16 海
夕日が海に溶けていく。日本海の水平線は、濃い橙色に染まっていた。
波の音だけが響く海岸で、砂浜に入る境界線に立っていた。
「何を考えているんだ?」
「何も。夕日が沈んでいくなーって」
「なんだソレ」
フハッと宮野は笑った。
何も考えたくないから、ここに来た。何も考えないために、この場所を選んだ。
綺麗だな、とか感動するな、と思ったことはない。海はいつ見ても変わらない。天候や時間で雰囲気は変わるけど、海を見て感じることは同じだった。
緋色に似た色の夕日は、『緋色』の名を持つ俺の心を動かしたりはしない。
「お前が喜怒哀楽を表すことはあるのか?」
「何だ、急に」
「いつもつまらなそうだから」
つまらない、というのは適当ではない。そう見えるのは、感情を高ぶらせないようにしてきた結果だ。
自分がクロだと知ってから、一層それは強まった。
「今は海を見て『ここに来て良かった』と思っているくらいはわかるけど」
「……十分わかっているじゃないか」
「ま、身内に無表情な人がいるから。あ、だからヒイロといるのが楽しいのかも」
宮野は一人で納得していた。無表情な身内に似ていると言われて喜んで良いのか微妙だ。俺には両親以外の親類がいないから、身内というのがよくわからない。
クロだから、感情を揺さぶられるものが少ない方が良いのかもしれないけど。
「……ジ! レイジ!」
少女の声が波の音に混じって響いた。
その声に、宮野は声が聞こえた方へ向いた。
宮野零士。彼女は宮野を呼んでいた。




