1度あることは
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「ようやく一息つけるね!」
部屋はカウンターの横の階段を上がった先の一番手前の部屋だった。
中はなかなかに広く、二人でも確かに過ごすことが出来るだろう。
ベッドが一つじゃなければ。
茜がベッドに座り、俺は置いてあった椅子に腰掛けた。
「……そうだな…なんか疲れたぜ…知らない土地で狼を戦うなんて何処のやらせ番組だってんだ」
「あはは、本当に勝っちゃうんだから剛毅はそこら辺のとは違うよね……ねぇ、剛毅?」
「んだよ」
「ここ、どこだろうね」
「さぁ……なぁ」
それは俺も気になっていた。
図形を組み合わせたかのような模様の蝶、角の生えた兎、音を消す草。見たわけじゃないが欺術という名の魔法じみたもの。
「ドッキリかなんかのほうがまだ納得できる。ここは俺たちの常識とは少しかけ離れてんな」
「うん。お金も国の名前を使った銅貨だった。そんなことしてる国まだ地球にあるのかな?」
「地理には詳しくねぇぞ」
「知ってる。日本語が通じるのが尚更おかしい。ここがなんとか村とかならわかるけど、それなら狼が襲ってくるなんて危険なアトラクションやるはずない。」
「そうだな」
「僕たち……どこにいるんだろうね?」
ポツリと呟いた声は下から微かに聞こえる喧騒に消えた。
不安なんだろう。
声が震えている。
「本当ならさ、馬鹿やりながらデパートで服を見て、アイス食べて、さ。そんなことをしてたはずなんだよね……」
「帰りたいか?」
「……どっちでもいい。今日剛毅が戦ってどうだった?」
「余裕」
「なら、宿に泊まるだけのお金は稼げるじゃん。それならここでも暮らしていける。それに……」
そのあとの言葉は小さすぎて聞こえなかった。
少しの間、下の喧騒の音しか聞こえなくなる。
「……腹、減ったな。飯食いに降りようぜ」
「うん……」
腹が減れば思考もネガティブになる。
まずはなにか腹に入れなければ。
下に降りれば喧しさが増していた。
どうやら宿に止まらなくても飯は食えるようだ。
結構な数の客がひっきりなしに注文している中を案内した娘達が忙しそうに走り回っている。
ちょうど席を立った二人組に席を譲ってもらい座る。
座ればすぐに少女が駆けて来た。
宿をとったときの少女とはまた違う少女だ。
青い髪が特徴的だった。
「お待たせしました!ご注文は!」
「あー……なにがあるんだ?」
「兎のステーキとシチューどちらか選べますよ!」
「じゃあステーキ」
「僕はシチューかな」
「分かりました!飲み物はどうしますか?」
「酒じゃないならなんでもいい」
「僕も」
「それでは少しお待ちください!兎のステーキとシチュー一つ入りました!」
少女はぺこりと頭を下げるとまた忙しそうにあたりの注文を取り始めた。
「青に染めるのは初めて見たぜ」
周りには俺みたいに赤に染めるやつもいたりしたが、大体が金か茶色だ。
茜は地毛らしいが。
「僕もだよ。結構似合う人もいるんだね」
ざっとあたりを見てみれば青の他にも黄色、赤、白、緑と何でもアリといった様体だった。
「むしろお前みたいな茶髪の方が珍しいか?」
「かもねぇ」
「お待たせしました!ステーキとシチューです!飲み物は林檎の果実水ですよ!パンはおかわり自由です
から足りなくなったときは近くの子に言ってください!」
本当に少しの間だった。
急いで持ってきた少女はぱぱっと皿を並べるとまた注文を取りに移動した。
繁盛しすぎだろここ。
「料理も来たし、食べよっか」
「あぁ。いただきます」
「いただきます!」
どうやら食事のレベルはあまり変わらないらしい。
ステーキも香辛料や塩が降られていたし、シチューもしっかり味がついていた。
強いてあげるとするなら、パンが多少硬かったことくらいだ。
まぁ、これだけ注文されているなら作り置きがきくパンは数日置かれたものを出していたとしても納得だ。
茜も俺も1,2回パンをおかわりした。
森までの往復は腹を減らすには十分だったというわけだ。
果実水を飲んで一息つく。
腹も膨れたし後は。
「んじゃぁ……」
「寝るか」「お風呂!」
「「……」」
「風呂あんのかよ」
「聞いてみる!ちょっとすいませーん!」
茜が近くを通りかかった少女を呼び止める。
「はい?なんでしょうか」
「ここにお風呂ってある?」
「お風呂ですか?ここを出て右に歩いていくと銭湯はありますよ?ワルティール銅貨5枚で入れるはずです。それではごゆっくり~」
そう言うとまた移動していった。
「だってさ!行こう!」
「着替えあんのか?」
その言葉に茜が固まった。
家に帰ればいくらでもあるだろうがあいにく帰り道がわからない。
結果、今着ている服が一張羅といっても過言ではない。
「服は一日くらい平気だよ!明日買う!今はお風呂!行くよ、剛毅!」
「あいよ……」
飯食って元気になったのか、バッグを掴むと一目散に外に出ていった。
「おい!先に行くんじゃねぇ!おい、宿の客は外に出ても問題ねぇのか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ。顔はわかりますので」
「そうか」
「はい!いってらっしゃいませ!」
店員に見送られ、外に出る。
夜ということもあって冷えるかと思ったがそんなことはなく、未だに沢山の人が屋台を巡っていたり、店に入ったり出たりと微かな熱気を感じる程だった。
「三軒となりっつってたな。こっちか」
銭湯があると聞いた方向へ歩こうとすると聴き慣れた茜の声が聞こえた。
「はなして!僕は君たちと話してる暇なんてないの!銭湯に行くって言ってるじゃないか!」
「だから~俺たちがもっといいとこの風呂連れてってやるって~」
「そうそう!まーぁー?逆に汚れることになるかもだけどぉ?ギャハハハ!」
この人通りが多い道でポッカリと人が避けて通る場所があった。
どうやらそこから聴こえてくるようだ。
周りを囲んでいる野次馬を押しのけ近づくと茜が見知らぬ男二人にナンパ……?されていた。
お前はトラブルの種だ……全く。
ここまでありがとうございました!
また争いになる予感!?
くどい!と思った人もちょっと我慢してください!お願いしますなんでもしますから!