どうして…
昨日の今日で、彼が私のところに来ることはないと思ってたんだ。
あんな事言ったし、愛想尽きたよね。
私は、そう思っていた。
「夏実ちゃん。どうしたの?そんな暗い顔して」
突然彼が、私の前に現れたから、驚いた。しかも堂々と教室に入って、私の机の前に座り込み、覗き込むように私を見る。
周りの事なんて気にしてる様子もなく、ただ心配してるって感じだ。
私にとっては、ありがた迷惑なんだけど…。イヤ、違うどう対応してわからなくなってる。
「おおお大谷くん…」
どうしよう、声が裏返ってる。
「何、驚いてるの?俺、昨日の事気になっちゃってさぁ、夏実ちゃんに直接聞かないとって思ったら、足がここに向かってたんだよね」
口許は笑ってるのに目が笑ってない。
恐い。どうやって、逃げればいい?
昨日の言葉だけじゃ、納得してないんだよね。
周りは、私たちのやり取りに注目してる。
どうすればいい?
「…で、何で俺の事を避けてたの?」
彼が、私の目を見て聞いてくる。真実を話せと…。
そんな目を見て居られなくて、目を逸らす。
「もしかして、迷惑だった」
彼の声が、寂しそうに聞こえて、首を横に振った。
「じゃあ、何で?」
私は、周りを見渡す。彼女達の目が、告げ口するなと訴えてくる。
「…言えない。ごめんなさい」
基から、言うつもりなんかない。
「ここで言えないことなら、場所移動する?」
私の態度で気付いたのか、優しい声音で彼が言う。
移動するにしても、彼と一緒に居ることでまた何か言われるんだと思うと気が引ける。
「ごめんなさい!これだけは、言えないの…」
私がそう口にするのと同時にチャイムが鳴った。
「わかった。夏実ちゃんが言えるようになるまで、俺は待つよ」
そう言って、彼は教室を出て行った。
ごめんね。
この想いだけは、伝えてはいけないことだって、自分の胸の内に封印した。