14.習作を書き直してみた(その2)
※本章の想定レイアウトは、1行あたり約40字です。皆様の環境もそれに合わせて頂きますと、作品がより楽しめると思います。
「お…返事無しと思えば」
やっ、妹の居室未だ夜。
陽介漏らすは安堵の息。
安堵は笑いを誘い申す…
彼の口許も綻びましてな。
思わず、と。
まぁ、人情でしょう。
ところが。
妹はこれが気にくわない。
生来の勘が働きまして。
今、小馬鹿にされた。
勘付いた訳です。
妹はベッドから落ちた。
しかもまだ寝ておる。
そう兄の内心をずばり。
いや、恐いものですわ。
娘の性、勝ち気なりて。
俄に肩の痛みを忘れ。
兄め、軽く懲らしめん。
心は疾く妙案生ず…
小夜子の企みはこうです。
部屋は暗い。
電灯の引き紐は部屋の中。
当然、兄は入ってきます。
彼女は息を潜める。
暗さに紛れて待ち構える。
兄は傍まで来るはずです。
けれど気付かない。
なら、しめたものですな。
部屋に明かりが灯った。
今だ、ぬぅっ。
まさに兄の目の前。
勝ち誇って顔を突き出す。
そら、兄は驚くでしょう。
それで溜飲を下げてやる。
ま、腹積もりはこうです。
さて、兄が闇と同化する。
薄明に照らされる戸口。
そこに浮かぶ姿がですな。
暗い部屋へと進みました。
そろ、そろ。
ぎしり、ぎしり。
小夜子の思惑通り。
手探りで兄は近付きます。
さあ、兄が立ち止まった。
小夜子の直ぐ傍ですわ。
……。
あかん。
吹きそうや。
企みは成功しそう。
しかも兄の服がですな。
こしょこしょ。
頬をくすぐっとる。
錯覚するほど近いときた。
けど、小夜子は堪えます。
兄の動きに集中しますわ。
そしたらですな。
しゅっ、かちっ。
そんな音が聞こえた。
何か。
兄は電灯を灯しました。
引き紐を引きましたやろ。
後のはスイッチが入る音。
先のは擦過音です。
兄の指が、しゅっと。
紐の上で滑ったんですな。
そんなもんまで聞き取る。
全く、えらい集中力です。
部屋は水底より急浮上。
ア、仄明るきから清朗へ。
…蛍光灯、はよ点きや。
………。
よしっ!
小夜子は顔を上げた。
で、一気に立ち上がっ…
ろうとしましたが。
あかんかった。
がっかり。
なんでか言うとですね。
陽介、背を向けとる。
こら見込み違いでんな。
でも、そこは小夜子。
直ぐ次の悪戯を思い付く。
足下に妹おんのに。
兄貴、全然気付いとらん。
彼は意外でっしゃろな。
居る思うてたんですから。
で、戸惑う様をですね。
心ン中で手を打ちながら。
暫く見物したろうと。
ま、飽くまで仕返しです。
賢いけどちと恐い。
それが小夜子なんですな。