互いの告白
暫く歩き辿り着いた公園。
中に入り、彼と少し距離をとってベンチに座る。
周りに人影もない。
この時間帯にしては、珍しいなぁ、何て思いながら…。
沈黙が、いたい。
「「あの…」」
まさか、声が重なるなんて、思わなかった。
「大谷くんから、どうぞ…」
「夏実ちゃんから言って」
お互いが譲り合ってらちが明かない。
どうしようかと思ってたら。
「昨日は、本当にごめん…な。まさか、夏実ちゃんが聞いてるなんて、思ってもみなかったから…」
彼がそこで言葉を区切った。
私が聞いてたら、変わってたの?
それとも、他の人だったら良かったの?
そう思うも言葉に出せず。
「私の方こそごめん。立ち聞きするつもり無かったんだよ。でも自分の事が話題になってたから…」
彼の顔も見れず、只俯くだけ。
怖かったんだ。無表情な顔をしてるんだと思うと。
こんな私を好きになる人なんて居ないって…自分で思ってたから、遊びなら仕方ないかって納得してたんだ。
なのに。
「昨日、アイツ等が話してた事は本当の事なんだ」
やっぱりか…。ちょっと、悔しいかな、遊びでしか告白されないのって…。
「でも、それに参加したのは、俺が、夏実ちゃんを好きだったから、他のヤツにとられたくないって思った。誰かにとられるぐらいなら、あのゲーム染みた事に参加せざる終えなかった。それに夏実ちゃんが傷付くのを見たくなかった。心を守りたかったんだ」
彼が、緊張した声音で参加した経緯を語ってくれた。
「俺は、中学の時から夏実ちゃんの事が好きで、夏実ちゃんにちょっかい出すヤツとか告白しそうなヤツを片っ端から慶太と排除してたんだ」
彼が語った言葉は、朝、母さんが言ってた事と繋がる。
「妹の為に慶太が男達を排除してるのを見て、俺が声をかけ一緒になってやってた。理由は、夏実ちゃんが好きだったから、慶太に取り入って夏実ちゃんに近付こうと思ったんだ。だけど、そう簡単にいかなかった。慶太は、夏実ちゃんを紹介さえしてくれなかった」
私は、彼を見た。
不安気に此方を見ている。
「『夏実が好きなら、俺を納得させろ』って、慶太が俺の前に立ち塞いだんだよ。どう納得させればいいんだ?って、ずっと考えてたら気が付けば受験で、このままじゃ、告白できずに卒業して終わりじゃないかってだったら、夏実ちゃんの受ける高校だけでも慶太に教えてもらって、入学してから自分から近付こうって決めてたのに…」
そこで言葉が途切れた。真顔で語る彼。
えっ…あれ?
結局は、慶太が最後の砦になってたの…。
でも。
「大谷くんの気持ちはわかった。でもね、昨日のあの話を聞いて、私…悲しかった。……遊び…だったんだって思ったら、胸の中になんとも言えない感情が芽生えて、どうしていいかわからなくなっていく自分を慶太に話したら『辛いなら、俺の学校の編入試験受けるか?』って言われて、辛くない方に逃げようとしたんだ。どうせ、誂われてるだけなんだったら、ずっと笑われてるよりも私のことを知らない尚且つ慶太がいる学校に行こうって思ったのも事実なんだ」
そう、私は弱いから…直ぐにでも逃げ出したくなるんだよ。
「なぁ、編入って…さっき慶太が言ってたこと?」
「うん。大谷くんの傍に居たくないから、編入試験を受けようと思った」
そう、口にしたら目を伏せて俯く彼。
「…それだけ、ショックだった。だけどね、今回は思い止まることができた。自分からぶつかろうと思ったから…」
私の言葉に勢いよく顔をあげる。
「今まで、慶太に守られてきたから、どう対応したらいいのかわからなかったの。普段、友達の男の子でも余り近付かないように慶太がガードしてたから…。慶太ほどの男の子が居なくて、見向きもしなかった」
今までは慶太が一番格好いいと思ってたから…。
私は、彼の目を見た。
「でもね、今は違う。私の中にもう一人、気になる人ができた。それが、好きなのかどうかは未だわからない。大谷くんの好意の気持ちは受け取っておく、けど私、自分の気持ちがわかっていないから応えることが出来ない。ちゃんと答えが出るまで待っててくれる?」
そう、今の私がだせる誠意一杯の答え。
「ねぇ、その一人って俺だと思ってもいいんだよね?」
不安そうに聞いてくる彼に頷き返した。
するとフワリと柔らかい笑顔を向けてきた。
「今まで待ってた…ううん、ずっとタイミングを見計らってきたんだ。今さら、待てないなんて言わない。夏実ちゃんの出す答えを待ってる」
彼の言葉に申し訳なく思いながら。
「…ありがとう」
そう答えていた。