1 出会い
目の前には倒れた大木と下敷きになった車。車の中には人影が見える。人影はかすかに動いていた。
登校前のトレーニングで山道を走っていたところで見かけた事故。助けを呼ぶにも携帯電話は圏外だ。
日中でも人通りが少ない道だから、早朝だと余計に人は通らない。騒ぎになっていないから、事故が起こってから通りがかった人や車はないのだろう。
さて、他人の命か自分の命か。
俺はただの事故の目撃者だ。しかも起こった瞬間を見ていないから、事故発生からどれだけ時間が経ったかわからない。走って携帯が繋がる場所に行くには十分以上はかかる。救助が来たとしても、大木を退けるのに時間がかかる。それだけ時間が経つと車の中の人は死んでしまうかもしれない。
いろいろ考えたけど、それは言い訳だ。答えは最初から決まっていた。車から五メートルほど離れ、大木に向けて手を伸ばした。
「燃え」
「箱! 蛟! 楔!」
ろ、と言う前に、言葉が被さった。三つの単語が発せられた瞬間、大木は吹っ飛んで行った。
衝撃はない。体に反動はなかった。
まさか無事でいられるとは。死ぬ覚悟で爆発を起こそうと思ったのに、無傷で思ったとおりのことが起こった。
呆然としていると、後ろから腕を掴まれた。
「馬鹿! 人助けで死ぬつもり!?」
「……それでも良いかな、と」
「あーもう! 一生隠すつもりだったのに!」
イライラと髪を掻く女子は、近くの高校の制服を着ていた。ここは通学路にはならないと思うけど。
女子高生は深いため息を吐いた後、強引に腕を引っ張った。
「とにかく、ここを離れるよ。説明するから、私の家に行きましょう」
有無を言わさないで、女子高生は腕を掴んだまま歩き出した。




