8 全校集会
全校集会の後、教室では新種の病気について噂が飛び交っていた。空気感染する、蕁麻疹が出る、激痛が走るなど、都市伝説のようにバリエーションがあった。死ぬわけではない、という説明だけでは不充分だ。
仕方ないか。本来の目的はクロを見つけることなんだから。全校集会に意味を持たせるだけなら、詳細な説明はいらない。詳しく知りたいなら、インターネットで調べれば良い。実際に調べた奴が、昔流行った病気で、感染は性行為、特に症状は表れないが長期間潜伏後に発病するから若い内に治療した方が良い、治療は投薬で三日あれば完治する、と説明していた。
なんというか。嘘でも俺がその病人にされるというのは嫌な感じだ。思春期の男子になんというレッテルを貼るんだ。ああ、女子も同じか。
一応真木とは清い関係設定だから、感染する可能性はゼロってことになる。真木との関係は他にもいろいろ設定は作っているけど、真実は一つしか含まれていない。
クロとシロとして出会っていなくても、気が合っていただろうということだけだ。
「ヒイロ、何してんだ?」
「メール」
「誰にだよー。他校の奴? 全校集会のことか?」
「そんなところ」
間違ってはいない。真木宛てに、お前のところでも全校集会があったか、病気が流行ってるらしい、病気って何なんだろうな、というような内容でメールを送った。
このメールも見られているのか。俺がクロだから。俺が力を使ったから。
「病気って嘘臭いよな。取って付けたような理由って感じ」
馬鹿そうに見えて、なかなか鋭い。宮野はタブレットをいじりながら、流し読みしている。コイツなら、本当のことを知っているかもしれない。知っていても言わないだけで、言わない方が良いことを知っているとか。
シロなのか。いや、シロよりクロの確率の方が高い。
……考えすぎだ。宮野はただの勘が鋭い奴だ。
「何でそう思うんだ」
「何かを隠したい時、それらしい理由を作って本当のことを隠す。インパクトの強い、興味を持たれるような話題でさ。そういう感じがするってだけ」
「へえ。じゃあ、今回の全校集会の意図は?」
「病人じゃない何かを探すため。校長の後ろにいた奴が怪しい」
そこまでわかるのか。まあ、前提が違っていると考えれば、そこには辿り着くか。でも、あの集会だけでそこまで考えるなんて。確かに急な全校集会は違和感があるけど。
「よくそこまで考えるな」
「嫌なんだ。ああいう目が。確認しているんじゃなくて、観察しているような目。アイツは『病気に罹っている人を探している』って感じじゃなかった。人間じゃない動物を見てるようだった。だから、全校集会を疑って、病気のことも嘘なんじゃないかって」