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Fantasy with O3(Talk in the bed)   作者: 砂海
ナディーヌの物語
13/19

 

 沙美の目の前が、ぼやけていく。そして落ちる感覚。時間移動をする時も異世界へ行く時と同じ感覚。ナディーヌが見えなくなるまで、満面の笑みを浮かべたまま、ぶんぶん音が出るぐらい腕を振り続ける。

 徐々に、景色が戻ってきた。振っていた手が力なく落ちる。顔が俯く。そして、かけられた術は、帰って来ると同時に切れるようになっていたのだろう。せっかくはっきりしてきた景色が、物凄い勢いでぼやける。ぼたぼたと予想していたものが、体に床に落ちていった。止まらない。

 

「ご、ごめんっ!」

 

 沙美はバスタオルをむんずと掴んで頭からかぶり、部屋の隅に片付けられていたテーブルの下に潜り込んだ。

 漏れ聞こえてくる嗚咽。必死になって声を抑えているのが分かる。

 あの最後の沙美の姿を知っている長達は、黙って沙美が落ち着くのを待っていた。

 だが、今まで長達から、何があったのかを聞いていたおっさん達は違った。おろおろしているが、どこに用意していたのか大量の美しい華美な手作りハンカチーフを取り出すローラン。「なぁんで、一人で泣き始めやがるかなぁ~」とボヤキながら立ち上がるのは、ファビオ。黙って近寄り、むんずと腰を掴んで引きずり出し、無理やり腕の上に沙美を乗せたのは、フレデリク。

 驚いて沙美の涙が一瞬止まった。頭は、バスタオルを被ったまま。慌てて、タオルで目を擦った。

 

「サミさん、どうぞ」

 

 ローランは、大量の煌くハンカチーフを沙美の手に握らす。

 

「もう、涙がでねぇって所まで泣いちまえ」

 

 ファビオは、沙美の頭をぽんぽん叩きながら優しい声で言う。

 

「自分の心に素直になれと言われたのだろ?」

 

 その言葉に沙美の目が瞬く。フレデリクの声に、鮮やかなナディーヌの声が重なる。自然と涙が零れてくる。こんな泣く為の言葉じゃなかった。そういう意味でもなかった。それを、優しいおっさん達は、自分を泣かせる為の優しい言葉に変えた。今までとは違う涙まで加わる。

 それから暫くの間、部屋の中に小さな声と鼻を啜る音だけが流れる。そして最後に、盛大に鼻の啜る音がして、ごしごしとタオルで顔を拭く音。沙美がそぉっと目だけを出した。

 

「ごめんね……お待たせしました」

 

 バスタオルを頭からかぶったままの赤い目をした沙美は、フレデリクの腕の上で頭を小さく下げた。

 長達が、おっさん達が、安堵したように笑みを浮かべる。

 

「サミさん、次は何に致しましょう?」

 

 随分と時間が経ってしまった。ローランは、心配そうに沙美を伺いながら聞く。

 

「今日を乗り越えた私は強い……気が……いや、はずなんで……あの~お姫様?」

 

 真っ赤な目をして、少し鼻の頭を赤くして、加えて微妙な間を作ってしまっている沙美が言っても信憑性ゼロ。

 だが、そんな事は一切見ないふりとばかりに、ファビオが、「えーーーーーーーー」とブーイング。

 

「次~、お嬢ちゃんに会えねぇのかぁ?」

「最初ぐらいは、会えると思うけど??」

 

 ファビオの台詞を受けて、沙美が疑問を投げる。

 

「難しいですね。ナデージュ姫の部屋へ、三人が行く理由を作らないといけません」

「あ…そうかぁ……でも…あたしも、おっさん達と会いたいなぁ……」

 

 「だよなぁ~」と、沙美の頭をぽんぽん叩きながら、ファビオがニンマリ笑う。

 

「どうぜ、俺達の所業なんざぁバレバレなんだからよー。姫さんの部屋へ最初ぐれぇ押しかけようぜぇ」

 

 所業って…腹黒さんと対立して動いている事かな?と沙美は、タオルを握り締めたまま思う。だけど、声には出さない。声に出したら、長達を巻き込んでしまう恐れがある。頭の中で必死になって考える。あれから沙美は、どうしたら、おっさん達を助けられるか、ずっと考えていた。

 

「なら、お前がアレの対応を全部引き受けてくれるんだな?」

 

 もっと楽しそうな声が近くで聞こえた。フレデリクの声。

 

「あー?」

「俺達は、何度もサミとここで会っているよな?」

「あ"~~!!」

 

 ファビオが頭を抱えた。

 

「うっ……その対応を俺が全部しろと?」

「お前が言い出したんだろ?」

「俺は、お嬢ちゃんに会いたいって言っただけだっ!」

「同じ事だ」

 

 沙美は小首を傾げる。不思議そうにフレデリクを見上げた。

 

「アレは、お前の騎士になったな?その騎士を差し置いて、俺達が会っていると知ったら……暴れるぞ」

「……暴れるの?」

「間違いない」

「んでも、今回は二人っきりで話すんだから、それでご破算って事にしちゃえば?」

「おう!それ!それでいこうぜ!!」

 

 ファビオは、「お嬢ちゃん、助かった~」と言いながら沙美の頭をなでなでする。

 沙美は、「えっへっへぇ~」と赤い目のまま、胸をはる。それから、ファビオをじーと見て、次にフレデリクを見た。

 

「あのさー、この世界って階級制度がしっかりしているんだよね?普通、一般庶民は、陰で王様の文句を言っても、目の前に居たら無条件でひれ伏すっていうか…そのー意識に根付いているものって、かなり強いもんなんだよね?」

 

 ローランは、ナデージュの前では丁寧な言動を取っている。羽交い絞めはするけど。そこら辺は、違うけど。でも、彼の普段の態度が普通なはずだと、階級制度がしっかりしていない世界から来た沙美でさえ分かる。

 ファビオとフレデリクの言動は、有り得なさそうに思えた。『姫さん』に『アレ』……目の前に居ても言いそうだ。

 

「俺の場合、ラグエル卿を見ていたせいだ」

 

 そのフレデリクの一言で、十分感じるもがある。沙美は、「あぁ~……」と力ない返答。

 

「あんな、ローランのおやぢみたいなのが、貴族の筆頭。その周辺は、しっかり頭に右へ習え。少しでも常識のある者が、全て後処理で走り回る日々………」

 

 フレデリクの目が、据わっている。

 

「崇める必要性が、どこにある?」

「うわぁぁ………」

 

 沙美は、可哀相とばかりに目の下のフレデリクの頭を撫でる。今まで聞いてきたラグエル卿の話だけで十分に想像がつく、常識のあるほんの一握りの人達の苦労。確かに子供の頃から、ああいうおっさんを見ていたら、階級制度の意識も崩れていくだろう。その態度を笑って受け止めるラグエル卿相手だからこそ、通じるような気はするが。

 そして、沙美はこっそりファビオを見る。楽しそうな笑顔が、自分を見返していた。

 

「俺が、ガキん頃の話だ」

 

 珍しく自分の事を言い出したファビオに、全員が注目する。

 

「俺は、自分で言うのもなんだが、ものすげぇ頭が良かったし、腕は立つし、生真面目なガキだったぜ」

 

 ファビオを除く全員が、こっそりと心の中で「似合わない」と一応突っ込んでいる。実態を見ていた長達は、面白そうにファビオを眺めている。

 

「人に対して声を荒げるどころか、まったく怒らない。まぁ、ものすげぇぶっとい荒縄レベルの理性があった訳だ」

 

 ますます、想像がつかない。

 

「その荒縄が、ぶち切れた。これでもかってぐれぇ、気合入れて、ものすげぇ音たてて切れたんだな。相手は、お偉いさんだった。

 その時、自分に誓ったわけだ。

 これから、自分より腕の立つ者、仕事ができる者、性格が尊敬できる者以外礼儀を尽くす必要はねぇって、な」

「えっと、その三つ全部クリアしないとダメって事?」

 

 沙美の言葉に、ファビオは、「んな訳ねぇーだろ」と、楽しそうに笑う。

 

「なるほど……んじゃデュカス卿は?ものすごーーく仕事出来るでしょ?」

「あのなぁ、お嬢ちゃん、あのおやぢは、俺にとって文官じゃなくて武官扱いだから仕事は剣だ。弱いから却下。それに性格が最悪じゃねぇか。三つクリアする必要はねぇが、性格が尊敬出来るって部分は外せねぇよ!」

 

 そのものいいに、沙美はクスクス笑う。なるほど、徹底していると感心もする。フレデリクが言っていた事例とは180度違いそうだが、同じような結論に達しているのが面白い。そして、こんなガチガチの制度の中で、いくら過去に何かがあったとしても、その枠組みから離れられるおっさん達は、凄いなぁと、今までの凄いに、また一つ凄いを沙美は加えた。

 

「サミ、そろそろ帰らなくてはいけない時間じゃろ?」

 

 オトンヌの言葉にも、笑みが混じっている。

 沙美はコクリと頷いて、フレデリクからおろしてもらう。

 

「んじゃ、この次は、お姫様のお部屋で会おうね!」

 

 ローランの声が紡がれる。

 

「おやすみなさーい」と言いながら、沙美は、心からの満面の笑みを浮かべて手を振っていた。

 

ということで、ナディーヌのお話は、終わりです。

300年前のお話を書いた時点で、もっと書きたかった夫婦を今回、めいっぱい書きました。満足(*´Д`*)

ただ、ナディーヌ、かっこよく書きすぎたかなぁ…とちょっと反省。

まぁ、ナデージュの祖先ですから、これぐらいでよし!と信じています。

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