表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

3.「ぶぶへん!」を読んでみる(その2)

※本章の想定レイアウトは、1行あたり約40字です。皆様の環境もそれに合わせて頂きますと、作品がより楽しめると思います。

「いやっ…!」

 ぎゅるっと回れ右する月夜。

 細い肩が、遠目にもはっきり震えてる。

「…お兄様」

 カチコチの氷みたいな声。

 いやん。

 近寄り難さが消えたなんて、まるで嘘じゃない。

「演技だったんだ…思わせぶりな…要するに…」

 月夜の背が、彼女のもどかしさを語っている。

 高ぶりすぎた感情。

 言葉が上手く出ないらしい。

 …コワイヨ。

「見せ付けたかったのね? 剥き身の下半身を」

「あっ!」

 俺は思わず仰け反った。

 ど、道理ですーすーすると思ったら。

 床でへなっとしている、愛用のトランクス。

 さっきの、カリオストロ式大跳躍の弾みだ。

 あれぇ? そんなにゴム緩んでたかな…?

 いや、取り敢えずそれは置いといて。

 もしかして:

 見られた?

 コレを?

「み、見てないからね!」

 俺の狼狽を見透かしたような慌て方。

 口では全力否定の月夜だけれども…

「だから、はは早く隠して、その、そ、それを…」

 肩越しに、ちらっとこちらを盗み見たのである。

 よりにもよってこのタイミングで。

 見られたと思って、俺は腰を抜かしかけていた。

 腰がすとんと落ちる。咄嗟に足を踏ん張る。

 月夜の目は、四股を踏んだ俺を射たはずである。

「!! ばかぁ!」

 月夜は光速で目を閉じた。

 でもその直前、瞳孔が危険な感じで開いたような。

 ぶんっ。

 心配を余所に、月夜は両腕を唸らせて振り向いた。

 ひーっ。これぞ瞑目・憤怒の相。

 半端ない剣幕に、俺は今度こそ床に尻を落とした。

 頭上を切り裂いていく、刃状の空気。

 たった今、月夜の両腕が発生させたものだ。

「わ、私決めてるんだからね! ずっと前から!」

 はい!? な、何をでしょう。

「思いが通じてから知りたいのっ! そこは!」

「えっ」

「あっ、違っ…!!」

 自分の発言に、心底驚いたといった様子。

 月夜は思わず、目を開いてしまったようだ。

 でも、見たくない意思は固いままだったようで。

 結果、両眼見事な白目がひん剥かれる。

 おまけに顔色は何故か真っ赤。

 …しくしく、コワイヨー。

「…ふふ。おにいちゃん、死んでね。はぁと」

「なぬ!? ま、待て、月夜!」

 話は飛躍してるよね。でも、確実にられる。

 生存本能が、再び俺をして叫ばせていたのだ。

 ちなみに朝から随分騒がしいけど、そこは平気。

 両親は今、仕事で海外に長期出張中なのである。

 両親元気で留守が良い。これもボクらのお約束。

 いや、いきなり何思い浮かべてんだ。

 ん? ああ、もちろん母さんは若々しいぞ。

 高1の妹と並んでも、姉妹と思われるほどにな。

「更にもちろん、月夜に良く似て超絶美人!」

「……そう。また、冗談にしちゃうんだ」

 共犯者Xへ向け、親指を立ててた俺。

 月夜の呟きにぎょっとした。

 声が震えてる。

 演技じゃない。すぐ分かったから。

「おにいちゃん、いっつも…いっつもちゃんと…」

 月夜の頬の弧に沿って、青白い光が走った。

 それくらい唐突だったんだ。

 月夜が泣いて、その一滴が床に落ちたのは。

「私と向き合ってくれない…なんでなの…?」

 人の心には慣性がある。

 今の俺も、急な展開に戸惑って声が出ない。

「きら、い…? 私のこと、どうでもいい…?」

 けどよ、兄貴! 情けねえな!

 馬鹿野郎、しっかりしろ。

 月夜のことが嫌い?

 どうでもいいって思ってる?

 冗談じゃない!

 いっくら頼りない兄貴でも。

 それは堂々、胸張って言えるだろう。

 なら、それを直ぐに伝えなきゃ。

 涙がもう一滴落ちる、その前にだ。

「月夜。誤解させちまって、本当に済まん」

 自然、一世一代の真剣さが出たと思う。

 自身を超えた所作で、居住まいを正していた。

 そして俺は土下座したんだ。

 月夜を思う以外、完全に無になって。

「俺、どうかしてたんだ。その、なんて言うか…」

 うっ。

 全て許されそうな空気が醸された、その矢先。

 俺と月夜の間に、想定外の介入が始まった!

 例の、足の間のアイツである。

 俺は只今土下座中、無論両腿は密着している。

 ソレは強い毛と筋肉に、みっしり挟まれ。

 俄然窮屈そうに、盛んに身を捩りだしたのだ!

 むぁたコイツ、こんな重大な局面で!

 キモイ! だが集中。

 今、今が。正念場。なんだぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ