話し合い
「何で……」
私は、そう口にした。
目の前には、部活に参加してるはずの彼が居たから。
彼は、不機嫌そうな顔を隠そうともせずに。
「"何で"は、こっちの台詞。何で、また俺から逃げてるの?
俺、何か気に障ることしたか?」
そう口にしたと思いきや、心配そうな顔をする。
「もしかして、誰かに脅されてるのか?」
目の前で、オロオロしだす彼に首を横に振って否定した。
「俺の行動が、迷惑だった?だから、あんなメールをして来たんでしょ?」
何時もと違って、狼狽える彼に何て言ったらいいのかわからず、ただ俯いていた。
「なぁ。人ん家の玄関先で何やってるんだ?」
弾かれるように声のした方を見れば、慶太が自転車から降りて、ガレージに入れてるとこだった。
私も彼も何も言葉にしないから。
「話があるなら、家の中で話せば?ご近所さんにあらぬ噂を立てられたら困るだろうが」
慶太が、痺れを切らして催促する。
確かに変な噂立てられるのは、困る。
「ただし、リビングでな」
って言葉に私は首を傾げ、彼は忌々しげに慶太を睨んでいた。
「…で、何があったんだ夏実。夏実の事だから、大体の予想はつくがな」
リビングのソファーに座るなりにそう口を開く慶太。
私は、お茶を三人分用意してから、慶太の隣に座った。
テーブルを挟んで、反対側には彼が座っている。
慶太の言葉に私は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「成る程な。で、蓮はどういうつもりで彼女の名を出したんだ?」
私の話を聞いてから、慶太が彼に話を振った。
「俺は、慣れないマネージャー業を夏実ちゃん一人だと大変だろうと思って、仲の良い和田さんを誘ったらどうだろうと思ったんだ。したら、彼女の食いつきに俺がビックリしたんだけどな。ミーハーだけのマネージャーは俺は、求めてない。本気で誘ってるのは夏実ちゃんだけ。俺に興味がない子なんて、夏実ちゃんだけだったからな」
最後の言葉は、ちょっと寂しそうな顔をしていたけどね。
まぁ、私は彼の名前を知ったのもつい最近の事だしね。
「なぁ、蓮。その子には悪いが、直ぐに辞めさせてくれ。絶対後で夏実が危うくなる」
慶太が、彼にそう言う。
「あぁ、そのつもりだ」
二人がアイコンタクトしてるし……。
一体何なの?
「マネージャーをやったことのない夏実には、俺がレクチャーしておくし、怪我の対処方も心得てるし、もってこいだろうな」
慶太が、意味深な言葉で私を見る。
「どうせ、私はドジですよ。何もないところで転んで擦り傷だけじゃなく足を捻るようなね」
私が口を尖らせて言うと。
「何、その天然プリ。転んだだけで、捻挫って……」
彼は、呆れてるのかと思いきや大爆笑してる。
ふ~んだ。
笑いたければ、笑えば良いさ。
こればっかりは治らないんだから、仕方ないでしょ。
自分では、十分に気を付けてるけどさ、予期せぬことだってあるじゃないか。
私は、頬を思いっきり膨らませて、そっぽを向いた。
「ご…ゴメン。だけど、夏実ちゃんらしいと思う」
一頻り笑った後で、彼はそう口にした。
私らしい?
「だろ?うちの姫は、そそっかしいからな」
慶太が、私の頭を撫でまわす。
う……、私は、犬じゃないぞ。
「止めて、慶太」
慶太から離れるように体を反らす。
「その通りだな。目が離せないや」
彼の目が細められ、愛しいものを見るような目で見てくる。
そんな目で、見ないでよ。
目を合わせていられなくてそらしてしまう。
「で、マネージャーの件どうするんだ?」
慶太が、再び話を戻した。
「私で良いの?」
確認のために聞いた。
私で、役に立つなんて思えないから。
「さっきも言った通り、夏実ちゃんしか居ないんだって。だから、こっちからお願いしてるんだけど」
彼の真顔での言葉に。
「わかりました、引き受けます」
そう言葉を放っていた。
その言葉を聞いた彼は、満面の笑みを浮かべていた。