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Fantasy with O3(Talk in the bed)   作者: 砂海
ナデージュの物語
17/19

 

 夜遅い召集。だが、未だ仕事中だったのか、まるで呼ばれるのを見越してたかのようにデュカス卿は、寸分の隙も無い着こなしで現れた。扉から一歩入り、優雅な礼をナデージュにした後、ゆっくりと目の前にいる面子の顔を確認する。その視線が沙美の上で止まった。

 

「お久しぶりですね、お嬢さん」

「沙美です。お久しぶりです」

 

 沙美は、満面の笑みでデュカス卿に挨拶をした。文官トップの文官長という地位にある人が、目の前にいる。その人がここに居るという事は、ナデージュ陣営のブレインは、間違いなくデュカス卿だと判断。

 今自分は、『おっさん達の睡眠時間拡大大作戦』の為に、ここにいる。少々の緊張なんか吹き飛ばすぐらいの嬉しさが自然と表情に表れていた。

 だが、デュカス卿がそれを知る訳もなく、満面の笑みを少し訝しく思いながらも、優雅に沙美の手をとり甲に口付けた。

 

「デュカス!サミに手を出すなっ!」

 

 速攻ナデージュが沙美を抱きしめ、デュカス卿から沙美を遠ざけた。そして、同じく速攻でローランが、そのままナデージュの手の中から沙美を奪還。いつもの光景。

 

「ナデージュ姫、人聞きの悪い事を言わないでもらいのですが」

 

 ナデージュの瞳が、半眼になる。

 

「私はラグエルだけじゃなく、他の領主からもお前の最悪な偉業について聞いている。今の光景は、聞いたそのままだ」

「騎士たるもの、女性に対し礼儀正しくあるのは、当然だと思いますが?」

「今のお前は、文官長だろうが!だいたいその騎士の礼儀で、あらゆる揉め事を作っていたヤツがしれっと言うな!」

「揉め事ですか?そのような覚えはありませんが?」

 

 デュカス卿は、穏やかな笑みを浮かべて返答する。その声音は、少々白々しい。

 

「宮廷に通えるようになる12の歳の少女から高齢の人妻まで、ありとあらゆる女性に手を出しては決闘騒ぎを起こしてきたのの、どこが揉め事じゃないんだっ!」

 

 それを聞いたファビオが、「まじかよ?」とローランの腕をつつく。ローランは無言で一つ頷き、フレデリクは「有名だな…」と小さく呟く。そして、『叔父様』という言葉が凄く似合っていると信じていた沙美は、「素敵な叔父様って、都市伝説?幻?」とブツブツ呟きながら、肩をがっくり落とした。

 

「サミ、サミの言う素敵な叔父様というのが、どういうものかは知らないが、この国にもちゃんとした立派な叔父様が居るからな。ただ、これが違うだけだ。なるべく近寄らない方がいい!」

「いるんですね?」

「ん?…あぁ、いる。今度紹介するからな」

 

 良かったーと安心する沙美を見ながら、デュカス卿は「ナデージュ姫、失礼ではないですか?」と冷ややかな声音と視線を向ける。

 

「いや、私は、間違った事を言ってないぞデュカス。お前は忘れたかもしれんが、私の乳母は、お前にかなり迷惑をかけられたからな。セヴリーヌは、私から徹底してお前を排除していただろう?」

「セヴリーヌ…?」

「あぁ、お前は覚えていないだろうが、お前の被害にあった者は、全員お前を覚えているんだ。もう、いい。とりあえず、そこに座れ」

 

 ナデージュの指は、床を指している。

 

「姫……」

「この部屋には、サミと私以外に座る椅子は用意してない。ほら、お前らも適当に座れ、でかい図体で立たれると目障りだ」

 

 ナデージュは、男共にしっしと手を振りながら、沙美においでおいでをしている。だが、沙美的には、自分よりはるかに年齢の高い人達が床に座って、自分だけ椅子に座るなんて事は絶対に出来ない。

 

「あたしは、ここでいいですー」

 

 そう言いながら、さっさと床にペタンと座った。

 そして、過去勇者、現在友達が、そんな姿勢をとっている中、一人で椅子に座るという事が出来ない立派な騎士の姫君は、苦笑を浮かべながらも、同じように床に座った。

 

「それで、ご用件は何でしょうか?」

 

 デュカス卿が、話を促した。

 とても、国の中枢な人達とは思えないほど、アットホームな状況。デュカス卿の麗しい声は非常に違和感。

 だが、そんな事はお構い無しとばかりに、ナデージュは一旦全員の顔を見てから話し出す。

 

「来月、舞踏会を二日間開催するつもりだ」

 

 沙美を別にして、この面子で集まるという事は、王と姫君の対立の話だとばかり思っていた男四人は、それぞれ目を見開く。だが、口は挟まない。ナデージュの次の言葉を待つ。

 

「名目は、私の婚約者を決める為の舞踏会だ」

 

 空気が、小さくざわめく。

 

「婚約者候補として、武術大会の各部門優勝者全員。

 それから…文官長。部下で、国の運営を任せられる者を適当な人数集めてくれ」

 

 真剣な眼差しが、デュカス卿を見る。デュカス卿を文官長と呼ぶということは、その長の資質を求められているという事。

 デュカス卿は、ナデージュの視線をしばし受けた後、「御意」と返答しながら、頭を小さく下げた。ただ床に座っている現在。いつもと違い、優雅さには欠ける。

 

「術士長、同じく部下で術の才能に加え、国の運営を任せられる者を文官長と相談の上、数名あげてくれ」

 

 デュカス卿との一連のやりとりを、真剣に見ていたローランは、同じく「御意」と答えた。

 

「そして、大変申し訳ないのだが……不敗の赤い刃殿」

 

 その久しぶりに聞く肩書きに、丁寧な言葉に、ファビオの眉根がよる。

 

「少しの間、私の婚約者になってもらえないだろうか?」

 

 その言葉に、デュカス卿は深く思考する面持ちに、ローランは驚きの表情を浮かべ、フレデリクはにんまり笑い、当のファビオは、ナデージュの言葉を表情を値踏みするように見つめていた。

 

「だめだろうか?」

「とりあえず、姫さんが考えている事を全部言ってみな。返答は、それまで保留だ」

「分かった。

 ファビオ殿、この国での不敗の赤い刃の人気は、未だ揺ぎ無いものなのだ。確かに、我々が対峙する者達の中心人物達は、ファビオ殿が私側にいるのを分かっている。だが、それは公ではない。なにしろ、対立している事自体が公でないのだからな。

 そこで、ファビオ殿が私の側に居ると、少々方向は違うが公言したい。それによって、私は相手に揺さぶりをかけたいと思っている」

 

 ナデージュは、真剣な視線を少し揺らがせ、「どうだろうか?」と心もとなげにファビオをみる。緊張していて昔の口調に戻っている事も、ファビオに殿を付けている事も気づいていない。

 

「それだけか?」

「一日目は、婚約者のお披露目会を開く。民には事前にふれを出し、賭けをしてもらう予定だ。誰が私の婚約者になるか?というお題目でな。それで、民の意識を知りたいと思っている。

 貴族の方はデュカスに胴元になってもらい、それぞれの思惑を掛け金徴収時に、調査してもらうつもりだ」

 

 ナデージュは、デュカス卿に視線を移す。

 

「サミが、掛け金徴収の手伝いをしたいと言っている。考慮に入れてほしい」

 

 デュカス卿は、小さく頷く。その横でローランが何か言おうとするが、フレデリクが彼の腕をひくことによって黙らせた。

 

「んじゃ、二日目は、発表会ってところか?」

「そうだ。私は、貴方を手に入れる事と、魔法使いを手に入れてる事を、世間に知らしめる為の発表会だ」

「お嬢ちゃん?」

 

 ここで、初めてファビオは沙美を見る。非常に冷たい視線。

 だが、沙美も負けない。

 

「なぁに?」

 

 いつものように、笑顔で答える。

 

「魔法使いって、お嬢ちゃんかぁ?」

「うん」

 

 取り出したりますは、再びチャッカマン。鞄から出したそれのトリガーを引く。現れた炎に、全員の注目が集まった。

 

「ね、魔法使いでしょ?」

 

 すでに消えている火の場所を凝視していた者達は、その元気な声に我に返る。

 その代表とばかりに、ファビオの目が細くなった。

 

「なるほどな……それで、さっきの状況ってやつかい」

 

 沙美は、その言葉には答えない。

 

「ファビさん、ナジュが答えを待ってるよ」

 

 にっこりと笑顔で伝える。

 それを受け止めたファビオは、「へぇ~」と非常に楽しくなさそうに笑いながら、「なぁ、ディック。お前なら、どう答えるよ?」と聞いた。

 

「デュカス卿、ナデージュ姫の教育が足りないのではないですか?」

 

 フレデリクの言葉に、ファビオが「はぁ?」と顔をしかめる。そんな台詞は、予期していなかった。

 

「俺は、貴方に正確に報告したはずですが?」

「私が、姫に伝えなかったなどという手抜かりをしていると思いますか?」

 

 部下よりも、丁寧な言葉だが、言葉の冷やかさが遥かに違う。

 

「姫もそれなりに理解はしていたようですが、実感が足りなかったようですね」

「ですから、以前から言っていたと思いますが、世間に出したらどうです?」

「この美貌でお忍びは、難しいと返答したはずですが」

「男装させればいいでしょう」

 

 すでに同じような会話は、何度もされていたのだろう。流れるような平坦な声音と会話。そして、双方うんざりとした表情。

 

「どういうことだ、デュカス」

「サミさんのご助勢は大変面白いと思いますが、私とフレデリクはその必要性がまったく無いと言っているのです」

 

 ナデージュの眉間に皺がよる。

 

「サミさんが知らないのは、こちらにお住まいでない以上仕方がありませんが、ナデージュ姫、以前私が言った事を覚えておいでですか?」

「ファビオに関する事か?」

「はい、そうです」

「老若男女、あらゆる階級のアイドルだと聞いたあれか?」

 

 「なんだそりゃぁ」と、ファビオが嫌そうに突っ込む。だが、目の前の主従は、そんな突っ込みは一切無視。

 

「彼が傭兵のままだという事実も、私達側の人間だという事実も、姫がおっしゃったように、ほとんどの貴族が気づいていません」

「あぁ」

「彼が二軍の長をやっているという事は、王に恭順していると判断する者が多いのです」

「分かっている」

 

 デュカス卿は、珍しく苛ただしげにため息をつく。

 

「もし、彼が貴方の婚約者となりましたら、王に恭順している者達のかなりの人数を自動的に取り込めると、私は言っているのです」

 

 ナデージュの口と目が丸くなった。そのまま、自然ファビオに視線が移る。白い形のいい指が、ぎこちなく彼を指差した。

 

「そうです」

「……………そこまでっ?」

「えぇ」

 

 未だナデージュは、呆然としている。少々残っている冷静な部分が、『今までの自分達の努力は、何だったんだぁぁぁぁぁっ!?』と自分に突っ込む始末。

 そして、沙美は純粋に驚いて、その人気に感動する。『やっぱり、ファビさんって凄いなぁ』と、心の中で呟きながら、現実にはファビオの体をバシバシたたいていた。

 

「んだよ、お嬢ちゃん。ってか、お姫さんも指差しっぱなしって失礼じゃねぇ?」

 

 未だ、驚きすぎて指が動かないナデージュ。

 

「すっごいねぇ、ファビさん。すっごい!人気者だねぇ!!」

「あのなぁ、俺は、男に好かれても、ぜぇんぜぇん嬉かねぇんだけど?」

「えーーー半分は、女性でしょぉ」

「いえ、女性の比率は半分以下でしょうね」

 

 デュカス卿が、冷静に言葉を添える。

 

「強い者に憧れるのは、男性特有のものですからね。女性の評価は、それ以外にも厳しい項目がいくらでもあります」

 

 自分は、それを全てクリアしてきましたとばかりに、デュカス卿は優雅に微笑む。

 

「へーへー、俺はお貴族様じゃねぇし?くっだらねぇ社交辞令なんて、やってられねぇからなぁ。それでも女に不自由しねぇのは、本来の魅力で女が寄ってくるってこったろ?その方が、ありがてぇよ」

 

 さりげに、空中に火花が散りはじめた。

 

「ファビさん、ファビさん」

 

 沙美は、なんとなく険悪さを感じて、ファビオの腕をひっぱる。これ以上の脱線はよろしくない。

 

「ナジュに、返事しなきゃだめだと思うなー。ねーナジュ」

 

 沙美の言葉に、未だ呆けていたナデージュは慌てて指を下ろし、真剣な表情でファビオを見る。

 

「ほら、ナジュが返事待ってるよ」

 

 ファビオは、少しの間沙美を見てパチンとデコピンしてから、ナデージュに視線を移す。沙美に言いたい事は山のようにあったが、それは後でもいい。とりあえず、ナデージュの話を終わらせなければならない。

 

「あのさー姫さん」

「あぁ」

「俺って偽の婚約者なんだよなぁ?」

「そうだ」

「それって、このゴタゴタが解決したら逃げれるポジションかぁ?俺には、どうやっても逃げれそうに見ぇねぇんだけど?」

「安心してくれ。無事国外から逃げれるように、私自身が図る」

「あのさぁ、俺が国外に逃げたら、今の状況に逆戻りだと思うんだけどー?」

 

 ナデージュは、ようやく小さく微笑んでファビオを見る。

 

「安心してくれ。これでも私は演技力には自信がある!」

「はぁ?」

「そうだな……民よ、我が夫となる者は、我を王とすべく人に姿を変えた、精霊の長の一人だったのだ。

 我が王となった今、夫は元の姿に戻り世界へと帰っていった。今、彼は、この地のあらゆる所から我を我が国を見守っていてくれているであろう………という演説は、どうだろうか?」

 

 その言葉を聞いた精霊の長達は、全員噴出した。特にプランタンは、空間全部を使って転がった。可愛い顔とは、180度違った動作で、激しく笑い転げる。文字通りである。

 集まった面子の中でデュカス卿だけは、それが見えない。

 そして、はっきりと見えてしまっているデュカス卿以外。

 ナデージュが、真剣な面持ちでファビオを見れば見るほど、激しく笑える。目の前に長達が浮かんでいるのが見えるから、余計笑える。デュカス卿以外の人間の肩が小刻みに震えてきた。そして、ファビオの眉間に青筋が浮かんだ。

 

「だぁぁぁぁぁっ!てめぇら笑うんじゃねぇっ!ってか、何百年後かに、変な改変入れて綺麗ごとに変換しやがって伝えたら、化けてでるぞっ!!」

 

 突然の言葉に、デュカス卿が訳分からずファビオを見る。だが、誰も、彼が問いたい事の答えは言わない。

 

「ファビオ殿」

 

 ナデージュの真剣な声音に、デュカス卿も今の事を一時保留にし、ナデージュを見る。そして、ファビオも、まっすぐに彼女を見た。少し苦笑を浮かべて。

 

「ったく、即興にしてはすげぇ内容だ。俺には、似合わねぇよ」

「そんな事は無い。貴方の剣の腕ならば、神格化するには十分だと思うのだが………」

「あぁ、分かった分かった。姫さんの演技力に期待してやるよ。その代わり、しっかり俺を逃がせよ」

 

 ナデージュは、「分かった」と真剣な面持ちで言い、頭を下げた。

 

「決まったようですね。では、詳細は明日朝一で煮詰めましょう」

 

 デュカス卿は、音もなく優雅に立ち上がる。

 

「サミさん」

「はい?」

 

 デュカス卿が、沙美からしっかり離れている事を、周囲は瞬時に確認済み。

 

「先日は、帰り道にもう一度お会い出来ると思っていたのですが、それが叶いませんでした」

「あ、それは私もです。一緒に帰らせてもらえませんでした」

 

 デュカス卿は、チラリとローランを見て状況を察知し頷く。

 

「今回は、一緒に仕事をされるという事なので、時間をとれますよね?」

「はい。ぜひ、色々お話を聞かせてください」

「私の話ですか?」

「はい。若い頃のラグエル卿とのお話とか、女性の口説き方とか、奥様との馴れ初めとか、聞きたい事が沢山あります!」

 

 沙美の言葉に、「俺もききてぇなぁ」とファビオの声。そして、それに賛同する声が続く。

 

「私は、貴方の世界について、色々お聞きしたいのですが?」

「では、順々にお話し合いするというのはどうでしょう?」

 

 沙美は、楽しそうにデュカス卿を見上げる。

 

「そうですね。分かりました。では、次にお会いする時に」

 

 デュカス卿は、それはそれは、優雅で気品溢れる礼を沙美にとる。沙美を含め、流石有名な女たらしは違うと関心して見てしまった。

 

「姫、明日からかなり忙しくなります。お覚悟を」

「あぁ、分かった。よろしく頼む」

 

 再び、礼をしたデュカス卿は、静かに扉の外に消えた。

 その瞬間、突然床に座っていたナデージュの体がかしぐ。その体を当然とばかりに、フレデリクが受け止め持ち上げた。正真正銘のお姫様抱っこである。

 部屋の隅に片付けられていたソファに、ナデージュを静かに下ろしたフレデリクが振り返った。

 

「サミ」

 

 重低音の呼び声。

 

「長殿。降りてきて、サミさんの横へ座って頂けませんか?」

 

 ローランの淡々とした声。

 

「さぁ、ちっとばかしお説教タイムだ!」

 

 ファビオが、楽しそうに周囲を見る。

 沙美は、ようやくナデージュが術によって眠らされた事に気づいた。そして、慌てて正座になる。でも、今回の事を悪い事だと一切思っていない。顔をあげ、まっすぐおっさん達を見返した。

 

ナジュの話は、あと二つ!

間が空きすぎたなぁorz反省…

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