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光のもとでⅠ 第四章 恋する気持ち  作者: 葉野りるは
本編
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09話

「通り道だし、このまま食堂へ寄っていかない? 玲子先輩もどうですか?」

「校内展示?」

「そうです」

「そうね、ご一緒させてもらうわ」

 桃華さんと玲子先輩は迷いを見せずに食堂へ足を向ける。

 私だけが心の中で絶叫していた。

 校内を着物で歩くことですらいっぱいいっぱいなのに、あんなにたくさん人がいるところへこの格好で行くのは素晴らしく抵抗がある。けれども、前を歩くふたりは家に帰ると制服から着物に着替えるという習慣があるからか、着物で動き回ることになんの抵抗もないらしい。街中へ出かける際も、家の用事で出るときには必ず着物ということもあり、人の目を引くのには慣れてしまったのだとか……。

「みんな着物が物珍しいだけだから、あまり気にすることないわよ」

 玲子先輩が背に手を添えてくれたけれど、どうにもこうにも居たたまれない感が半端ない。

 食堂に一歩踏み入れば人の視線がこちらを向いた。

 前を歩く桃華さんはとても着物が似合うし、いつもより数段大人びて見える。加えて美人ともなれば人目を集めて当然のことだろう。

でも、私は違う。人の視線を浴びるたびにチクチクと針のむしろにいる気がしてくる。

 食堂の中は中央の掲示板に人が集まっているものの、もう一ヶ所人だかりがあった。それは図書棟側に設けられている出入り口。

 その中央に見えた人は麗しき美都王子だった。

 にこにこと王子スマイルを振りまき、求められれば握手にも応じる。

 あそこまで自分をさらけ出せる人もすごい。

 いつもあんな感じだけれど、真面目な一面もあったりするのだろうか……。

 じっと見ていると、人だかりに規則性が見えてきた。人が五列に並んでいる。

 確かあそこには投票機が並んでいたはず。

 そこにいるということは、美都先輩はただ愛想を振りまいているのではなく仕事をしているのかもしれない。

 ふと前方に意識を戻すと、桃華さんたちから少し離れてしまっていた。

 早足で距離を詰める。と、食堂の中央にある掲示板にたどり着いた。

 長方形の掲示板が六枚並べてあり、等間隔に写真が貼られている。

 こちら側には、球技大会に参加していた人たちの写真が多く見られることから、技術を競う写真なのだと察する。

 たくさんの写真から選定しただけのことはあり、どれも良く撮れている。

 写真の上には番号を書いた紙が貼ってあり、Aのあとに三桁の番号が振られていた。これらの番号を美都先輩が立っていた場所で入力するのだろう。

 写真を見ていると、加納先輩が撮った写真だろうな、と思うものがいくつかあった。

 ほかにもすてきな写真はたくさんある。けれども、どうしてか加納先輩が撮った写真に目が行く。

 その中でも一際目を引いた写真は、バスケの写真でシュートを決める人がジャンプした瞬間の写真。

 筋肉の収縮した瞬間とでも言おうか。足のふくらはぎに筋が入っていて、汗がキラキラと飛び散る様が美しい。

 一枚はこの写真に決定……。

 メモ用紙に番号を控え、裏面に回る。と、表よりも裏面の方が人が多かった。

 放課後という今の時間は部活動の時間でもあり、休み時間ほど混んではいない。それでも人だかりであることに変わりはなかった。

 人の多さに圧倒され、少し遠巻きにその場を見ていた。

 食堂の中央に展示する、というスタイルは長く続いているものらしい。

 普通なら窓際であったり壁際に貼りだすものではないかと思っていたのだけど、球体を模した食堂の壁面はどこもカーブがかっていて展示に使うには向かないのだという。それに加え、窓を塞ぐと暗くなるから、という理由もあるらしい。

 それではなぜ中央なのか――。

 それは盗難対策だという。中央に設置することで、どこからも見えるため、写真がなくなる被害が減るのだそう。

 本当に良く考えられている。

 少し休み、気を新たに掲示板へと近づいた。

 写真の上に振られている番号がAからBに変わっている。どうやら技術写真がAなのに対し、人気投票はBらしい。

 納得して一枚一枚の写真に目を向ける。と、そこには自分が写る写真がいっぱいにちりばめられていた。

 もちろん私の写真だけではなく、里見先輩のかわいい笑顔や司先輩の勇姿。美都先輩の王子スマイルや海斗くんの人懐っこい笑顔と様々だ。

 それは本当に人気投票のために選定されているのだろうと思える写真の数々で、じっくりと見たいのに自分の写真があるせいでじっくりと見れる心境にはなかった。

 目に付いた司先輩の写真の番号を控えると、早々にその場を離脱した。

 ずっと立っていたから頭がくらくらしているのか、自分の写真に面食らってくらくらしているのかちょっと不明……。

 とにかく人目を気にしなくていい場所でゆっくりと休みたい。

 そう思って桃華さんに声をかけた。

「先に部室へ戻っていてもいい?」

「それなら図書室にいて?」

 どうして、とは思ったけれど、すぐにでもその場を逃れたくてコクリと頷いた。

 図書棟に一番近い出口に向かうと投票機の列に並ぶ。

 待つのかな、と思ったけれど、四人くらい待てばいいだけでさほど時間はかからなかった。

 入力を始めると美都先輩に話しかけられる。

「やり方わかる?」

「えぇと……学生証を通して番号を入力するんですよね?」

「そう。ひとつ入力したら、再度学生証を通してもうひとつの番号を入力してね」

「はい」

 言われたとおりに操作をしていると、

「繁盛してるでしょう?」

 と、王子スマイルで訊かれる。

「はい……。副産物祭りとはよく言ったものだな、と」

「翠葉ちゃん、顔が疲れてるよ」

「……人ごみも視線も苦手で」

「そりゃ、あれだけ写真に写っていれば仕方ないでしょ。実物がいれば実物を見たいと思うのが人の心理だし」

「……先輩はどうしてここに?」

「外部生の子はこのチェッカーの使い方を知らないからね。それをレクチャーするのと、機械が不具合を起こしたときに調整するため」

 やっぱり生徒会のお仕事だったらしい。

 美都先輩と話していると余計に人目を集める気がして、挨拶もそこそこに外へ逃れた。

 テラスに出て深呼吸をする。

 桃華さんには図書室にいて、と言われたけれど、やっぱり図書室に非難するのは申し訳ない気がする。

 位置的には大して変わらないし、図書棟の入り口にいれば見つけてもらえるだろう。

 そう思っていると、図書室の自動ドアが開いた。出てきたのは司先輩。

「休憩していけば?」

「……でも、お邪魔じゃないですか?」

「いるだけなら邪魔にはならない」

 司先輩は私の答えを訊かずに図書室へと引き返す。

 慌ててあとについていき、図書室に足を踏み入れる。

「お邪魔します」

「翠葉ちゃん、いらっしゃい! 食堂すごいことになってたでしょう?」

 里見先輩が寄ってくる。

「はい……。途中から居たたまれなくなって出てきちゃいました」

「まだまだこれからよ~! 今週はきっと告白週間になるから」

 カウンター内にいる荒川先輩に言われる。

 少し中を覗くと、カウンター内にはモニターがふたつあり、四方から撮られているカメラの映像が映し出されていた。

 それには出入り口の部分も映っており、ギリギリ図書棟の入り口までが見える。

 ……あ、だからタイミングよく司先輩が現れたんだ。

 そんなことに納得していると、

「翠葉、ちらほら告られてるんじゃない?」

 荒川先輩ににじり寄られる。

「……え?」

 あまりにも疲れていて床にしゃがみこもうとしたら司先輩に腕を取られた。

「浴衣汚れるからこっち」

 差し出された椅子にお礼を言って座ると、春日先輩がニヤニヤ笑いながらやってきた。

「つまり、昨日みたいなことだよ」

「昨日……?」

 はたと思い出す。

「春日先輩……あの……その……。私、ものすごい勘違いをしていたみたいで……。しかも、勘違いしたまま春日先輩に丸投げしてしまったようで――すみません……」

 ぺこり、と頭を下げると大笑いされた。

「昨日の人間、一ノいちのせって言うんだけどさ、『あの子天然なのっ!?』って言ってたよ」

 天然? さっきもそんなことを言われたけれど、私が知っている天然とは意味が違うのだろうか……?

 そんなことを考えていると、

「何があったのー?」

 モニターからは目を離さずに加納先輩が話しに加わった。

「いえ、なんでもないです」

 私が即答したにも関わらず、

「会長、この子本当に面白いんですよ。付き合ってくださいって言われて『どこへ?』って答えちゃうんですから」

 春日先輩の言葉にその場の空気がピタリと止まった気がした。

「……隙がありそうで案外ないんだな」

 司先輩に真顔で言われたけれど意味がわからない。

「そうね。そういう返事は想定してなかったでしょうから、緊張して告白した側は面食らうわね」

 里見先輩がクスクスと笑い、

「翠葉、いい性格してるっ!」

 荒川先輩と春日先輩はお腹を抱えて笑いだした。

「俺はその男子に同情せざるを得ないかなぁ……」

 加納先輩はモニターを見ながら苦笑を浮かべていた。

 もう、なんて答えたらいいのかわからないから口を噤んでおこう。

 そのとき、帯の中で携帯が震え始めた。

 和装のとき、帯の中はちょっとした小物入れになるのだ。

 携帯を取り出すと桃華さんからのメールだった。

 短く、「図書棟の前にいるから」という内容。

「あの、桃華さんが外で待っているみたいなので、私行きます。お邪魔しました」

 言って椅子を立ち、図書室をあとにした。

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