4 シロの家族
「お父さん、お母さん、話したいことがあるの」
リビングには、真木の両親がいた。丁度朝食をとっていたようで、驚いて動きを止めていた。
そりゃそうだ。娘がいきなり男を連れてきて、話がしたいなんて言い出したら何事かと思う。勘違いされているんだろうな。まあ、どっちにしろ、話す内容は衝撃的だ。
「紹介するわ。葛葉緋色くん」
軽く頭を下げた。両親も、ぎこちなく微かに頭を動かした。
何か違和感がある。初対面の緊張や気まずさではなく、何か違う気がした。
「話したいことっていうのは……私がシロだってこと」
両親は、一瞬動きを止め、その後に深く息を吐いた。
そうか。真木は両親に話していなかったのか。自分がシロだということを、誰にも話さずにいたんだ。俺と同じように。
そして、両親は真木がシロだということに気付いていた。
「わかっていたんでしょ。私がシロだって。一回だけ、訊いちゃったもんね」
「ええ。あなたが五歳の頃、『これって何て読むの?』って訊いてきたあの日から、覚悟はしていたわ」
母親は、辛そうに笑った。五歳の頃、漢字なんて読めなかった。だから、母親に訊いたんだろう。クロに見える単語を。この形の字は何なのか。五歳がそんなことを訊いてきたら、どこで見たんだと疑問に思う。そして、それが人から出ていたものだとしたら。何かで調べて『シロ』と『クロ』という存在を知ったんだろう。『シロ』が希少であること、ましてや兵器になることを知った時、親は何を思うのだろうか。
絶望、なのかもしれない。
「だからか。お前が留学したいと言っていたのは」
「うん。早く日本を出たかった。私がシロだと知られる前に」
「じゃあ、緋色くんは『クロ』なのね?」
覚悟をしていた、と言っていた通り、父親と母親は会話を続けた。真木一家は心の中では動揺しているかもしれないけど、表面上は落ち着いていた。
ああ、違和感はこれか。真木の口調が違うし、家族はお互いに距離がある。シロだということを隠していた真木と、知らない振りをしていた両親。どちらも覚悟をしていたから距離があるんだ。
母親の確信している問いに、頷いた。
「俺のせいなんです。俺が死のうとしたから、シロの力を使うことになって」
「人助けでしょ。私が力を使ったことは後悔していない」
一生隠すつもりだった、と言っていたけど、それよりも人助けで力を使ったことの方が重要だったのか。自分の人生より、他人の命を大切にするんだ。
真木がそうであるなら。真木に救ってもらった命だ。俺が出来ることは何でもしよう。
「これから、クロ狩りが始まるわ」
「ああ、そうだろうな」
父親が同意した。シロについての知識はどちらもあるようだった。娘がどういう立場にあるのか知ろうとしたんだろう。
俺だけが知らない。自分の体質を知っていたのに、それについて何も調べようと思わなかった。何もしなければ問題ないと思っていた。俺が『クロ』という特別な人間だなんて。特別だと思いたくなかったのかもしれない。それを認めると、何かが変わってしまいそうで。案外、両親は知っていたのかもしれない。あの両親なら、何度も原因不明の火傷をする息子を見て何も思わないはずはない。真木の両親のように何も言わないだけで、全部知っているのかもしれない。火傷を診察した医者も、わかっていたのかも。
俺だけが知らなかったから、真木を巻き込んで大変なことになってしまった。
「クロ狩り?」
「あれだけの爆発があって、爆発物がない。だから、クロの力だってわかってしまう。そして、現場にはクロの死体がない。つまりシロがクロを操ったってこと。クロを探すために、政府が動くわ。目的はシロなんだけどね、シロを見つける方法はないからクロを探すの。クロを特定して、クロを操ったシロを探すわけ」