鬼ごっこ
今回は短いです
更衣室に移動したものの、大谷くんのファンに囲まれ、身動きできなくなってしまった。
私が、一体何したって言うのよ。
向こうから近付いてきたんだから、不可抗力よね。
「結城さん。蓮君とは、どういう関係なの?」
それ、私に聞く?
私も、解ってないのに?
「どうせ、色仕掛けで迫ったんでしょ?」
って…、そんなわけないでしょ。
私の何処に色気があるんですか?って逆に聞きたいわ。
「彼とは、何の関係もありません!私は、何ら彼に興味有りませんから!」
そう言いきった。
「そう、ならいいわ。今後一切蓮君に近付くの禁止ですからね」
言いたい事だけ言って、散らばっていく。
あのさぁ、向こうから近づいてくるのはどうなんですか?
って、口にしよとしたが、一人も残ってやしない。
何なのさ。
これからは、ずっと彼を無視する(視界に入ったら隠れる)しかないか…。
疚しいことなんか、何もないのになぁ。
何て、考えながら着替えを済まし、グランドに向かった。
とかく、鬼ごっこの開始かな?
「夏実。あんな約束してよかったの?」
幸子が、心配そうに聞いてくる。
「うん。そうすれば、彼も諦めてくれるでしょ」
何て、考えが甘すぎた。
「夏実ちゃん、浮かない顔して、どうしたの?」
って、いきなり会っちゃったよ。
「何でもないよ、じゃあ」
私は、それだけ口にして、脱兎のごとく走り去る。
うん、陸上やってたから、足には自信があるんだ(何の自信だか)。
それからというもの、彼の事を避け続けた。
前から彼の姿を捉えれば、近くの空き教室に避難したり、トイレに隠れたり。毎日神経を尖らせてた。
そんなある日。
一日の授業が終わり、彼が来る前に教室を出ようとしたら、運悪く彼と鉢合わせしてしまった。
万事休す。
私は、見なかったこととしてそのまますり抜けようとした。
が、腕をがっしりと掴まれてしまった。
あ~あ、これじゃあ逃げれないじゃん。
「ねぇ、夏実ちゃん。俺の事避けてないか?」
彼が、悲しげな顔で私を見てくる。まるで、捨てられた子犬ですね。
ええ、避けていますとも、何て言えるわけもなく。
「そんなこと無いよ。私も色々と忙しいのですよ」
何て、居訳をする。
「何で、そんな顔して言うの?何か言えない事情でもあるの?」
どんな顔をしてるのでしょ?
心配気な顔をして言う彼。
言えるわけないじゃん。
クラスの女子、イヤ廊下にも居るであろう彼のファンの目がこちらを注目してる中で言えるわけない。『貴方に近付くな』って釘を刺されたなんて…。
「大谷くんの気のせいだって。手、放してくれないかな?用事があるから急いでるんだ」
私は、彼の目を見てそう言うと渋々ながら、手を離してくれた。
ごめんなさい。
「じゃあ、またね」
私は、笑顔を向けて走り出した。
これでいいんだよね。
これで、彼女達も納得してくれるよね。
だけど、私の胸の奥に蟠りが残る。
そう、彼の悲しい顔が脳裏に浮かぶ。
私、彼を悲しませることしか出来ない。
だから、私の事は忘れて欲しい。
そう思いながら、家路についた。