5.「ぶぶへん!」を読んでみる(その4)
※本章の想定レイアウトは、1行あたり約40字です。皆様の環境もそれに合わせて頂きますと、作品がより楽しめると思います。
「…おうふっ!?」
やばっ、変な声出た。
いや、だってさ。
月夜は既に、制服に着替えてる。
俺達兄妹の通う、学園の物だ。
で、それのスカートなんだけど、当然丈は今風。
つまり結構短い。
妹は派手に転び、それも派手にめくれ上がって。
顕わとなったのは、たおやかなる薄布の花。
用を満たしても、なお三角様の花弁一枚。
咲き誇る妹に寄り添い、共に咲く。
ツンと引き締まって、まあるく咲く。
その下の熟しかけの果実をも、優しく包むから。
月夜という少女。月夜という女。ああっ!
彼女の秘めた間が、今、始めて語られている…!
…わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃー。
「ぎゃっ」
文学的? に感動してた俺、死ぬ程驚いた。
迂闊にも、股間のソレを晒してたってのもある。
妹の事故に驚いて立ち上がり、今や無修正。
だが俺を真に驚かせたのは、ソレの挙動だ。
突然、ど派手にうごめきだしたのである。
あられもない、四つん這いの月夜を見た途端だ。
「あいたたた…もう、なに? そんな驚くこと…」
月夜は、心配しすぎよ、と言いたいようだ。
すまん、妹よ。
今の兄、実際過保護じゃいられない。
無理に笑おうとしながら、月夜が振り向く。
あ…
俺と妹。ソレと妹の目が。
今度こそ、かちっと合わさった。
「なっ…!!」
月夜は目をまん丸にした。
ぱくぱく、口がむなしく動く。
息も吐かずに喋ろうとしてるみたいだ。
「な…なんで…?」
月夜は、ようやく喋り方を思い出した。
で、真っ先に言ったことは。
「ネットで見たのと、全然違うよ…?」
「って、そこかい!」
いや違う、突っ込むんじゃなくって。
兄として、捨て置けぬことを聞いたよね。
先ずは妹をたしなめて…ん? もう一度待て。
月夜の気が逸れてるなら、むしろ好都合なのか?
わしゃ。わしゃわしゃわしゃ。
すると、股間のソレが賛意を示すように動く。
短い体節が繋がった、曲げ伸ばし自在な胴体。
そこから左右対称に突き出た、何対もの脚。
この平たい体節、一体幾つあるんだろうなー。
この節くれ立った細い脚も、何本あるのかなー。
ひい、ふぅ、みぃ、よ…
わっしゃわっしゃわっしゃわっしゃ…
指でさしながら、ひとつずつ数えるじゃない。
するとソレが、応えるようにうごめかすんだ。
たっくさんある脚の1本1本を、個々別々に。
「うっわ。なに、その無駄にリアルな動き」
はっ。
月夜の低い、軽蔑しきった声。
現実逃避しかけてた俺は、それで我に返った。
「家族として、あなたの将来を心配します」
思いの外、月夜は冷静だった。
いや。
動揺が過ぎて、1周回ったかしらん。
「気紛れにアメイゾンでポチるの、止めて下さい」
「こんなもん、あのショップでも扱うかっ!」
アメイゾンは、ネットに広がる熱帯雨林です。
その多様性をもってしても、こんな商品は…
てか、扱ってても買わんだろう。普通。
うーむ。
月夜の奴、やっぱり動揺してるな。
「…いいか、月夜。これから真面目な話をするぞ」
事ここに至って、俺はようやく腹を括った。
いや、むしろ、月夜にばれて良かったかも。
何故ならば、理解者を得るチャンスだからだ。
状況は常識から、力強くリフト・オフ。
俺の日常は、星の向こうのなお遠く。
一人じゃとてもやり切れない。
せめて月夜だけは、俺の味方でいて欲しい。
そんな思いが、急に胸に迫ってきた。
だから俺は、真摯に話そうと決めたのだ。
「コレは作り物でも、被せ物でも、何でも無い」
視線をごまかさずに、月夜の目を見て言った。
軽蔑で凍えた瞳に、微かに感情が戻る。
「信じて欲しい。コレは、俺の体の一部なんだ」
「えっ…?」
月夜が絶句した。
こういう時、兄妹の以心伝心は本当に有り難い。
俺の告白の嘘か誠か。
「本当…の…」
月夜は瞬時に、誠と理解したのだ。
繰り返すが、俺は断じてふざけてなどいない。
俺の股間の、この節足動物みたいな奴。
固い殻を纏って、どことなく三葉虫似で。
本当に、前触れは何も無かった。
今朝気付いたら、こいつは生えていたのだ。
俺の足の間に。
元々の持ち物に取って代わって。
いや。そう言うと、両者が別物みたいだな。
より正しくは、俺は部分的変身を体験したのだ。