出会い
私、結城夏実 16才。
高校一年生にも成って、好きな人が居ない。
憧れる先輩も居ない。
でも、私の周りでは、そんな話ばかりで……。
『隣のクラスの誰々が格好いい』とか、『三年生の誰々が良いよね』
なんて話で持ちきりなのだ。
そんな話を毎日のように聞いてると、大概飽きてくる。
「夏実。なんちゅう顔してるのよ」
そう言ってきたのは、親友の和田幸子。
彼女とは、入学した時に出席番号が前後したために彼女から声を掛けてくれたのが切っ掛けで、仲良くなった。
多分、今の私の顔は、眉間に何本の縦線が入っているのだろうと予想がつく。
「だってさ。皆良く飽きないなって、思って…」
いい加減同じ話題で、そんなに盛り上がらなくても良いじゃんかって思ってしまう辺り、私は冷めてるんだろう(恋愛に関して)。
「もう、ソロソロなれなさいよ」
幸子が、呆れながら言う。
「じゃあ、教えてよ。“恋の方程式”成るものを」
無理難題をぶつけてるのは、解っているものの、言わずにはいられなかった。
「それは、人各々なんじゃないかな。その時の常態によると思うし…」
言葉を濁す幸子。
「ほら、次は体育だよ。着替えに行くよ」
幸子に急かされて、体操着を持って更衣室に行った。
更衣室は、二クラス合同なので、込み合っていた。
「隣のクラスとの合同って良いよね」
「そうだね。彼の事も見られるしね」
同じクラスの子達の会話が聞こえてくる。
一体、何が良いのやら。
私は、余計にわからなくなってきた。
「今日の授業は、何やるんだろう?」
私の口から不意に出た言葉。
「ハードルじゃない」
その言葉を拾った幸子が、答えてくれた。
ハードルか…。
まぁ、嫌いじゃないけど好きでもない。
「夏実。ボーとしてないで、行くよ」
幸子に促されて、グランドに急いだ。
体育委員の号令で、準備運動を行う。
グランドには、幸子が言ってた通り、ハードルが準備されていた。
「まずは、お手本を陸上部の子にお願いしたいんだけど…」
先生が、私たちを見渡す。
陸上部の子って居たっけ?
皆が皆、首を横に振る。
「このクラス、陸上部の子居ないのか…。じゃあ、結城さんお願いして良い?」
先生が、私を指名してきた。
何故に私?
先生、知ってたのかなぁ。
まあ、いっか…。
「はい」
可笑しなもので、自然と返事をしていたんだ。
中学までは、陸上部だったから、私を選んだんだろう。
私は、スタート地点に立つとハードルに集中した。
「結城さん。自分が思うタイミングで、スタートして良いから」
って、先生の声が飛んできた。
私は、言われた通りに自分のペースで走り出した。
全部のハードルを飛び終えると。
「流石。フォームも崩れてなかったし、見本としては、悪くなかったわ」
先生は、誉めてくれたが、他の子達は男子の方に夢中だ。
別に構わないけど…ね。
「ありがとうございます」
私は、普通にお礼を言って元の場所に戻った。
「次は、順番に飛んでいってね」
先生の言葉にゾロゾロと移動し出す。
ハードルは、四列分準備されていた。
「それから、最終日にはタイムを録るから、ちゃんとやるんだよ」
先生が付け足した。
ふーんタイム、録るんだ。
そう思いながら、移動する。
「夏実。さっきの凄かったよ」
って、尊敬な眼差しを向けてくる幸子。
「すごいって、何が。ただ飛んだだけじゃん」
大した事してないのにそんな風に言われると、かえって困る。
まぁ、他の子達に至っては、別なことに興味があるみたいだし…。
「キャー。蓮くん、カッコいい!」
って…。
直ぐ側で、男子が同じようにハードルの授業を受けてるから、周りはそっちの声援に夢中だ。
ハァー。
一体、なに考えてるんだか…。
今、授業中だってこと、完全に忘れてるよね。
回りが煩い中。
「次、夏実の番だよ」
って声を掛けてくれる幸子。
気に掛けてくれたのかな?
「幸子、ありがとう」
私は、幸子にお礼を言ってスタートに立つ。
目の前のハードルに集中する。
スタートして、順調に跳び越えていったのだが、途中で歩幅が合わなくなり、ハードルに足を引っ掻けてしまった。
ガッシャン!!
そのまま転倒してしまった。
あ~あ、やっちゃった。
私は、立ち上がりハードルを直す。
「夏実。大丈夫?」
心配気に駆け寄って来る幸子。
「うん。これぐらい大丈夫だよ」
って、ニッコリと笑顔を浮かべて返事を返す。
心配させちゃった。
「大丈夫じゃないって。膝、擦りむいてるよ」
幸子が、私の膝を指して言う。
「こんなの、大した傷じゃないよ」
そう何せ私は、年がら年中あっちこっちに傷を作ってるから、慣れっこになってる。
「取り合えず、水で流してくるから…」
私はそれだけ言って、水道口まで歩き出した。
その時、足首に痛みが走った。
足首、捻ったかな?
それでも幸子に心配掛けないように普通に歩く。
歩く度にズキって、痛みが全身に伝わっていく。
思わず座り込んで足首を押さえた。
自分で、軽く足首を触診して、痛い場所を探っていく。
うっ……。
これが、一番痛いかも…。
私は、靴を脱ぎ靴下を下げて、痛かった場所を見た。
ちょうど、踝の辺りが赤くなり出していた。
ハァー。
これは、保健室に行った方がいいか…。
私は、靴を履くとそのまま保健室に向かう。
…が、痛みで進むことができずにいた。
すると、不意に抱き上げられた。
エッ…。
私が顔を上げると。
「足、大丈夫?」
顔の整った男子が、心配そうな顔をして私を見ていた。
「えっ…ええ、まぁ…」
と驚きの余りそう答えるしかできなかった。
「本当?それにしては、痛そうにしている。このまま保健室に連れていってあげる」
顔に出てたのかなぁ?
彼は、意図も簡単にお姫様抱っこをしたまま歩き出した。
「あっ、ありがとうございます」
私は、それしか言えなかった。
保健室に着くと椅子の上に座らせてくれた。
「重かったですよね。本当にありがとうございます」
私は、椅子に座ったまま頭を下げた。
すると。
「いいよ。こっちも授業を抜け出す口実が出来たし…」
って、苦笑混じりでそう言うと部屋から出ていった。
入れ代わるように先生が入ってきた。
「どうしたの?今は授業中よね」
先生は、私を見るとそう言い出す。
「えっと…。ハードルをやってるときに足を捻ってしまって…」
私に疑いを向ける先生にそう告げる。
「靴下、脱いでもらっても良い?」
私は、先生の言う通りに痛めた足の靴下を脱いだ。
「確かに足首が腫れてるわね」
そう言うと晴れてる部分を触診し出す。
「…っ……」
痛みを堪えきれず、声が漏れた。
「ただの捻挫だと思うけど、そんなに痛いなら病院に…って、あなたの家病院だったわね。親にでも診てもらったらいいわ」
先生は、そう言って足首に湿布し包帯で固定を膝には、脱脂綿に消毒液を浸して傷の消毒をして盤ソコを貼る。
「これでもういいでしょ。ほら、授業に戻りなさい」
先生に半ば追い出される形で、保健室を出た。
ハァー。
取り合えず、グランドに戻らなきゃ…。
私は、足を軽く引き攣る様に歩く。
今日は、本当についてないのかも…。
はぁーぁ。
溜め息を付きながらグランドに向かった。
「夏実。遅かったね」
幸子が、心配そうに私のところに来る。
「うん。足を捻っちゃったから、次いでに保健室に行ってたんだ」
私は、おどけるように言う。
「大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。でも、足に力が入らないからこの後は、見学してるね」
私は幸子にそう告げると先生に事後報告してグランドの隅で見学した。
「よう。足は大丈夫か?」
突然話しかけられて、顔をあげる。
そこには、先程私を保健室に連れて行ってくれた彼が立っていた。
「あっはい。大丈夫です。こんなの日常茶飯事なんで……」
私は、そう答えた。
「日常茶飯事って……」
私の言葉に苦笑する彼。
そうだね。
普通なら、有り得ないよね。
「先程は、本当にありがとうございました。お陰で、助かりました」
私は、改めてお礼を言う。
「いいって。困ってる人が居たら、誰だって助けるだろうが…」
彼は、顔を赤くして私の頭を軽く叩いた。
赤くなる要素、何処にあったんだろう?
でも、彼は優しい人なんだって思った。
「じゃあ、お大事に…」
そう言って、彼はグランドに戻っていった。
彼が、クラスの噂になってる人物だと知るのは、もう少し後の事。