9 待ち合わせ
公園で真木を待っていた。時計は一時五十分を指している。
宮野との会話の途中で担任が来て、そのまま下校となった。病気に罹っている人が見つかり、対処するために授業は中止にしたらしい。部活動も禁止で、生徒は全員強制的に下校させられた。
これから俺に監視が付くのか。俺のことが徹底的に調べられる。知られている上で行動するのって挙動不審になりそうだ。
宮野とは帰り道が逆のため、校門で別れた。もう少し、宮野の考えが知りたかった。でも、その会話は誰かに聞かれているわけで。宮野を巻き込まないためにも、深く話さない方が良いか。
真木と初めて会った場所の近くにある公園は、昼なのに人はいなかった。結構傾斜のある坂を登らないといけないからなのだろう。トレーニングには丁度良いんだけど。
とりあえず、周りには隠している彼女と会うには都合が良い場所だ。入り口から離れたベンチに座って待っていた。
五分後、坂を上ってくる人が見えた。待ち合わせは二時だから、きっと真木だろう。
「お待たせ」
真木はお淑やかに微笑んだ。
これが外での真木か。髪を耳の下で二つに分けて結んでいる。優等生のように見えて、学校での真木が想像できた。
真木は隣に座って、鞄を膝の上に置いた。
「今日は初めてメールくれたね」
「緊急だったからな」
「私の学校でも集会があったよ」
真木は不安そうに顔を伏せた。膝の上で両手を握っている。
演技なのか、本当に不安なのか。どっちも本当だろう。不安がないはずがない。
真木が狙われているのだから。
「私たちには関係ないけどね。あなたと私は偽物の恋人だから」
「周りに文通相手って言っても信じてもらえないからな」
「ね。恋人って言った方が説明が楽だもんね。あ、せっかく会ったから今回の分」
鞄から手紙を取り出し、俺に差し出した。
可愛い封筒だ。初めて貰うけど、初めてじゃない振りをしないといけない。
恋人ではなく、文通相手。真木の父親から真木との関係に恋人を提案されたけど、そんな演技は出来ない。出来ないことをして不自然になるのは避けたかった。
そこで、真木が文通を提案した。実際何人かと文通しているらしい。その中の一人だということにした。今までの手紙は紛失したという設定だ。今までの関係を示すものは何もない。文通を始めたきっかけとかの設定も決めたし、何とかなるだろう。
このことは、家族には説明してある。昨日の夜、両親に真木のことを話した。両親は俺がクロだとわかっていて、俺が今は落ち着いているから何も言わなかっただけだった。俺が自分がクロだということを知らないことも知っていた。
俺が力を使って死んでしまうところを助けてくれた恩人として、真木のことは守ると言っていた。真木は文通相手で、たまに手紙が届いていたことしか知らないことになっている。家に来たこともないし、どんな子かも知らない。両親からはそれ以上がわからないようになっている。
その設定を考えた真木は、いつから、どこまで想定していたんだろう。
「私ね、留学することになったの」
「良かったな。夢だって言ってたもんな」
「うん。ずっと準備してたからね」
昨日言っていたことを実行したのか。急な留学になったけど、計画の前倒しみたいだ。そうさせたのは俺のせいだけど、真木は笑顔で説明した。