慶太と彼
私は、部屋から見えた場所に行く。
彼は、空を見上げていた。そんな彼に。
「れ…蓮くん?」
声をかけた。
何でここに居るのか知りたくて…、気付いたら部屋を飛び出してた。
彼は、ゆっくりとこっちを向き、目を見開いて驚いた顔をする。
何に対して、驚いてるのかは、今の私にはわかりかねるけど…。
「夏実ちゃん…、今…」
?
何が言いたいんだろう?
自分でも、この時気付いていなかったんだ。彼を下の名前で呼んでいた事に…。
「どうして…」
「どうしては、こっちの台詞だよ」
苦笑しつつ言う。
「昨日の事を謝りたくて…」
彼が、言いづらそうに口にする。
昨日の事…、あっ、あれね。母さんの言った通りだね。
「へぇ、お前がねぇ。俺の大事な夏実を泣かせた張本人とは…」
慶太が、私の背後から抱きつき意味深な台詞を言う。
「「慶太」」
彼と声が重なる。
えっ、蓮くん慶太の事知ってるの?
私が、不思議に思っていると。
「そっか、夏実は覚えてないか。蓮とは、同じ中学だ。俺は部活も一緒だった。それから、夏実を他の奴と違い、一番大切にしてくれた奴だ」
慶太が、説明してくれるけど、私には、今一ピンとこない。
中学が一緒?大切に?
全然思い当たる節がない。
何かの間違いじゃ…。
私が、頭をふる回転してる内に話が進んでる。
「せっかく、夏実を編入させようと思ってたのになぁ。俺の計画、台無し」
慶太が、私の頭に顎を乗せて言う。
「ちょ、慶太。それ、マジで言ってる?」
彼が、慶太を睨み付けながら、一歩近付く。
「ああ。だって、夏実の成績なら、十分に編入できるしな」
クツクツと喉を鳴らしながら慶太が言う。
どんな顔して言ってるのかは、私からは見えないけど…。彼をからかっているのはわかる。
「夏実ちゃん。本当に編入するの?俺、何の為に…」
言葉尻が小さくゴニョゴニョと言ってる。
動揺してるように見える。
「嘘だよ、蓮。俺は、本気だったんだけど、夏実は思い止まることにしたらしいぞ」
慶太がそう言うと、安堵の溜め息を漏らす彼。
慶太は、そんな彼を見て大袈裟に笑い出す。
「慶太。そんなに笑っちゃダメだよ。蓮くんも不安だったと思うよ」
あれ、何で彼の擁護に回ってるんだ。
「何、夏実がフォローしてるんだよ」
慶太が、面白くなさそうに言う。
「まぁ、蓮が夏実の行く高校を俺に聞いてきた時には、驚いたけどな」
思い出したように言う。
ん?私の行く高校?
「慶太!それ言うな」
焦ってる彼。
えっ、それって…。
「…っと言う事で、蓮が夏実に対する想いは、本物だよ。後は、夏実次第だ」
慶太の太鼓判が押された。
えっ…えっ…?
「慶太。夏実ちゃんを借りても?」
彼が、慶太に確認をとるように聞く。
「どうぞ。ちゃんと返して…いや、ちゃんとお前が守るって言うなら…」
何か、二人で決められてる気がするんだけど…。
「ありがとう」
彼が、笑顔でそういう。
「慶太。今日の夕飯…」
私の言葉を察したらしく。
「俺が、作るから、今日は蓮ととことん話してこい」
慶太が、背中を押す。
「うん。ごめんね。ありがとう」
慶太にそう言うと彼の側に行く。
「行ってらっしゃい」
慶太が、にこやかに言う。
「ここじゃあ、何だから、近くの公園にでも行こう」
彼に言われて、軽く頷く。
私が頷いたのを確認すると背を向けて、歩き出した。
私は、その後ろを着いていくのだった。