お弁当
翌日。
朝食とお弁当の準備をしていると。
「おはよう、夏実」
慶太の声が頭上から降ってきた。
「あっ、おはよう。慶太」
何時ものように挨拶を交わし、手を動かす。
「なぁ、夏実。蓮の分のお弁当も作ったら?」
唐突に言い出す慶太。
付き合ってもいないのにそんなことしたら、迷惑なんじゃないの?
それに、ファンの子達に見つかったら、それこそ何されるかわからないんだけど…。
「アイツ、お弁当持ってきてないんだろ?だったら、夏実が作ってやれば」
そんなこと、何で知ってるんだろう?
「う~ん。それは、無理かな。渡せないよ」
私が、悩みながら答えると。
「お前、アイツのファンに何か言われたのか?だったら、気にする事無いと思うけど…。お前が、自分から近付いてないなら、無視しておけ。そのうち、アイツがどうにかすると思うぞ」
そう言いながら、大きな弁当箱を取り出す慶太。
何で、わかっちゃうのかな?もしかして、慶太って、エスパーだったりして…。
それは、ないか…。
結局、お弁当を三つ分作ることになった。
しかし、作ったのはいいが、どうやって渡せばいいんだ?
難問だと思ってたことが、意図も容易く解決してしまった。
学校に行こうと玄関を開けた途端、向かいの塀に凭れて、彼が立っていたのだ。
「おはよう」
朝から、眩しい笑顔で挨拶する彼。
「はよ。何?彼氏でもないのに夏実を迎えに来たのか?」
慶太が、私の後ろから彼に声をかける。
「そうだよ。少しでも夏実ちゃんと一緒に居たいと思ったからな」
真顔で、そう言いながら、彼の耳がほんのり赤くなってるのがわかる。
彼は、私の何処を好きになったんだろう?
想いに耽っていたら。
「夏実ちゃん、どうしたの?」
そう言って、私の顔を覗き込んでくる彼。
「おはよう、蓮くん。何でもないよ。あ、これ、よかったらお昼に食べて」
私は、さっき作ったばかりのお弁当を差し出した。
「えっ、いいの?」
彼の驚いた顔。
「迷惑…だったかな?」
彼の顔が見れなくて、俯きがちに問う。
「夏実の飯は、美味いよ。ずっと食べてきた俺が保証する」
慶太の口添えが入る。
「ありがとう」
彼が、そう言ったので顔をあげると、満面の笑みで、こっちを見ていた。
よかった、迷惑じゃなくて…。
ホッとしたのも束の間。
「オーイ。早く行かないと遅刻するぜ」
慶太が、自転車を漕ぎながらこっちに声をかけてる。器用な。
「夏実ちゃん。俺等も行こう」
「う…うん」
私の返事を聞くと彼は、歩き出した。
私は、その半歩後ろを歩く。
ファンクラブの子達に見つかったら、怖いもの…。
だから、少しでも距離をとって、歩くのが先決だと思った。