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名もない物語  作者: 林檎の神
3/7

風林火山の漢

一人の少年が森の中、蔓や茂みをナイフで切り開きながら進んでいた。

齢は18歳くらいだろうかアイテムポーチを腰にかけて布のズボンに黒いシャツとブーツ、手にはナイフが握られていた。



「全く、俺って男は道もない森にどうやって迷い混んでどうやって記憶をなくしたって言うんだ。」


そう、この少年は自分についての記憶を失っている。


しかし、言うほどには焦っている様子もなくて落ち着いている感じである。



そうして十メートル進んだところでいい感じの木の根元に座り込んだ。


そして、アイテムポーチから、水と手に乗るサイズの一見宝石であると言われても分からないような瑠璃色の木の実を二つ取り出した。


瑠璃色の木の実は自分が記憶を失っていた泉のまわりに腐るほどなっていたのでアイテムポーチに全部拝借させてもらった

辺りには人が育てているという感じもなかったので、遠慮などいらないだろう。


この木の実はカリッとした食感に、柑橘系特有の甘味がありとても美味しい。


少年はこの木の実を二つ食べて水を飲むと木陰で自分の今いる場所を地図で確かめてみた。


「うーん、歩き出してもう三日になるんだけど……てかこの地図この森の事書いてないんですけど、そろそろ道に出てもいいと思うんだよなぁ。」


少年の見立てではもう道に出ていておかしくないくらい進んでいる。

辺りを見回して一番高い木を見るとその木の根本まで行き跳躍して木の枝につかまり、腕の力でそこから新たな木の枝に飛んでを繰り返して天辺まできた。


「よっこいさっ!!おっ、ビンゴ。出口発見!!」


もう50メートルほどいった場所で森が途切れている。

それを確かめると、枝々を跳んで降り拡げていた地図を畳みポーチにしまい再び道を切り開き始めた。



しばらくたって横方のの光が強くなってきた。



そして、少年は最後に目の前にかかっていた蔦を切ると森の外へと足を踏み出した。


「ようやく出れたか。」


辺りを見回すと目の前には、三叉路がありその三叉路の中心には三メートルほどの大岩があった。


ここまでに問題はなかったのだが問題は大岩の上にあった。


人がいるのだ。


只の人であったのならばどれ程良かっただろうかいやいいのか?


その大岩の上には二メートル近い身長の、とうもろこしの髭のような金色の髪を結わえ口元に髭をたくわえている大男が上半身裸でポージングを決めていた。


「……」

少年は真顔でただ呆然としていた。


どれ程時間がたったであろうか。

ここまで来ると本物の人間ではない可能性があるので確かめようと岩を上って近くで見てみると一応人間であったが大男は気を失っていた


(俺も道のない森の泉の近くで気を失っていたが……これには勝てないな……いや、まじで)


思わず呆然として見つめてしまう。


「ってこんなことを考えている場合じゃないっ!!おっさんっ大丈夫かっ?」

肩を揺さぶると微かに呻き声が聞こえた。


「ぅ、うぅぉ」


少年は男を担いで木陰までつれていきアイテムポーチから水袋をだし、水を口のなかに少しずつ流し込むと男は暫くして呻きながら目を醒ました

「ここが天界ですか……地上と変わらないものですね」

「いや、ちがうけどね」

勘違いする男にことのなり行きを説明する。


そうすると、慌てて寝ていた体を起こした

「あなたが私を助けてくださったのですね。」


「まぁ、そうなんだけどもあなたは何であんな風に気絶をしていたんだ?」


「いやはや、実は用があって第二都市カルクスに行っていたんですが、帰る際に食料の量を間違えてしまったようで帰りの途中でなくなってしまいどうすることもできず、このまま死ぬのであれば自分の肉体美を見せつけながら死のうと思ったんです。」


やや、興奮ぎみにいう男に対して少年は自分がおかしいのだろうかと錯覚に陥りかけてた。


「なるほどな、考えてみると今までの努力の塊である自分の肉体美を見せながら死ぬ……斬新かもしれん」


陥っていた。


「おぉーわかってくださいますかっ!!おっと、自分の名前を名乗っていませんでしたね。」


そういうと、男は姿勢を正した。

「私の名前はアレス・ラリアットどうぞよろしくお願いします。」

「あぁよろしくなアレスさん。俺は……実は記憶を失っていて名を名乗ろうにも名乗れない。」


アレスと名乗った男は驚きの表情を浮かべた

「なんと、まさか魔物にでも襲われていたのですかね?」


「いや、森の中で倒れていたんだ。だから魔物ではないと思う」


そういうと、アレスは腕を組んで考え出した

「しかし、服装から判断して冒険者はないでしょうね。彼らは防具をつけていますから。」

よく、考えてみるとそうだ。

大抵の冒険者は防具をつけるものであって自分のような者がいたら最弱とされるゴブリンにも殺されてしまうだろう。

「ということはこの近くの村民といったところですかね?」



少年は改めて自分が何者なのかがわからなくなった。

「うーん、どうなんだろうか」

すると、アレスは何かしら思い付いたのか手をぽんっと打ち付けた。


「では、こういうのはどうでしょうか?助けていただいたお礼にあなたのお供につくというとは私も実は冒険者の端くれ、魔物から守って差し上げましょう。」

「しかし、アレスさんは帰る家があるだろ?」

すると、胸を張ってこう告げた。


「きっと誰も私のことは心配しませんよ!!」

(それはそれでいいのか?)


「それに、ラリアット家の家訓に恩と借りは百倍返しというものがあるんです」

そう言ってにっこりと微笑んだ。


「じゃ、じゃあ俺が何者かが分かるまででいいからさ、よ、よろしく?」


「はいお願いします。しかし名前がないというのは困りましたね……あっ、それじゃあ私に名前の提案があるのですがいいですか?」

「あ、ちょうど自分の仮の名前がほしかったんだよなぁなんかあるんだったら教えてくれる?」


「では、アトロ・レリアはどうでしょう?私の尊敬する人の名前なんです。」


「アトロ・レリア……悪くない。アトロ・レリアか、うん気に入った」

名前を噛み締める。


「気に入っていただけてよかったです。あのアトロさんもきっと喜ぶでしょう」

うんうんと頷くアレスに疑問に思ったことを尋ねる。

「その、アトロって人は誰なんだ?」


「アトロさんは私の師匠なんです。と言ってももう十数年前のことですけどね。」


どこか遠くを見つめながらそういった。

「ってことはその人も筋肉が?」

自分の名前の人が筋肉の使徒というのも複雑な気分なので恐る恐る聞く。

「いえ、あなたに本当にそっくりな人でした。」


「じゃあ今その人は?」


「一年前に亡くなったみたいなんです。最初は信じられませんでしたけどね、やっぱりあの人も人間だったんですね」

(あぁだからここを天国だと思ったのか。しかし……)

「アレスさんは冒険者なんだよな……」

立ち上がってポージングをとる

「えぇ!!もちろん誇り高き冒険者です」


「じゃあ何で防具着てないんだ?」

そう、アレスは上半身限定だが服を着ていないししたのズボンも防具ではなくただの布のズボンである。

「いやだなぁ、筋肉着てますよ」

(筋肉は防具なのかっ?)


眉間に手をあて考えるが分からない

(いや、しかし俺は記憶を失っているから俺が間違っていてこれが普通ということもある。アレスさんはなにも疑問に思ってはいないしな……)

そして導き出された答えは


「筋肉着てるからいいか。」

「ええ、着てます」


ぐぅぐぐぐぅと突如音が鳴り出した。

「すいませんもう三日も何も食べてなくて」

そういうとアレスは再び座り込んだ


「助けていただいてこんなことを頼むのは気が引けるのですが食糧を少し分けて頂けませんか?」


「あぁ別に構わないよ」


そういうと、アトロは腰にかけていたアイテムポーチから瑠璃色の果実を四つほど取り出しアレスへはいと手渡した

「ありがとうございます。しかし、アイテムポーチですか……。うーん……」

ポーチがただのポーチではなくアイテムポーチだと分かると顔を厳しくした。


「ん、どうした?」


すると顔と手を横に振り笑顔で答えた。

「いえいえ大したことではないんですが、そのポーチはアイテムポーチですよね?」


「そうだけど何かあんの?」


「アイテムポーチを持っているのって中級者の冒険者もしくは商業組合の商人で、普通の村人は持っていないんですよね」

それを聞くとアトロは苦虫を潰したような顔になった。


「俺ってほんとに何者だよ!!」

「いやいや、ほんのたまに持っている人もいますから今はそんなこと忘れましょう」


そういってアレスは果実カリッを食べる。

そして驚きに目を見開いた。

カリッとした食感に甘酸っぱくさわやかな味わい、かじった果実を噛むとシャクシャクという音をたてて甘味がます。

生まれてきてこんなに美味しい果実を食べたことがなかった。

瑠璃色の見た目は気品さえ感じ、咀嚼音は心を落ち着ける。

しかしそんな中からも感じる切なさ。


全てが素晴らしかった。

涙を流しながら全てを食べた。驚くことに中心にあった種も力を込めて噛むと弾けて中からはこれまでとは違った優しさを感じる旨みの中身が飛び出す。

「……」

しばらく、放心状態だった。

「……」


「ぉ……」


「おいアレスさん」

はっと我に帰る


「す、すいませんこのようなものを食べたのが初めてで。これは?」

「いや、俺の記憶を失っていた場所にあって」

「ま、まだそこにありますか?」


アレスが興奮ぎみに掴み掛かってくる

少し引きながらアトロは


「いや、もうそこにはないよ。まぁアイテムポーチにまだ数百個はあるんだが」


なんと、と言ってそれから、手をもじもじさせる。

「またいただいてもいいでしょうか?」

それに対してアトロは笑いながら答える

「勿論いいよ、これから一緒に行動するんだし」

アレスはそれを聞くと顔をぱぁっと明るくさせて手を握ってくる

「ありがとうございます」

「いやいいよ。まぁとにかく食事もすんだしそろそろ近くの村に向かおうか」

そう言って立ち上がりアレスも少し遅れて立ち上がる。


そして、二人は近くの村の方に向かって歩き出した。

しかし、歩き出してすぐにアレス疑問に思ったことがあり立ち止まり後ろを向いた。

「はて、昨日までここに森ってありましたかな?」

するとアレスが立ち止まったことに気づいたアトロがアレスの方に向かって声をかけた

「どうかしたぁー!」

はっとして、すぐに振り返り

「いや、気のせいです早くいきましょう」

と走って駆け寄っていく。

アレスとアトロは共に並んで他愛もない話をしながら村に向けて進む。

森はアレスとアトロがいなくなっても沈黙を続けていた。

余談であるがどの地図にもこの森の存在などは、かかれていなかった。



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