ちょっとした出来事
なんとか戦闘まで書く事が出来ました!
ヤンキーが無双とまではいきませんが頑張ります。
「ねぇー剛毅ー」
「……」
「剛毅ー剛毅ー剛毅ー剛毅ー剛……」
途中で静かになったのは茜が口を閉じたからではない。
近くの大葉のような草のせいだ。
現に今も茜の口はひっきりなしに動いている。
暫くすると茜の声がだんだんと戻ってきた。
「ぁ……あー……よし!これで15株目だね!」
そう言うと茜は根っこごと取ると土を払い、剛毅のフードに投げ入れた。
どうやら取ってから一定時間経つとあたりの音を消すことはなくなるようで、剛毅も普通にしゃべることができた。
「あぁ……くっそウザかった……」
茜は音無草がある場所を探すためにずっと話していたのだが9株目あたりで話題がなくなってしまった。
そこで剛毅の名前を連呼するというある意味馬鹿ではないかと思える行動に出たのだ。
おかげで15株集めることはできたが、剛毅のストレスがマッハだった。
「はー、もっと楽なもんねぇのかよ……ずっと名前呼ばれるやつの気持ちにもなれよ…うぜぇよ……」
「うざいうざいってひどくないかい!?僕は僕なりに探す方法を考えたのに!剛毅も話題が尽きたら黙っちゃうしで仕方ないじゃないか!」
「……そうだな」
「おざなり!?ひどい!?」
騒ぐ茜を無視して街の壁の方へと足を向ける。
腕時計を確認してみれば5時間ほど経っていた。
日も既に真っ赤になり、山の向こうへ消えていこうとしている。
「もうすぐ日が沈む。帰るぞ。茜」
「うん。わかったよ……ん?」
「どうした?」
「なにか聞こえない?こぅ、グゥーっていうかグルルっていうか」
その言葉に剛毅は動きを止める。
ここは見知らぬ土地だ。
なにが起こってもおかしくはない。
周りを警戒しながら見渡す。
すると気づいた。
森の奥だ。
森の奥から光る目が3対、ゆっくりと左右に揺れながらこちらに向かって進んでくる。
森の中は日が遮られよく見えないが、剛毅の腰の高さほどなのを見るとデカイ野良犬かなにかだろう。剛毅はそうあたりをつけた。
「チッ……茜。そのままゆっくり草原の方に歩け。声を出すな。音を出すな。後これ持ってろ」
そう言うと剛毅はフードの中の音無草を全て茜にもたせた。
「えっ?う、うん……わかった」
こういう時の茜は素直だ。
理由を聞かず行動に移してくれる。
ゆっくりと森を抜け、草原に歩き出した茜とは反対に、剛毅が森の方へと進む。
刺激しないようにゆっくりとパーカーを脱ぐ。
上半身はシャツ一枚という格好になってしまったが構わない。
パーカーを左腕に巻きつける。
野良犬の殺し方は分かっている。
昔、ヤンキーの一人が得意げに語っていたからだ。
頭の中でやけに耳につく野郎の声が再生される。
「こんな感じで、腕に布巻きつけてそこを噛ませるんですよ!んで、噛み付いたやつをぶん殴る!余裕っすよ!」
本当かどうかは知らないが、剛毅自身なるほどと思う部分があったので今回は活用する。
準備を終えた剛毅は前の獣を怒鳴り散らした。
「オラァ!畜生共が!かかってこいやァ!」
突然の怒鳴り声に吃驚したのか、森の奥から姿を見せた。
「……大声を上げれば逃げるって聞いたんだがな、帰ったらとっちめるか」
思考の端に布を巻くとか言ってたやつの横で「犬なんて怒鳴り声を上げてやれば一発で逃げていくっすよ!」とかほざいていた金髪の間抜け面が一瞬浮かんだ。
が、次の瞬間には消え去った。
「とっちめるのはやめだ……犬じゃねぇ……!」
出てきたのは剛毅の腰ほどもある大きさの狼。
それも3匹だ。
先に二匹が出てきて、最後に二匹よりもデカイ狼が出てきた。
相手にできないことはないだろうが、怪我は免れないだろう。
狼たちは油断なく剛毅を見据えている。
どうやらすぐに襲いかかってくるわけじゃないらしい。
こちらの隙でも伺っているのか。
「……っ!?剛毅!?それって」
どうやら不安になって振り返ってしまったようだ。
茜が驚いた声を上げる。
その瞬間。
「GUAAAAAAAU!!」
一番奥のデカイやつが吠えた。
そのタイミングでパッと2匹が散らばり剛毅を囲い込んだ。
「茜ェ!走れ!こいつらを始末してから追いつく!」
「……ッ!わかった!絶対だよ!」
戦力にならないことを理解しているのだろう。
予想外の出来事に一瞬戸惑ったものの、行動は迅速だった。
草を踏む音が遠くなっていく。
正面の三匹は追わなかった。
「ハッ!俺を狩っても十分追いつくとでも思ってんのか!?雑魚共が!」
意味はわからなくとも挑発しているのはわかったのだろう。
「Guuuuuuaaau!!」
剛毅から見て左側に広がった狼が剛毅に食らいつこうと飛びかかる!
それに対して剛毅はパーカーを巻きつけた左腕を突き出した。
ちょうど良く出てきた噛み付きやすい腕に狼はすぐさま噛み付く。
「ッチ!雑魚が!くたばれ!」
どうやらパーカーでは薄かったようで、狼の牙が剛毅の腕に突き刺さった。
痛みに顔を顰めるも、耐えられないほどじゃない。
噛み付いた狼の鼻っつらを思いっきり右手の拳でぶん殴る。
グシャッと鳴ってはいけない様な音を立て、狼の鼻がひしゃげる。
「Quaaaa!?」
突然の痛みに情けない声を上げた狼は噛み付くのを止め、後ろに逃げるようにして下がった。
そしてまた膠着状態に入る。
諦めるという発送は毛頭ないようだ。
「オラ!どうした。さっさとかかってこいよ!ビビったか雑魚共!」
「GUAU!!」
挑発すれば鼻っつらを殴られた狼が飛び出そうと構えるが、正面でこちらをじっと見ている狼の一声で踏みとどまる。
正面のやつがリーダー格なのは間違いなさそうだ。
だからといってすぐさま正面のやつに殴りかかれば横から二匹が襲って来るだろう。
そう考えて剛毅は攻めあぐねていた。
が。
「犬畜生共に俺がビビる理由がねぇよなァ!!」
生粋の喧嘩馬鹿である。
攻めあぐねた自分をビビっていると叱咤し、正面の狼に向かって走る!
「GUUUUUAAAA!!」
「「Gaaaau!!」」
それに対して予想通り、横の二匹が同時に仕掛けてきた。
「しゃらくせぇ!」
多対一は今日経験している。
人間が獣に変わっただけだ。
剛毅はその場でピタリと止まると、また左の狼にパーカーを噛ませ、右から来た狼の首筋目掛けて蹴りをくれてやった。
「Gu……」
剛毅の足に命を刈り取る感触が届いた。
ゴキンという嫌な音を立て、狼の首が跳ね上がる。
そしてそのまま体を弛緩させ、動かなくなった。
「まずは一匹!次はお前だァ!!」
左腕を噛み千切らんと唸りながら必死に牙を立てる狼の横っ腹に蹴りをブチ込む。
バキッと何かが砕ける音がした。
肋骨かなにかだろう。
その痛みに狼が体を捩り、牙が外れる。
目の前の狼は未だ襲いかかってくる素振りを見せない。
ならば、この隙を見逃す剛毅ではなかった。
先ほどの狼と同じように首筋に蹴りを叩き込む。
また、何かが砕けるような音と共に狼が舌を出して崩れ落ちる。
「フゥゥゥゥ……まだやるか?ど畜生」
目の前の狼は剛毅の腰を超えるが胸には届かないほどの巨大なものだ。
目には先ほどの狼たちとは違う知性のようなものが宿っているように剛毅は感じた。
だからこその問いかけだ。
その問い掛けに狼は背を見せ、森へ入っていくことによって答えた。
「ったく……厄日だぜ……そういや、こいつらって金になんのか……?まぁ、とりえあず持っていくか」
成人男性より少し重めの狼を左右の肩に担ぐと茜を追って壁の方へ向けて歩き出した。
「……獣くせぇ」
ここまでありがとうございました!
修正 豪鬼→剛毅