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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

超能力とか魔法ってそんなにいいもんじゃないと思った。




 憶えているのは、迫ってくる黒と母の必死な顔。少女はそれ以上記憶を思い出すのを拒否した。




 (いやあ、まさか転生なんて体験するとは思わなかったなぁ)


 絵里は自分の部屋でくつろぎながら、今まで起こった出来事を整理していた。

 前世の記憶がよみがえったのは絵里の5歳の誕生日の時だった。誕生パーティーの最中に突然尋常ではないほどの激しい頭痛が絵里を襲い、次に目が覚めたら今度は39度の高熱を出して一度は生死の境をさまよった。


 無事一命を取りとめた絵里が目を覚ました時には他人の記憶を有していた。最初はそのことに驚いて錯乱したものの、時間が経つにつれて落ち着いていった。その頃にはだいぶ自分について考えられるようになっており、いま記憶の整理をしている最中なのである。


 思い出したことはほとんど面白味のないことばかりだった。自分がそこらへんの公立高校に通う一男子生徒で特筆すべき点は一切無かったこととか、最後に死んだ時も別に轢かれそうな子供がいたから助けたとかそんな誇れるものじゃなくて運悪く信号無視の車にタイミング良く突っ込んでしまっただけである。ちなみに、自分の前世について少し期待していたため、死因についてはものすごいショックを受けた。


 ショックから立ち直った絵里は前世の記憶についてはこれ以上詮索しないほうがいいと判断し、次に現世のことについて考えだした。生活環境は多少便利なものが多いものの前世と大して変りはない。家族構成についても、父と母に今年で3歳になる妹がいるくらいである。しかし、前世とは決定的に違うものが現世には存在していた。異能のことである。


 異能とはこの世界に古くから存在し、最近になって研究が加速して核に代わる抑止力にさえなった、いわゆる超能力のことである。


 この異能には二種類のタイプが存在する。


 1つめは軌跡型と呼ばれていて、このタイプに分類される異能は必ず『ある条件に一致しない限り決して発動することができない』という特徴を持っている。異能としての強さもバラバラであり、弱い能力はとことん弱い効果しか発揮できないが、強い能力は使い方によっては核にも勝る力を発揮する。


 2つめは領域型と呼ばれている。特徴は『自然界にある物質を媒体として発動し、領域と呼ばれる特殊な固有力場を展開できる』というところである。領域とは、その名の通り使用者が支配する空間のことであり、この領域内では自分以外の異能はタイプに関係なく能力が大幅に弱体化する。同じ領域型の場合は媒体が出せなくなるため、領域外にある媒体を使わなければいけなくなる。希少な媒体を使う場合は領域内に取り込まれた時点で敗北決定間違いなしである。


 ただし、こちらも領域を展開すればまた媒体を出せるようになるため、領域型の真価とはつまりこの領域をどれだけ相手より支配できるかにかかっている。これを領域支配能力といい、この能力が高いと自分の領域が遂には1個の異界になるまで支配できるようになる。異能の強さも安定していて、領域型の場合はそのほとんどが強力な異能ばかりである。


 「そういえば、今度能力測定に行くんだっけ。……異能か。やっぱ使うなら領域型がいいよな。軌跡型って一種の博打みたいなもんだし。下手すると攻撃どころか何もできない異能とかあるらしいし」


 絵里は今度行くことになった能力測定にわくわくしていた。男子ならば超能力や魔法は一回は使ってみたいものの1つである。現世ではもう女になってしまったが、それでも使ってみたいという気持ちは変わらない。早く能力測定の日は来ないかと思いながら、絵里は新しい異能についての本を開いた。



 さて、今日は待ちに待った能力測定の日。絵里は母に手を引かれながらはしゃいでいた。


 (能力測定の日キター!! どんな能力かな? やっぱ領域型かな? 軌跡型だったらすごくやだなー)


 絵里は自分の能力がどんなものか想像して、早く着かないかと思いながら歩いていた。そんな絵里の様子がおかしかったのか、母がニコニコしながら笑っていた。


 その日は、自分の能力が分かる特別な日。この世界に生きる人にとって最初に経験するビッグイベントであり、絵里にとっても楽しい日になる……はずだった(・ ・ ・ ・)


 最初に異変に気付いたのは前を歩いていた青年だった。


 「ん? 何だあれは?」


 それ(・ ・)は最初はただの点だった。それは次第に輪郭を見せ始め……


 「な! 暴走車!」


 それの形がはっきりした時にはすでに手遅れだった。車は狂ったかのようなスピードでこちらに突っ込んできた。青年はとっさの判断で避けることができたが、後ろにいた絵里たちは間に合わなかった。


 「ひっ!?」

 「絵里!!」


 そこからは、スローモーションのようだった。母が必死の形相でこちらに手を伸ばし、自分を突き飛ばす。そこに黒い車が走ってきて、


 (や、やめて。やめてよ! お願い止まって! 止まれ! 止まれ! 止まれよ!)


 母が自分の代わりに車の前に躍り出た。


 「止まれーーーーーー!!!!」


 絵里の必死の叫びも空しく、車は母を轢いた。


 「ごっ」


 母の最期の言葉はそれだけだった。


 絵里はその瞬間思った。今のは母は前世の母とは違うけど、優しくて大らかで将来は自分もこんな素敵な人になりたいと思うような人だった。


 「あ」


 いつも笑ってて、叱る時も絵里のことを心配して泣きながら叱ってた。


 「あ、ああ」


優しくて、暖かくて、大好きな人。間違いなく母親だと言える人。その人が、


 「うぁっ、あ!」


 絵里の目の前でグシャグシャになっていた。


 「ぁぁぁああああああああああああああああ!!!!」


 絵里の意識はそこで暗転した。





 西暦2072年5月14日、愛知県岡崎市にて大火災が発生。すぐに救急車が駆けつけたが、炎は弱まる気配を見せずさらに拡大していった。水の媒体を使用する領域型の異能を保有していた消防士が異能を発動しようとしたところ、異能が使えないことに気がついた。そこでやっとこの炎が異能によって引き起こされていると分かりすぐに領域を展開。しかし、今度は領域も展開できないことがわかった。慌てて領域支配能力が一番高い消防士に領域を展開するよう要請したところ、その消防士すら領域が展開できない状況に陥っていた。


 そうこうしているうちに炎は燃え広がり、辺り一帯は異界となっていった。後に、生還した消防士は半狂乱になりながらもその時のことをこう語った。


 『アレは地獄そのものだった』


 炎は発生から1時間で消えたものの、死者は千人にも昇り辺りは焼け野原になったという。その焼け野原の中心で、この大火災の発生原因と見られる十歳にも満たない少女を確保。その後、能力測定が行われ、正式にこの少女を大火災の発生原因と認定。そのあまりにも強力な領域支配能力と炎という媒体から『劫火の魔神(イグニス)』の称号が与えられ、その名は世界中に広まっていった。


 奇しくもそれは、少女が一番欲しいと願っていた領域型の異能だった。


 大火災によって多くの人殺してしまった責任と家族を亡くしたショックで精神崩壊寸前まで追い詰められた少女の名は、鬼道絵里といった。

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