本で合計196発の銃弾、限られた食料、通信機、コンピュータなどなど合わせて80kg近い装備を身につけて様々な訓練を受けながら三日間かけて山を3つ超えていく。中でも辛いのが最初の15時間。この装備のまま険しい山を登っていく。

途中俺の目の前を登っていたやつが一瞬フラッとしたなと思った瞬間バタンと倒れてしまった。疲労と脱水症状だ。インストラクターが慣れた手つきで素早く装備を剥がし、水を飲ませる。

…あの時はビビった。

無事「クリスボー」を終えた我々第662訓練中隊はその後無事に訓練を修了した。最も感動的だったのが海兵徽章を受け取った時だった。それまで鬼の使いか何かと思っていたドリルインストラクターのジョンソン2等軍曹が俺の手に徽章を渡すとこう言った。

「Sorry for I almost cry. You do the great job man. (ごめんな、泣きそうで。お前はよく頑張った)」

その言葉とともに俺に手を伸ばして来た。俺はしっかりとその手を握りしめた。


「訓練終わり!」

の合図でリクルートからマリーンへとなった第662訓練中隊全員が一斉に家族の元に走り寄る。そう、今日から俺のアメリカ海兵隊兵士としての人生が幕を開けたのだ。俺は日本から両親と恋人(今の妻)が来てくれていた。それから海兵隊員は10日間の休憩をもらうことができた。今までの訓練期間からすると少し短い気もしたがあまり気にしなかった。休暇といってもあまりダラダラしているとあっという間に体は鈍ってしまう。それは困るので俺は毎日近くの公園で懸垂をしたりランニングをしたりしてそれを防いでいた。

休暇が終わると俺たちはそれぞれ本人の希望と適性検査の結果に則ってその専門訓練過程へ送られる。歩兵なら歩兵学校へ行くが俺の場合…つまりフォース・リーコン所属のスカウト・スナイパーは偵察狙撃兵学校、そして偵察部隊学校に行かなくてはならない。その訓練は合計して半年にも及ぶ。肉体的にも、精神的にも自分を限界まで追い込む訓練だ。

そう思いながら俺は両方の学校があるカルフォニア州のキャンプ・ペンドルトンに入っていった。そこにはリーコン・マリーン希望者が50人近くいた。俺はこいつらとこの後の12週間も乗り切ってやる!そう決心した。


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