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First shot ready

2031年6月18日 午前1時 フィリピン沖

俺はすでに起きていた。自分でも驚くくらい落ち着いていたがいつものリラックスしている感じではなかった。潜水艦の中は狭い。とにかく狭い。俺はいいが狭いところがあまり好きではない仲間は出航初日からあまりいい顔をしていなかった。

出航日から俺たちの昼夜は逆転していた。夜に起きて朝に寝る。よく夜番の乗務員と話していたので眠い奴が多い夜番の乗務員には眠気覚ましにちょうど良かったらしい。もうすぐ出撃時刻だ。時計を見るとあと40分。もう飯は済んだし、カバンに必要なものは詰め終わった。銃の手入れも終わった。もうそろそろ動き出す頃だ。俺は握っていたSRSA1狙撃銃を防水袋の中にしまい、もう片方の手に小銃SCAR-Hを持った。防水袋のジップを閉めたちょうどその時、艦内放送がかかった。召集がかかったのだ。パンッ、一回太ももを叩いて立ちあがり、歩きながら腕をブルブルと振った。水泳部にいた時からの癖で、今でも気合いを入れたい時についやってしまう。

艦橋に集まったリーコン・マリーンは計20人。もちろん完全武装である。全員黙ってドライスーツを戦闘服の上に着ると各分隊ごとに最後のブリーフィングを始めた。

「俺たちはこれからおそらく人生史上最も危険な場所に向かう。しかしこのようなことができるのは俺たちだけだ。そうだ、俺らはリーコン・マリーンだ。俺たちがいるから今後の作戦は成り立ってくる。この先どんな困難が訪れようとも俺たち全員で家に帰るぞ。」

これを大尉が言い終わるとみんな口々に「Let's do this!!(やってやろうぜ)」「All right!!(その通りだ)」などと叫ぶ。目の中の炎とはこのことを言うのだろう。全隊員の闘志とも殺気ともつかないなにか燃えるものがあるように俺は見えた。

「スネーク分隊、搭乗準備」

艦長の声だ。ついに出撃する時が来たのだ。俺はSCAR-Hのチャージング・ハンドルを引いて初弾をチャンバーに送った。

10分後、すべての点検を終えた俺らは密閉された部屋に入れられた。徐々に床から冷たい海水が入れられていく。そう、ここは海中への出口なのだ。部屋が海水で一杯になると天井のハッチのロックが解除され、俺たちはそれを開けて海中に出た。真っ暗な海中を肩のライトだけを頼りに潜水艇を探す。

無事潜水艇を見つけた俺たちは早速それに乗り始めた。昔の潜水艇は電気モーターで動いていたため、大きなバッテリーが必要だった。しかし水素エンジンが開発され、それを採用し、バッテリーを積む必要がなくなった現在の潜水艇はスペースに余裕ができた。その分搭乗できる人数が従来の3人から5人までと増えた。

操縦者であるウォーカー大尉の隣の席に収まった俺は各種計器のチェックを始めた。異常なし。酸素…異常なし。銃…持ってる。すべての点検が終わり、出撃準備が完了したことを確認して俺は無線で他の隊員に知らせる。

「Snake5, ready to go.(スネーク5出撃準備よし)」

全員の出撃準備が完了するとガクンという音とともに潜水艇が母艦から切り離された。もう後戻りはできない。あとは無事に任務を遂行し帰れるか、もしくは……死だ。そんなことになってたまるか……俺は絶対生きて帰ってやる。仲間も見捨てない、それがアメリカ軍だ。


1時間後、フィリピン・アパリ沿岸

フィリピン北部の都市アパリ沿岸に到達した俺たちは潜水艇を海底に止めて降りた。ここからは腕の端末を頼りに自力で海岸まで泳ぎきる。30分ほど泳ぐとアパリの西にある川に到達する。川を少し上るとちょうどアパリの背後にあるような島がある。そこに俺たちは上陸する。

地面に足が付くようになり俺は足のフィンを外した。素早くSCAR-Hを構えてゆっくりと水面から頭を出し始めた。さすがに中国軍もそこまで施設を建設する余裕はないのだろう。その島は真っ暗だった。安全を確認した私に続いて次々に4人のリーコン・マリーンの頭が水面から音もなく出てくる。さらに物音一つ立てずに上陸した俺たちは森の中に入り、そこでドライスーツを脱いでブーニーハットを被った。よく映画などで特殊部隊員が被っているカウボーイハットのようなあの帽子だ。顔に迷彩を施され全身が迷彩柄になっている5人のリーコン・マリーンは素早く動き始め、あっという間に見えなくなっていく。まさにスネークような動きで偵察ポイントまで進む。水面から上がって感じたがものすごい湿気だ。段々体が乾いてくると今度は汗が流れるように出てくる。左目のまえに来るHMDを頼りに偵察ポイントを目指す。

俺たちが偵察ポイントに着いたのは午前4時6分。これから3日間ここで1日の大部分を過ごすと思うと毎回少し気分が下がるがいざやってみると毎回案外なんでもないもんだ。早速俺はいい狙撃ポイントを見つけたので伏せてサイレンサー付きのSRSA1スナイパーライフルを構えてスコープを覗いた。……するといるわいるわ、街は中国兵で溢れかえっていた。そしてよく見ると俺たちから約560m先の学校が司令部になっているらしい。士官らしき人物が盛んに出入りしている。さきほども言ったが私の任務は斥候任務だ。つまり偵察及び敵軍士官の排除である。そう考えるとここは絶好の狙撃ポイントだった。

ここでスネーク分隊の人員の役割を紹介しよう。まずスネーク1こと隊長のウォーカー大尉は指揮系統、スネーク2ことルイス大尉はHQ(HeadQuarters:本部)との通信を担当し、スネーク3ことサンチェス2等軍曹は双眼鏡を用いての偵察を担当。またメキシコ系の彼は衛生兵も兼ねており、分隊の医者としてこの3日間活動することとなる。そしてスネーク4ことクーパー2等軍曹はGPSを用いる偵察兵、そしてスネーク5こと偵察狙撃兵の私がいる。

事前の話し合いで士官排除は初日と最終日に行うこととなっていたので私は早速1人の士官に狙いを定めた。スコープとデータリンクしている腕の端末がターゲット《Tango》までの距離、風向き、風速を左目の前のHMDに表示する。その情報をもとに俺はスコープのダイヤルをいじる。確実にターゲットを捉え、さあ撃つぞと引き金に指をかけた時私はドキンとした。私のこの1発が第三次世界大戦開始の1発になるかもしれない。一瞬だけ指が止まる。私は一回深呼吸をして指を引き金から外し今回の作戦に関わっているフォース・リーコン隊員全員が聞こえる周波数に合わせ通信機のスイッチをオンにした。

「First shot ready.(射撃準備完了)」

この通信に答えてくれたのはウォーカー大尉だった。

「Do it man.(やっちまえ)」

この通信を聞いて通信機をオフにした私は再び深呼吸をして引き金に指をかけた。ターゲットは司令部の学校の校門で警備をしている警備兵の指揮官のようだった。まだガラスのない掘建小屋のような警備員室のこちらを向いたドアからから出ようとしていたところだった。ドアが開いた瞬間、私は引き金を絞った。

スピンという音がして反動が肩に伝わってきた。俺の放った弾は警備員室のドアを開けた瞬間のターゲットの胸部の中央に命中した。反動で体が少し揺れた後、彼は力なくその場に崩れた。

「Tango down.(目標ダウン)」

そう言って俺はボルトハンドルを操作して次弾を装填した。遂に戦争が始まった。これが私の最初のキルではなかったが1人の重みは何倍もこっちの方があった。

警備員室の中にいた警備兵は目の前で指揮官が息絶えるのを見て大声で何かを叫んだあと頭を低くして指揮官の死体を警備員室の中に引きずっていった。門の前にいた警備兵2名が慌てて走ってくる。彼ら中国兵も我らと同様、顔を覆うBCS(Battle Cam System:戦闘カメラシステム)を装備しており、銃は

27式小銃。2027年に制式採用が決まったブルパック式の7.62×34弾を使用する最新式の小銃だ。BCSは現在アメリカ、ロシア、中国、日本、フランス、ドイツなどの先進国しか採用できていないNVD(Night Vision Device:暗視ゴーグル)を発展させたような戦闘支援システムで、マイクを兼ねた機材がまるでアイアンマンのように顔を覆っている。外見は各国で違うが機能は一緒だ。目の前にはHMDがあり、そこに各種情報が表示されるというものだ。なにも知らない人がBCSを装備した兵士を見るとSF映画に出てくるサイボーグ兵そのものだが中身はちゃんとした人間だ。

いずれにしろ、俺は士官しか狙わないので一般兵である彼らには目もくれずに次のターゲットを探し始めた。

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