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光のもとでⅠ 第四章 恋する気持ち  作者: 葉野りるは
本編
18/35

18話

 全国模試の前は中間考査や期末考査と違い、通常の時間割で授業が進む。

 午前授業になるのは前日のみ。

 ただ、先生によっては授業の半分を自習時間にしてくれることもある。

 その時間にわからない問題を先生に訊いたり、模試の対策に使うのだ。

「そういえば、六月一日って翠葉の誕生日だよね?」

 昼休みになると飛鳥ちゃんに訊かれた。

「うん、そうだけど……?」

「さすがにテスト前は無理だけど、テストが終わったらお祝いしましょうね」

 桃華さんに言われてびっくりした。

「本当に……?」

 訊くと、

「こんなことで嘘つくやついないだろ」

 と、佐野くんに呆れられた。

 だって、友達に誕生日を祝ってもらうなんてどのくらい久しぶりか思い出せないほどなのだ。

「テスト明けだと――土曜日の午後か日曜日だな」

 海斗くんが携帯にカレンダーを表示させて言う。

「あ、俺六日は大会だから五日は調整の日で部活が自主練なんだ」

「じゃ、佐野に合わせると五日の午後だね。夕方からなら大丈夫なんじゃない?」

 飛鳥ちゃんが提案すると、

「そうだな。うちの部活も土曜日なら四時くらいには終わるし」

「じゃ、土曜日の四時に昇降口に集合でいいかしら? あとでクラスに連絡網流しておくわ」

 桃華さんが早速、連絡網と称するメールの作成を始めた。

 いつもなら、たいていの人が教室でお弁当を食べているけれど、今は校内展示の真っ最中なので、学食に食べに行く人が多い。

 私たちはというと、校内展示が始まってからは移動教室以外ほとんどの時間を教室で過ごしていた。

 なぜなら、海斗くんもそれなりの枚数を撮られており、この時期はどこを歩いていてもありとあらゆるところから声をかけられるから。

 普段から愛想がいい海斗くんでも、廊下を歩くだけでキャーキャー言われるのは嫌みたい。

 そして飛鳥ちゃんの名リポーターぶりに惚れる人も数知れず。

 どうやら知らない人に声をかけられたり告白されることがあるという。

「あれはあれで私だけど、私の中身を知りもせずに好きなんて言ってくる人の何を信じたらいいんだか……」

 それには深く頷いてしまう。

 私もここ数件あった呼び出しはみんな知らない人で、たぶん、話すらしたことのない人だと思う。

 それで「好き」と言われても、「何をですか?」と訊きたくなってしまう。

 前に司先輩が言っていた、「よく知りもしない人間に好きだと言われても困る」という意味がよくわかった。

 そもそも、人は見ただけで人を好きになれるものなのかな……。

 それを世間では一目惚れというのだろうけれど、できることなら私は中身を知って好きになってもらいたい。


 栞さんが用意してくれたフルーツサンドは保冷バッグに入っていた。

 少し冷たくて食べやすい。

 甘すぎない生クリームとシロップ漬けのちょっと甘酸っぱいフルーツ。

 二切れ食べて残りは海斗くんの胃におさまった。

 サーモスステンレスに入っているスープも半分は飲めたと思う。

 また放課後に残っている分を飲もう……。

 家にずっといるならスープだけでもなんとかなる。

 でも、学校へ来て頭を使い、椅子に座っている状態を維持するだけでもかなり体力を使うということを知った。

 全く食べないで過ごすことなど不可能だ。

 ここ数日で体重が一キロ落ちたので、それ以上は落とせない、と半ば必死な部分もある。

 今日のサンドイッチもカロリー摂取が主な目的だと思う。

 少ない分量で高カロリーを摂れるように、と。

 きっと梅雨になれば、今年も蒼兄が日替わりでアンダンテのケーキを買ってきてくれるのだろう。少しでも私に何かを食べさせようとして。

 ここ四年くらいずっと続いていて、いつしかこの季節の風物詩のようになっていた。


「このあと、秋斗先生のところよね?」

 ホームルームが終わると桃華さんに声をかけられた。

 にこりときれいに笑い、顔を少し傾けると黒髪がさら、と動く。

「透明人間にでもなってその場にいたいわね」

「もっ、桃華さんっっっ」

「会う前からそんなに真っ赤なんだから、本人を前にしたらどうなるのかなんて想像に易くね?」

 海斗くんはケラケラと笑った。

「え? なんの話?」

 と、会話に入ってきたのは飛鳥ちゃん。

 こんな話をされていたら、私の顔が赤くないわけもなく……。

「翠葉、顔真っ赤だよ?」

 机に突っ伏すと、その机の端から飛鳥ちゃんに顔を覗き込まれた。

 ご丁寧にも髪の毛を払われて観察される。

「つか、これどーしたん? 首まで赤いけど」

 佐野くんの声も加わった。

「初恋にじたばた中ってところかしらね」

 桃華さんが答えると、

「え? 相手は藤宮先輩?」

 飛鳥ちゃんに訊かれてむくりと起きる。

「どうしてそこに司先輩が出てくるの? 朝、桃華さんも同じこと言っていたけど……」

 疑問に思ってふたりに尋ねてみる。と、

「だってねぇ……?」

 飛鳥ちゃんが桃華さんを見る。と、桃華さんも「ねぇ?」と佐野くんを見た。

「なぁ?」と佐野くんは海斗くんを見るので、海斗くんに視線を向けると、

「ま、誰もがそう思ったわな」

 と、笑う。

「だから、どうして?」

「翠葉、覚えてる? おまえ、球技大会のときに、散々今みたいに赤面してたろ?」

 そう言われてみれば、そんな気がしなくもない。

「で、藤宮先輩じゃなければ誰なの?」

 飛鳥ちゃんに訊かれて黙っていると、

「そしたら、もうあとひとりしかいないじゃん」

 と、佐野くんが口にした。

「あっ、秋斗先生!?」

 飛鳥ちゃんの通る声に再び体温が上昇を始める。

「飛鳥ちゃん……声、大きい。っていうか、お願いだから名前出さないで――心臓壊れちゃう」

 これから図書棟へ行くことを考えるだけでバクバクと鳴りだす始末なのに……。

 会える嬉しさと、このどうにかなってしまいそうな心臓。

 会ったときのことはあまり想像したくない。

 手にしていた携帯のディスプレイを見ると、脈拍はすでに九十五と表示されていた。

 すると、その携帯が突如震え出す。

 ディスプレイには"藤宮秋斗"の文字。

「きゃぁっ」

 思わず携帯を手放したら机から落ちそうになり、海斗くんが抜群の運動神経でキャッチしてくれた。

「翠葉さん、きゃぁ、って……。秋兄から電話が鳴っただけじゃんか。出るよ?」

 言われて、コクコクと頭を縦に振る。

「もしもし? ――悪いね、俺で。――目の前にいる。え? 脈拍? ――あぁ、ただいま絶賛動揺中だからじゃね? 大丈夫だよ。元気っぽい。――うん、。すぐ連れていく。じゃ」

 なんだったのかな……?

「脈拍が速いからどうした? って。ひどいよねぇ。俺が出たら、『なんでお前が出るんだよ』って言われたけど?」

「それにしたって……これだけわかりやすいやつも稀だよな」

 佐野くんに珍しいものでも見るような目で見下ろされる。

「佐野くん、それ、嬉しくない……。誰かにポーカーフェイスの仕方を今すぐ伝授してほしいくらい」

「こりゃ重症だね」

 飛鳥ちゃんに頭をよしよしと撫でられた。そして、何かを思い出したように教室内を見渡すと、

「理美ーっ! カモーンっ」

 どうやら理美ちゃんを探していたみたい。

「何なにー?」

 バスケで鍛えられたフットワークで、机を器用に避けてやってくる。

「好きな人の前で上がらない方法を翠葉に教えてあげて?」

「ん? ……そうだなぁ、あえて言うなら、気持ち全開で接すれば上がりようがないよ?」

 気持ち全開で接する……?

「理美ちゃん、どういう意味?」

「相手が好きな人って思っちゃうと上がっちゃうし動揺しちゃうけど、最初っからあなたが好きです! って状態で接すれば気持ちを隠してる部分がないから上がりようがないって話」

 にっこりと笑われたけれど、極論すぎて真似はできそうにない。

「鹿島、それってただ開き直るってのとどこら辺が違うわけ?」

 佐野くんがズバリと指摘すると、

「だって、好きって気持ちなんてそもそも隠すようなものじゃないじゃん? こんなの隠すよりも知られてなんぼの世界よ?」

 ケロリとした答えに絶句した。

「理美は相変らずね。でも、私もその意見には賛成。好きなら好きでいいじゃない」

 桃華さんが壁に寄りかかり、自信たっぷりに言う。

「そういうものなの?」

「ま、気づかれてないならともかく、気づかれてるんだったら隠す必要なくね?」

 海斗くんにもそう言われて、何が正しいのかよくわからなくなってしまう。

「そう、なのかな?」

「ほら、たとえばコレ。佐野がいい例じゃん?」

 海斗くんが佐野くんを指差し、なるほど、と納得した。

 私と海斗くんのやり取りに周りが湧き。飛鳥ちゃんは若干恥かしそうに顔を赤らめ、佐野くんは、「どうしてここで引き合いに出されちゃうかね?」と海斗くんを呆れ混じりに睨んだ。

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