表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/31

彼の正体

翌日。

私は、痛みを我慢しながら学校に向かった。

痛み止は飲んだものの直ぐに効くものじゃない。

家を出るときに

「自転車で送っててやるぞ」

って、慶太が言ってくれたが、その申し出は丁寧に断った。

今の学校では、私と慶太の関係を知ってる人が数ないだろうし…。

それに変な噂話に出されるのも嫌だった。

制服で慶太の学校まで知れ渡ってしまう。

これ以上、慶太に迷惑掛けたくないって思った。



「おはよう、夏実。足、大丈夫?」

幸子が、心配そうに私の方に駆け寄ってきた。

「大丈夫だよ。本当に只の捻挫だから…」

私がそう言うと安心した顔をする幸子。

「じゃあ、私日直だから、職員室に寄ってくるね」

そう言うと職員室に向かって歩き出した。

私は、幸子の背中を見送ってから教室に向かう。



階段を他の人の迷惑にならないよう、隅の方を登っていた。

「おはよう。足、大丈夫だった?」

突然声を掛けられて、振り返った。

そこには、昨日の彼が心配そうに私を見てる。

今初めて思ったんだけど、彼の身長は、見上げないといけないほどだった(慶太と同じくらいかな?)。まぁ、私が小さいんだけど……。

彼は、少し背を屈めて私と目線を会わせてくる。

ジッと見つめられるの慣れてなくて、つい目を反らし。

「おはようございます。病院で診てもらって、異常はありませんでした」

そう告げた。

「それはよかった」

彼は、安堵の溜め息を漏らした。

「それで、何でそんな隅っこを歩いてるんだ?」

不思議そうな顔をして聞いてきた。

「まだ腫れが退いて無いので、他の人に迷惑を掛けないように寄ってるだけです」

私は、淡々と答えた。

「そんなんで、悪化したらどうするんだよ。俺がおぶって教室まで連れてってやろうか?」

彼は、真顔で聞いてきた。

「要りません。これくらい大丈夫ですから。どうぞ私に構わず、先行ってください」

私は、突き放すように言ったんだ。

でも。

「心配だから、付き添うよ」

彼は、優しい声音で言ってきた。

何で、私なんかに構いたがるんだろう?

でも、彼と居ると周りの視線が痛いので、ソロソロ離れていただきいんです。

「もう、本当に気にしないでください。それじゃあ…」

私は、それだけ告げるとその場を逃げるように教室に入った。


自分の席に着くと。

「結城さん。蓮くんと知り合いだったの?」

クラスの女子達が、私のところに来るなり、そう告げた。

蓮くん?

誰それ?

「いいえ…。それより、誰ですかその人は?」

逆に聞き返した。

すると、皆が皆驚いた顔をし、信じられないって顔まで。

何?

何でそんな顔するの?

「じゃあ、何で、あんなに親しそうに話してたのよ?」

突然の言葉に解らずにいる。

親しそうに話してた?

もしかして、さっきの彼の事?

彼が、何だって言うの?

昨日怪我した時に助けてもらっただけで、名前さえ知らない。

「結城さん。何で、蓮くんと一緒だったの?」

さっきの事を言ってるのか。

「何でって、たまたま階段で会っただけだし…」

「たったそれだけで、蓮くんが貴女みたいな人に声掛ける筈無い」

何で、そんな事断言されないといけないの?

って言うか、私だってそんなの知らない。

彼が、何で私を構うのか何て私が知る筈無いじゃない。

そんなに言うなら。

「昨日、足を痛めた時に助けてもらっただけです。それ意外なにもありません!」

語尾が強くなる。

「何それ」

「足を痛めたのなんて、嘘でしょ。そうやって、彼の気を引こうとしたんでしょ」

その言葉に腹が立った。

「何で、嘘までついて彼に近付く必要があるんですか?それに病院で診察も受けて、全治三日の怪我だって言われたのに嘘ついて、私に何の得が有ると言うんですか!」

何で、彼女達に怪我の具合を言わなきゃいけないんだ。

「それに、私は彼に興味ありません!!」

私はそう断言して、席を立ち教室を出た。


ったく何なのよ。

一言二言会話しただけで、そんなに目くじら立てること無いじゃんか。

私が、何したって言うのよ。

痛めた足を引きつりながら、廊下の端を歩く。

全く。

何で、私が教室を出なきゃいけないのよ。

苛立ちがピークに達し掛かったとき。

「お、結城。いいところに来たな」

担任がにこやかな顔で言ってきた。

嫌な予感がする。

「これ、返却しといてくれ」

ドッサリとノートを両手に載せられた。

私はそれを持って、教室に戻り配った。



放課後。

無事に本日の授業を終え鞄に教科書を仕舞っていたら、クラスの女子が騒ぎだした。

「ねぇ、正門に居る人、カッコ良くない?」

「あの制服って、超エリート校だよね」

「誰かの彼氏とか?」

何て声が耳に届いた。

何気にそっちを見やる。

そこには、自転車を停めて門柱に持たれてる慶太の姿があった。

もちろん、人垣が出来てるのは言うまでもない。

やだ。

何で来るのよ。

私は、慌てて鞄を掴むと門まで急ぐ。

…が、足に力が入らずにゆっくり歩くしかなかった。



やっとの事で門まで辿り着く。

「遅かったな、夏実」

慶太が私に声を掛けてきた。

「もう、来ないでって言ったじゃん」

膨れっ面で言う私に。

「そうは言っても親父が、心配して俺の方に電話してくるんだから、仕方ないだろう」

慶太が小声で言ってくる。

心配性なんだから…。

「ほら、後ろ乗れよ」

慶太が、自転車に股がり顎で指す。

私は、仕方無く後ろの荷台に座ると慶太のお腹に腕を回した。

「出すぞ」

そう言うと慶太はゆっくりとペダルを漕ぎ出す。

慶太は、私に付加が掛からないように気を使ってるのがわかる。

「ごめんね。何時も慶太に迷惑掛けてるね、私」

私の言葉に。

「何言ってるんだよ。俺等兄妹じゃん。迷惑だなんて思ってないよ。それに夏実は、俺にとって体の一部みたいなものだ」

慶太が優しい声で言う。

慶太…。

ありがとう。

そう言ってくれるの慶太だけだよ。

「足、早くよくなるといいな」

「そうだね。頑張って直すよ」

私が言うと。

「お前が、頑張るとろくな事になら無いから、頑張るな」

慶太が苦笑いしてる。

そうかも……。

「足が治るまで、俺が家事をやるからな」

「そんなぁ、悪いよ。せめて、洗濯物くらい畳むよ」

私の口から、そんな言葉が出てきた。



このとき、変な噂が学校中に駆け巡っているとは、思いもよらなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ