兄
家に帰ると父さんが待ち構えていた。
「どうしたの?」
私が声をかけると。
「帰りが遅いから、心配した」
照れくさそうに言う。
「お兄ちゃんも一緒なのに心配してたの?」
「当たり前だろ。子供の心配しない親は居ない!特に夏実は何するかわからないからな」
私は、何時まで経っても小さな子供なんだね。
その横で、慶太がおかしそうに笑ってる。
「ほら、今なら患者も居ないから、診てやれる」
父さんがそう言って、私を診察室え誘う。
私も黙って、着いて行った。
「足、出してみなさい」
診察室の椅子に座るや否や、父さんが急かす。
私は、痛めた足を出す。
父さんの触診が始まる。
「うん。もう大丈夫だ。が、無理だけはするなよ」
「はーい」
「返事は、素直なんだがなぁ…」
って、父さんが苦笑する。
「ほら、もう自分の部屋に行きなさい」
父さんに促され、診察室を出た。
取り敢えず、慶太の部屋に行ってお礼を言わないと…。
私は、階段を上って直ぐの部屋のドアをノックする。
「はい」
部屋から慶太の声。
「夏実だよ。入っても良い?」
「いいよ」
私は、ドアを開けて中に入った。
慶太は、こっちに背を向けていた。
慶太の部屋は、バスケ関係のものが多い。憧れの選手のポスターも貼ってあったりする。それ以外は、モノトーンで纏めてある。
「どうしたんだ?」
慶太が振り向き様にそう聞いてきた。
「お礼を言いに来たの。慶太、ありがとう。お陰で完治しました。それから迷惑かけて、ごめんなさい」
私は、慶太に頭を下げた。
「そんなに改まるなよ。兄妹なんだからさ」
そう言って、慶太が照れ出す。
「兄妹だから、ちゃんとした方がいいでしょ」
私は、そう言い返した。
「お前って、昔っからそうだよな」
真顔で慶太が言う。
「おかしいかな?」
「可笑しくなんかないさ。それがお前の良いところなんだし…」
慶太が、優しい声で言う。
「だが、さっきの“お兄ちゃん”って言い方は、好きじゃない。何時もの通り“慶太”で良いからな」
って、口許を尖らせて言う。
「うん、慶太」
笑顔で頷くと、慶太が目を細めて見つめてきた。
何時までもここに居るわけにもいかないから。
「じゃあ、夕飯の準備しに行くね」
それだけ告げて、部屋を出ようとしたら。
「今日は、一緒に作ろ」
って、慶太が立ち上がる。
「いいの?」
慶太の顔を見上げるように聞くと。
「俺が、一緒に作りたいんだよ」
少し困ったような顔をして言う。
「ありがとう」
私は、飛び切りの笑顔を返した。