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ダメ人間

放課後。

家に帰るなりに。

「夏実。怪我しただろ?」

双子の兄慶太が、核心めいた言葉を掛けてきた。

兄の慶太とは、学校が違うから、同じ時間に家に帰ってくる事なんて殆んど無いんだけど。

今日に限って、鉢合わせになるなんて……。

やっぱり、今日は厄日だ。

「何で?」

図星とはいえ言えなくて、逆に聞き返した。

「お前が怪我する度に俺もその箇所が痛むんだよ。早く親父に診てもらえよ」

慶太はそう言って、自分の部屋に行ってしまう。

私は、自分の部屋に行き制服を脱ぎ、私服に着替える。

家の隣に隣接されてる病院に向かった。


また怒られるんだろうなぁ。

そう思いながら、受付を済ます。

暫くすると、お父さんが飛んできて。

「夏実!また、怪我したんだって…」

他の患者さんが居るのにお父さんは、そんな事お構い無しに話し出す。

「体育の時間にね。多分、捻挫だと思う」

私が答えると。

「いつになく、冷静だね、夏実。レントゲン撮影するからレントゲン室に…」

お父さんが、私の背中に手を回して促すが。

「お父さん。私より他の患者さんを先に診てあげてよ。私は、一番最後でいいから…」

私は、自分よりも早く来てる人達の方を優先にして欲しくて、そう告げた。

「わかった。お前はここで大人しくしてるんだぞ」

お父さんはそう言って、診察室に戻っていった。


待合室でボーッと順番を待っていた。

そこに。

「なんだよ。まだ診察終わってないのかよ…」

慶太が、私を見付けるとそう言う。

「うん。私より他の患者さんを優先的に診てもらってるの」

私がそう言うと慶太は。

「親父が、それで納得したんか?」

不思議そうに聞いてきた。

「したから、私が一番最後になってるんでしょ」

私が答えると慶太は呆れた顔を見せる。

「…で、今日の夕飯はどうするんだよ」

慶太が、私の隣に座って聞いてきた。

ん?

そっか。

今日は、私の当番だった。

「ごめん……」

慶太に謝ると。

「まぁ、仕方ないか…。その足でキッチンに立って飯作れなんて、言えないわ。俺が作っておくから、今度埋め合わせしろよな」

優しいお兄ちゃん。

両親は病院の事で手一杯だから、家事は慶太と分担して行ってる。

気づけばそれが、当たり前になっていた。

でも私が、余りにも鈍くて怪我が絶えない分、慶太の負担は大きい。

それでも慶太は文句も言わずに私の代わりにやってくれる。

私にとっては、頼れる兄だ。


「夏実。今度こそレントゲン室に行くぞ」

お父さんが、待合室に入ってくるなり大声で言う。

「はーい」

私は、渋々返事をしてレントゲン室まで歩く。

その横で、ハラハラしながらお父さんが着いてくる。

「今日は、何の授業だったんだ?」

「ハードルだよ」

毎回こんなやり取りしてる気がする。

「足を引っ掻けたんだな。…ったく、もっと慎重な行動を…」

お父さんの小言が始まった。

私は、それを右から左に聞き流す。

昔から言われてたんだよね。

夏実は、女の子なんだから、もっとおしとやかにねって…。

だけどさぁ。

目の前に興味の有るものがあったら、それに向かって行くのって、当然な事なのに……。

それに何時も慶太と比較されて、堪ったものじゃない。

だから私は、高校は慶太と違う学校を選んだ。

比較されるのが嫌だから。

出来の良い慶太と落ちこぼれの私。

何で双子で生まれてきてしまったんだろう?

って、考えてしまう。

「夏実、どうした?顔色が良くなさそうだが…」

お父さんに顔を覗き込まれる。

「何でもないよ」

私は、慌てて繕う。

「ほら、座って足を出す」

私は言われた通りに捻った方の足を出す。

「これ、取るな」

お父さんが、包帯を外して貼ってあった湿布を剥がす。

「かなり酷く捻ってるな」

お父さんは、湿布を剥がした箇所をマジマジと見つめる。

私もその場所を改めて見ると、腫れが酷くなってた。

「そのまま動かすなよ」

お父さんはそう言って、部屋を出る。

フラッシュがたかれ撮影される。

再びお父さんが入ってきて。

「今度は角度を代えて撮るから 」

お父さんが指定する角度で、動かないよう維持した。

「現像されるまで待合室で待ってなさい」

お父さんは、そう言うと部屋から出ていった。

私は、ゆっくりと立ち上がり、部屋を後にした。



待合室に向かう廊下で、お母さんとでくわした。

「夏実。また怪我したんだって…」

呆れ顔のお母さん。

「うん……」

「本当、慶太と大違いだね。何時になったら、落ち着くのやら…」

お母さんが、皮肉を言う。

私は、そんなお母さんを振り切って待合室に行く。


何で、慶太ばかり誉めるの?

私、お母さんに何かした?

私は、無償に寂しくなった。

皆が、私を必要としていないんじゃないかって思えるくらい。

ここに居ていいのか?

って、誰かに確認したいくらいだ。


待合室の椅子に座りながら、ぼんやりと外の景色を眺めていた。


「夏実。診察室に来なさい」

お父さんが優しく呼ぶ。

私は、足をかばいながら診察室に入る。


「骨に異常は見当たらなかった。腫れは、二・三日で治まるよ」

お父さんは、何処か安心した顔をしてる。

思った程大した事無くてよかった。

心の中のモヤは、消えることはないけど…。

「夏実。どうした?」

お父さんが、私の顔を覗き込んできた。

「何でもない。じゃあ、私、家に戻るね」

何時ものように明るく言いはなって、診察室を出る。

待合室で、会計が終わるのを待つ。

「夏実さん」

私は、自分の名前を呼ばれて会計のところへ行き薬と湿布薬を受け取り、支払いを済ませると病院の出入り口から出る。

何で、私一人が、こんなにダメ人間なんだろう。


自分で自分がわからなくなっていた。


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