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Fantasy with O3(Talk in the bed)   作者: 砂海
ローランとフレデリクの物語
6/19

 

「エテさん」

「何だ?」

「ものすっごく可愛らしいですねー」

「だろー。可愛くて可愛くて、抱きしめたくてなぁ」

「分かります~。やっぱり、30年前に行きたいなぁ…」

 

 まじまじーっと、ローランとフレデリクを見つめていた沙美が、現在の二人ではなく妄想の二人に対して小さく呟く。

 

「サミ!」

「サミさん、絶対に、ダメですからね!」

「こんなに、可愛いのに~」

 

 沙美、妄想に向かって話しかけている。

 フレデリクが、呆れたとばかりにため息をついて立ち上がり、沙美の頭をポカリと殴った。

 

「ディック!」

「手加減した。

 サミ、帰ってきたか?」

「う、うん」

 

 沙美は、コクコクと慌てて頷く。

 

「続きも聞きたいんだろ」

 

 今度は、ブンブン頭を振って頷いた。

 

「だって、あのラグエル卿だよね?想像外のシゴキがありそう」

「ん?だったら、お前が話すか?」

 

 エテはふわりと降り立って、沙美の後ろに座る。

 プランタンが「ずるーい」と言ってエテの腕を引っ張るが、「お前もやれば良かっただろ?」と、軽くいなされた。「プランタン」と言って、その小さな体を抱えたのはイヴェール。「せっかく他の子も居るのです。差別はいけませんよ」と優しく諭す。

 だが、沙美は思う。他の子…子って…と思いながら、おっさん達をじぃっと見てしまった。確かに精霊の長に比べたら、人間なんて全員子かもしれない。だが、おっさん。沙美の目の前に居るのは、おっさん。激しく違和感がある。

 

「むー、次は僕だからね」

 

 プランタンはそう言って、ふわりとローランの上に乗った。

 

「プランタン殿…」

「僕、強大な魔法使いも大好きだからね。あ、赤い騎士も、金の騎士も大好きだよ」

 

 にっこり微笑む姿、天使様。ローランに肩車してもらっている姿は愛らしい。だけど長様。人間よりはるかに長命な長様。威厳は無いけど、そんな長様から軽く凄い事を言われて、おっさん三人は肩をがっくりと下げた。

 

「それで、どうするんだ?」

「あ…あぁ、俺が話す。お前が余計な事を言って、思い出したくも無い事まで思い出したら体調が悪くなる」

 

 エテは、フレデリクの言っている事が何を指しているのか気づき、分かったと頷く。人間とは、信じられない訓練をするものだなと当時思っていたが、他を知るようになってから、あれは例外だと知った。確かに、思い出したら不幸だなと温い笑みを浮かべる。

 

「ラグエル卿の所へ行って、騎士見習いになった所からだ。あそこは、どの土地の者でも、騎士になりたいのなら受け入れる。おかげで、直ぐに新入りが集まる隊に入った」

 

 全員が、フレデリクを見ている。

 

「早朝練習から始まり、食事、勉強、食事、訓練、食事、訓練、食事、就寝で終わる」

「……食事が4回?」

 

 沙美の驚いたような声に、フレデリクは頷く。

 

「最初は食べられんが、そのうち4回でも足りなくなる」

 

 足りなくなるぐらいの運動をするんだと、沙美の背中に汗。その汗は、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

「オーバン隊長」

「何だ?」

 

 オーバンは、最近入った新人の呼び声に気さくな笑顔で答える。

 夜の訓練が終わった後。新人の割に体力もあり、しっかり立っている子供。そんな、フレデリクをしげしげと眺めた。

 

「ここには、休みって無いんですか?」

「あーーー帰りたいか?」

「いえ、行かなければいけない所があるんです」

 

 目の前の子供は、真剣な表情を浮かべ自分を見上げている。

 

「その理由は、長くなるか?」

「隊長が、どこまで聞くかによります」

 

 自分の言った質問に、完結に答えてくる。その頭の良さに、オーバンの手は自然とフレデリクの頭に触れ、「んじゃぁ、座って話そうか」と答えた。

 

「まず、どこへ行きたいんだ?」

「エールです」

「術士の町かい?何でだ?」

「そこに友達が居るんです」

 

 オーバンは、未だ立っているフレデリクを引き寄せ無理やり座らせる。

 

「俺は、長くたって構わないんだ。最初っから、ゆっくりちゃんと話してみろ」

 

 引っ張られ、ドシンと尻餅ついたような形になったフレデリクは、目を瞬かせた。

 驚くと子供らしい顔つきになるんだなと、オーバンはフレデリクを楽しげに眺めた。そして、この後聞いた話は、それ以上に楽しい内容だった。

 

「つまりだ。孤立している友達のとこへ行って、ここで覚えた訓練法を伝えたいって事だな」

「はい。それに、あいつ…寂しがりだから」

「なるほどな。付いて来な」

 

 オーバンは、尻を叩きながら立ち上がり、後ろを振り向きもせずに歩き出す。フレデリクも急いで立ち上がり、小走りで付いていった。

 そして二人は、ラグエル卿の屋敷の中に入って行った。

 

「ラグエル卿~~~!もんのすげぇ~面白い話があーりーまーすーよーーーー!」

 

 大音声。フレデリクは、慌てて耳を塞ぐ。沢山の子供が訓練していても、誰一人聞き漏らす事皆無の声だった。

 遠くから、「ここだーーー」という声が聞こえる。オーバンは、「お、珍しい、執務室だ」そう言って、またどんどん歩き出した。

 フレデリクが、この屋敷に入るのは初めてだった。初日からずっと、屋敷周辺にある騎士見習い用の宿舎と、同じく屋敷周辺にある訓練場を行き来しかしていない。

 突然の訪問。しかも、物凄く偉い人の屋敷。はたして、こんな勢いで入っていいのかと呆然としながらも、足は必死になって動かしていた。なにせ、必死に動かさないと追いつかない。確かに立派な屋敷だから広いが、こんな速度で歩くものではないんじゃないかと思いながら一生懸命オーバンを追った。

 

「卿~」

「んだ、面白ぇ話なんだろ?何でガキが一緒なんだ?」

「俺じゃなくて、こいつが面白い話をしてくれますよ。俺の保障付きです」

「本当かぁ?お前、結構外れが多いぞ」

「まぁ、聞いてみて下さいって。

 ほら、フレデリク、さっきの話をはしょらず全部話せ」

 

 そう言って、オーバンはフレデリクの背中を押し、執務机の前に居るラグエル卿の前に出した。

 

「いいんですか?」

「あぁ、良いぞ」

 

 背後に向かって言ったフレデリクの問いに対し、答えたのは前に居るラグエル卿。

 

「あの…面白いか、俺には分かりませんが…」

「いいから話せや!それからだ」

 

 入隊した日に訓練場で会い、新人ですと紹介され挨拶をした。その時の貴族然とした男は居なかった。これじゃぁ酒場の親父だと、フレデリクは思い。思った瞬間、気が楽になる。一回息を吸う。フレデリクは、話し始めた。

 幼馴染のローランが術士学校で、孤立している事。

 いじめに合って、無理やり意に沿わない言葉を言わされている事。

 せめて、休みの日には、自分が会って孤立した心をどうにかしてやりたい事。

 そして、ここで訓練法を覚えてローランにそれを伝えようと思った事。

 それを事細かに話した。

 

「その坊主は、術の才がかなりあるんだな?」

「はい。最高位だって言ってました」

「だったら、お前と同じような訓練する暇なんか、ないんじゃねぇか?」

「いえ、あいつは努力家ですから、必要ならいくらでもやります。今までもそうだったし、これからも変わる予定は無いはずです」

「ん~~そのガキの体型は、お前と同じような感じか?」

「いえ、家業を手伝っていたので、身長は同じぐらいですが細いです」

「家業って何だ?」

「ピエのフィノっっ…!?」

 

 フレデリクは、最後まで言えなかった。背後の隊長が、「フィノだぁ?服だよな?俺、そこのばっかりだぞ」と言うのと同時に、ラグエル卿が中空を朧に見ながら「城に行く時の服は、だいたいあそこだったなぁ」と呟く。

 ピエの技術集団は、国の中でも有名で、他の地域よりもずっと良い品を提供すると評判だった。だから、田舎の村でも名は知られている。その中でも、服のフィノ、装飾品のポクラン(沙美に腕輪をプレゼントした装飾屋)の家は、ダントツで知られていた。

 

「んじゃぁ、服屋は後継者を無くしたのか?」

「あそこには、才能のある弟が居るから、大丈夫です」

「へーーお前は?まさか同じ服屋とか言わねぇよな?」

「言いません。俺は、鍛冶屋の息子です」

 

 ラグエル卿とオーバンは、なるほどと彼の腕をそれぞれチラリと見た。

 

「お前、鍛冶屋はしなくていいのかよ?」

「どこでも出来ますから」

 

 小さい頃から叩き込まれた多くのノウハウは、そう簡単には消えない。

 

「敷地内にある鍛冶屋さんの手伝いも、少しはやらせてもらっています」

 

 ラグエル卿の眉間に皺がより、オーバンを見る。

 

「や、俺はそんな余裕ないぐらい、いつも通りしごいてますますって」

「オーバン、もしかして、こいつの話と同じぐれぇ、こいつも面白いって事かぁ?」

 

 フレデリクからは見えなかったが、その背後ではニンマリと笑ったオーバンが居た。

 

「お前は、その友達ってやつが強くなったら鍛冶屋に戻るのかよ?」

「いえ、城にあがりたいと思っています」

「はぁ~?城なんかに行ったら、鍛冶なんかもっと出来ねぇぞ」

「ローランの才能があれば、間違いなく城勤めになるんです。だけど、あいつは素直すぎて…それに、何かに没頭すると周囲が見えなくなるし…だから俺も城へ行って、あいつの周囲に気を配らないと危なすぎます。

 鍛冶の仕事は、ローランに……しっかりしたお嫁さんが来たら考えようかと思っています」

「結局、お前は、騎士になる気はねぇんだな?」

「鍛冶が出来る騎士じゃダメですか?」

 

 即時に返ってきた返答に、ラグエル卿は一瞬目を見開いた後、笑い出した。

 

「そーーーーーーーだな。それも……いいかも、しれねぇ、なぁ~」

 

 オーバンも、頷きながら、その笑いに加わっていた。

 

「んじゃぁ、お前がどこまで行けるか、俺に見せてみろ。鍛冶の片手間で騎士になれると思うなよ!」

「分かりました」

「最初の課題だ」

 

 ラグエル卿の笑みが消える。

 

「お前、ヒヨに乗った事は?」

「ありません」

「じゃぁ丁度いいな。エールまで、先頭から離れず、ヒヨから落ちず、意識を失わずに行け。それが出来たら、現地でお前の友達と一緒に訓練だ。分かったか?」

 

 フレデリクは、真剣な顔で頷いた。

 

「なぁ、オーバン、エール出身の隊長って誰か居たか?」

 

 この領地では、領地内の人間だけではなく、広く騎士を募っている珍しい場所だった。普通は、領地民だけで騎士や兵士は成り立っている。だが、目指せ剣術大会一等賞という土地柄。強くなろうという意思を持つ者には、広く開かれている場所だった。

 

「ブラディが、そうだったと思いますが……連れてきましょうか?」

「あぁ、連れてきてくれ。その間俺は、この生意気な坊主と遊んでるわ」

 

 オーバンは、苦笑を浮かべながら、「遊びすぎないで下さいよ」と言って部屋を出て行った。

 

「ほらよ」

 

 そう言って、フレデリクに飛んで来たのは、棒。

 

「遊ぼうぜ」

 

 口の端をあげたラグエル卿は、上着を脱ぎながらもう一つの棒を取り、フレデリクの前に立った。

 

「ほら、かかってきな」

 

 目の前で棒を構えている偉い貴族の人を、フレデリクは呆然と見ていた。フレデリクにとっては、有り得ない状況。なにせ、目の前の人は強い騎士で名高いラグエル卿、その人。普通なら、偉い人が棒を交えると言ったら、光栄に思わなきゃいけない場面。だが、遊ぼうぜと誘われたらどうしていいか分からない。

 「ほら、どうしたよ」と続けて言われて、ようやくフレデリクは慌てて棒を構えた。決して遊びじゃない。これも課題の一つに違いないと気がついた。

 フレデリクが騎士見習いになってから、たった一ヶ月。今まで習った事を総動員して、ラグエル卿に向かって行った。

 それは、オーバンが戻ってくるまで続いた。

 

「随分早ぇじゃねぇか」

 

 開いた扉に向かって、ラグエル卿が振り向きもせずに文句を言う。

 

「これでもゆっくり行きましたよ。それに、この辺りがフレデリクの限界だ」

 

 オーバンが言った通り、フレデリクは肩で激しい息をし棒を持つ手は震えていた。

 

「訓練の後ですよ」

 

 オーバンは、フレデリクから棒を取り、「新人にやりすぎは禁物だって、前から言ってるじゃないですか」と言って、近くの椅子にフレデリクを座らせた。

 

「えーー、鍛冶やる余裕のあるガキだろ?」

「卿」

 

 ラグエル卿は渋々と机に戻り、「つまんねぇなぁ」と一言ぼやいてから、座った。

 

「卿、用事とは、何でしょうか?」

「あーブラディ、お前、エール出身だって?」

「そうですが……」

 

 不審そうに返答するブラディに、ラグエル卿は、適当にかいつまんで、フレデリクの話を説明をした。

 

「ほぉ」

 

 ブラディは、楽しそうに笑う。

 

「あの性格が曲がってどうしようもない世間知らずの子供達を、間接的でも懲らしめる事が出来るのですね?」

 

 非常にたちの悪い笑み。

 

「いいですよ。それで、結局私は何をするのですか?」

「お前が先頭。しんがりが、オーバン。その間にお前んとこと、オーバンとこのガキ全員が入る。

 お前、全速力で走れよ」

「は?」

「当たり前じゃねぇか、己の信念を示すんだ、手抜きじゃ失礼だろう?」

 

 ブラディが、疑わしげに後ろを振り向きオーバンを見る。オーバンは、楽しげに笑っているだけ。ブラディの口から深々とため息が漏れた。

 

「置いていかれた子供達は、オーバンが全員回収してくれるのですね?」

 

 ブラディの背後で、「げっ!」という声が聞こえる。ラグエル卿の「オーバン頑張れよ~」という声が、それに重なった。

 

「分かりました。もし彼が、先ほどの条件をクリアしたら術士の子供と一緒に昼まで訓練ですね」

「おうよ」

「他の子供達は?」

「今夜中には、エールへ手紙を出しておく。エール付近で、いつも通りの訓練でもやらしとけ」

 

 ブラディの背後で、「おいおい」とオーバンは、ボヤク。だが、今更遅い。当然ブラディは、フレデリクにつくから、負担は全部オーバン行き決定だった。

 ブラディは振り向き、オーバンを無視して下の方へ視線を向けた。真っ直ぐな視線とかち合う。

 

「いいか?」

「よろしくお願いします」

 

 フレデリクは、慌てて立ち上がり頭を下げた。

 

「私は、手抜きをするつもりは無いからな」

「分かっています」

 

 ブラディは、楽しそうに笑う。

 

「明後日楽しみにしている」

 

 ブラディは、ラグエル卿へ向き直る。

 

「では、ヒヨ係には私が伝えておきましょう。これで、用件は終わりですね?」

「おう」

「失礼します」

 

 「たまには、もっと気楽な会話をしようぜぇ~」というラグエル卿のボヤキに、頭を一つ下げてブラディは退出した。

 

「それでは、俺達も失礼します。夕飯食べに行かなきゃぁならないんでね」

 

 オーバルが、頭を下げる。

 だが、フレデリクは、頭を下げずに、じぃっとラグエル卿を見ていた。

 

「どうした?坊主」

「あの…、また、お願いしてもいいでしょうか?」

「あ~?何をだ?」

「また、遊んでもらえますか?」

 

 ラグエル卿は、一瞬目を丸くした後楽しげに笑った。

 

「そうだなぁ、お前がもう少し強くなったら遊んでやるよ」

「分かりました。失礼しました」

 

 フレデリクは、勢いよく頭を下げた。

 

子供の頃のフレデリクの台詞が、多いなぁ…、今と大違いだw

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